2025年1月16日 夜
ソウル・ノンヒョンドン 観察ログ
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目、5歳の男児
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理職まで勤務、退職後3年
「データセンター」
髪も石鹸で洗う。
体の匂いは、最小限でなければならない。
汚染なく採取するためだ。
今、その部屋にある匂いと
私の匂いが混ざってはいけない。
夫が
いつ戻るか分からない。
急がなければならない。
裸のほうがいい。
寝室の変化した空気に触れる
体の接触面を、最大限に広げる必要がある。
ローションは塗らない。
乾いて、ざらついていたほうが
吸収して、感じ取れる。
今の私は
寝室にある
空気のデータを
採取するために
自分の身体を投入している。
自分の身体が
何を感じるのかは分からない。
けれど、
どれだけ洗い流しても
流れるものは
止まらない。
子どもが眠っていることを確認する。
ジッパーバッグを二つ
用意し、
寝室のドアノブに手をかける。
髪を束ね、
最後にパッドで拭き取る。
少しずつ、流れていた。
裸で立つ。
ドアを開ける。
夫のベッドが、先に入ってくる。
ベッドの端。
ドアのほうを向いた
二つの角。
布団は、
触れた形跡もなく
整っている。
ヘッドボード側は、
さらに整っている。
すべて、整列している。
普段、夫は整列させない。
私のベッド。
四つの角。
最後まで、
整っている。
寝具も。
けれど。
ヘッドボードから
約50センチ。
起き上がるとき、
自然に
身体が止まる位置。
ヒップの場所だ。
その部分だけ、
わずかに沈んでいる。
つま先に
力が入る。
心拍数が
上がる。
「……」
身体の重心が高い。
腰を
少し落とす。
空気の密度を
乱してはいけない。
かかとも
立てる。
大きく息を吐き、
呼吸が止まる。
敏感に、
けれど空気の整列を
崩さないように。
部屋の奥へ
深く
入り込む。
緊張のせいで、
呼吸が
少しずつ
漏れる。
今は、
ゆっくり。
部屋の空気を
少しずつ
受け入れる。
私の体臭が
減っている。
はっきりと、
減っている。
今の私の占有率は4。
彼女と夫は、5と1。
息が破裂しそうだ。
まだ、耐える。
確かな証拠はない。
だが、
疑念の検証は
完了直前だ。
いま。
封じて、
残さなければならない。
密閉容器を開け、
口を大きく広げる。
夫のベッドの布団を持ち上げ、
ジッパーバッグの内側へ入れる。
布団を丸め、
空間を作る。
覆う。
心臓が
張り裂けそうだ。
一分だけ。
私がいなかった
寝室の空気の占有率。
私、彼女、夫。
4:5:1
この比率が、封印された。
いま、
証拠を封じる番だ。
我慢していた息が
一気に吐き出される。
[観察メモ]
私の心理。
私の身体の反応。
身体が
日常を受け入れていく
感覚の高低。
これが、
物語の進行である。
Ennd
by N≠N
・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 6「確認 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 8「有能感」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)