2025年1月9日 未明


ソウル・ノンヒョンドン 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理職まで勤務。退職3年。

 

「消えたカード、残ったカード」

 

 

ブラックボックスは、消した可能性がある。
そもそも、取り外したのかもしれない。
残っているものを確認すればいい。
カードが、もう一枚ある。

 

午前2時。
アラームをセットし、1時間だけ眠った。
集中のあとのテキストのおかげだ。
自覚していなかった緊張と、リラックス。
もう十分だ。

 

20cmの隙間を確かめる。眠っている。灯りはついたままだ。
平然としている。
けれど、つま先を上げた瞬間、呼吸が荒くなる。
一瞬、息を止める……
そして、夫のジャケットから鍵を抜き取る。
もう一度、少し止まる。
わざと、夫の額に手を置く。
起きるだろうか。
起きていないなら、安心してほしいという気持ちで。

 

ソファで、たった10分だけ待とう。
もし起きていたら、出ていく音が聞こえるかもしれない。
長い時間だ。
押し出されないためには、確認し、準備しておく必要がある。

 

エンジンをかけ、バッグを開く。
テープで、指紋が残っていそうな二か所を採取する。
ギアも採取する。
けれど、
ここは適切な場所ではない。

 

出発する。
塾の前のコーヒーショップが見える場所へ向かう。

 

私が見ていた、あのアングルが出る位置に
正確に車を停める。
息が詰まる。ハンドルより、心臓のほうが震えている。
わざと触れていた興奮も、
睡眠も、十分ではなかった。
震えが収まらない。

 

あってほしい。
いや、ないでほしい。

 

ブラックボックスに、手が伸びない。

 

少し、コーヒーショップの方を見る。灯りは消えている。
でも、この角度なら
正確に思い出せる。あの日の昼、見ていた場面。
現時点で、99.9999%の確率だ。
あの日、あそこに停まっていた車は
この車だ。

 

抑えきれないほど震え、全身に力が入る。
手が先に入る。目を閉じる。深く入れる。
動きを大きく取る。意図的に。
5分でいい……
……
少し、落ち着いた。

 

ブラックボックスに、メモリーカードはない。


当然だ。
この時点で、確定だ。

ベルトを外し、持参した自分の指紋を見る。
五本の指の形を、すべて目に刻む。
全部、違う。

 

本格的に、可能な限りすべての場所の指紋を採取する。
知らず知らず、彼女の動きが予測される。めまいがする。
助手席から、夫へ向かう動きも浮かぶ。
それでも、最後まで続ける。終えた。
早く、戻りたい。

 

こんなにも、また濡れることがあるのか。
太ももと足先がつるほどだ。
シートに染みるほど、下着が濡れている。
こんなはずがあるのか。

 

でも、
この角度は、あの日
この車がいちばんよく見えていた
その場所だ。

 

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

 

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)