2025年1月17日 昼。


ソウル、ノンヒョンドン 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。

 


 

父のアングル #2

 

私は
乗れない。

 

キャメルコートの彼女は
コーヒーを二杯、両手に持っている。
ドアを開ける手がない。

 

それなのに、
開いた。

 

夫が開けた。

 

ゆっくり
コーヒーをルーフに置く。
視線は信号機の上のCCTVへ向かう。

 

静かに
両手を胸元に寄せる。
人差し指と親指を組み、
拳銃の形をつくる。

 

音を立てず
片手を90度に折り、
四角いフレームをつくる。
窓ガラスに密着させる。

 

腰を落とし、
フレームの内側へ
車内を覗き込む。

 

ここからだ。
見える。

 

運転席の夫が
明るく笑い、
ベルトを外す。

 

フレームは
一歩、後ろへ退く。

 

夫は腰をかがめ、
臀部を持ち上げる。
手を伸ばし、助手席のドアを
開けてやる。
フレームは
その動きごとに
焦点を合わせる。

 

キャメルコートの彼女が笑う。
コーヒーを持ったまま
車に乗り込む。

 

停止。

 

フレームを止める。
私は
高さに合わせて腰を落とし、
ゆっくりと首を回す。
カフェを見る。

 

ある。
カフェのCCTV。

こちらを向いている。

 

そこに
今のこの場面が
この構図のまま映っている。

 

胸が高鳴る。
手が震える。

 

再び
車に密着し、
車内を見る。
息が止まる。

 

夫が
コーヒーを受け取る。

 

片手が
彼女の太ももに置かれる。

 

肩の後ろ、
ブラジャーのラインを
軽く押し、
撫でる。

 

ストラップに押された跡が
手に残るほど。

 

湿り気を帯びた彼女は
高ぶった感覚を隠すように
微笑む。

 

ベルトを締める夫の肘が
彼女の胸に触れる。

 

一瞬、
押される。

 

彼女は
両手で
太ももの内側を押さえる。
膝が寄り合う。

 

ぴりっとする。

 

「だめ。」

 

このままでは
大通りのCCTVに
濡れたスラックスを履いた
私の姿が
保存されてしまいそうだ。

 

早く
車に乗らなければ。

 

あと五秒見たら、
耐えられなくなりそうだ。

 

車内へ
急いで乗り込む。

 

達成感だろうか。
有能感のせいだろうか。
それとも、
熱いコーヒーを
太ももにこぼしたのだろうか。

 

指を入れる前に
運転席のシートに染み込む。
床へ
流れていくようだ。

 

夫と
キャメルの彼女の姿を
手に収めただけなのに、

 

どうして
こんなにも
官能的なのだろう。

 

私の姿も
保存された。
カフェのCCTVの中に。

 


 

[観察メモ]


誰かにとっては不快な行為でも、
観察され、記録される瞬間、
それ自体が官能となる。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)