いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、はるやまち様からお与かりした記念リクエストの第二部続きをお届け致します。
オレンジカラー・ナンバリングは二部の意。
前話こちら【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 ・17 ・18 ・19 ・20 ・21 ・22 ・23 ・24 ・25 ・26 】
■ ウィークエンド・シンデレラ ◇27 ■
「 じゃあ、俺達は部屋に戻るから 」
言って社がキョーコに向けて手を上げた。キョーコは社と蓮に頭を下げた。
「 ありがとうございます。すみません、一人で見たいなんて我が儘を 」
「 そんなの別に平気だよ。ちなみに俺、寝ちゃうから。もし何か話したいことができたときは明日にしてね、キョーコちゃん 」
「 はい 」
「 最上さん。俺はまだしばらく起きているつもりだから、何かあれば声をかけて? 」
「 分かりました。何かあれば・・・お声がけします 」
パーティで疲れたのだろう、蓮と社はそれぞれ部屋に引っ込み、キョーコだけが居間に残った。
社から手渡された、蓮と前のパートナーとのダンス映像が収まったUSBを右手で握りしめたキョーコは、大きく唾を飲み込んだ。
意図的に見ないようにしていたのは事実だった。
けれど最初は特に深い意味などなくて、単に興味が沸かなかっただけのこと。
急激に意識したのはダンス雑誌のバックナンバーを目にしてからだと分かってる。そういえばそのとき知ったのだ。
蓮の以前のパートナーの名前が、森住仁子というらしいことを。
緊張が浮かんだ。
息の合ったペアとはどんなダンスをするのだろう。それは自分と何が違うのだろうか。
テレビにセットし、映像を再生する。現れた画面内の様子から、それは競技会に参加した時のものらしいと理解が及んだ。
種目は雑誌に載っていた通り、やはりモダンのようだった。
「 ・・・・・ふぅん。こんなかわいい感じの人だったんだ 」
森住仁子と思われる彼女がアップにした髪型は、まるで東洋版シンデレラのようだった。ただそれだけの事なのに、何だかもやもやした気分になる。
彼女は笑顔が華やかな女性で、奏江が言っていたように自分とは全然違うなと思った。
蓮の王子顔に負けず劣らず、見栄えするペアだ。
一組ずつコールされながらスポットライトを浴びてフロアに出てきた様子から、どうやら最終戦らしかった。
思わずキョーコは眉を顰めた。
「 そうよね。よく考えなくてもあのセリフを聞けば誰だって思いつくことじゃない。それに自分が気づかなかっただけ 」
蓮は経験済みだったのだ。
スポットライトを浴びながらフロアに出るあの快感を
彼は前のパートナーととっくに経験済みだったのだ。
「 私は今日初めてだったけど・・・ 」
心の中がモヤモヤする。やっぱり観たくないと思った。思ったのに、それでもキョーコは続きを見た。
場に静粛が生まれて、ひととき静寂に包まれた。
やがて音楽が流れ始めると一斉にダンスが始まった。
「 あ!! 」
キョーコはテレビ画面に食い入った。
そこには貴島・琴南ペアも映っていたのだ。
映像は特定のペアだけを映し出すことはせず、フロア全体を撮っているものだった。
「 ・・・っ・・・ 」
蓮・森住ペアを観なきゃと思っているはずなのに、視線が勝手に揺れ動く。気づけばキョーコは貴島・琴南ペアを凝視していた。意識して目を反らしている訳ではないのに。
二人のダンスを観なきゃ、と繰り返し、繰り返し何度も再生したけれど、見続けるのは難しかった。
「 逃げてないわよ、私。だってちゃんと見ようと思っているもの 」
振付はちゃんと音に合っているし、ルーティンもミスなく踊れているように見える。自分もやっているからその技量の高さは嫌というほど理解できた。
なのに視線を集めるに至らない。その理由は明白だった。二人のダンスがバラバラなのだ。
何を表現したいのかがこちら側に伝わらない。
そのダンスはまるで、こんなに踊れる様になりました・・・と、発表しているだけにしか見えなかった。
「 そういえば貴島さん、言ってたっけ・・・ 」
蓮と社のダブルスが始まってすぐ、貴島がキョーコに近づいた。
彼はこんな話をしてくれた。
『 さっき言ってたモダンの帝王ってあだ名がついた理由を君にだけ教えてあげるよ。あのね、敦賀くんって、全然ニコリともしなかったのよ。ダンスをしている時も終わったあとも 』
常にそう。その雰囲気がまるでモダンの帝王になったつもりかよって感じだったから、誰かが皮肉を込めてそう呼び始めたんだよ・・・と。
「 あ、分かった!敦賀さんが全然楽しそうに見えないんだわ。それは一見笑顔を浮かべているこの子も同じ。そもそもこの二人ってばお互いがお互いを全く見ていないじゃない。・・・確かにダンスは完成されたものだけど。
まるで機械人形がダンスをしているみたい。だからときめけないんだわ。せっかく美男美女で踊っているのにぜんぜん素敵に見えてない 」
「 ・・・だよね 」
「 え!? 」
息をのんだキョーコが振り向くと、ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいる蓮がいた。
驚きすぎてキョーコは大きな声をあげてしまった。
「 なんで敦賀さんがいるんですかっ!?いつから・・・ 」
「 さっきコーヒーを飲もうと思って入って来たんだ。かれこれ20分ぐらいは経っているかな 」
「 声ぐらい掛けてくださいよ! 」
「 かけたよ?でも気付いてもらえなかったからそれでいいかと思って 」
「 ・・・っっっ!! 」
「 ところで、いま君が言った通りなんだよ。この頃の俺はただ上を目指していた。ちなみに自分の技術や技量に絶対の自信も持っていたんだ。だから自然とそういう踊りになっているって、社さんから良く注意されていた。お前はパートナーを全然見ていないってね 」
「 ・・・でも、それって敦賀さんだけじゃないですよね。このパートナーさんだって同じです。自信満々で踊っているのが伝わってくるのに、二人のダンスに一体感が全然ない。観客にアピールするので精いっぱいって感じ。敦賀さんも、この人も 」
「 そ。俺たちは共に自己アピールしたい者同士が組んだ、息の合ったペアだと言われた。それでどこまで上がれるのか見ものだっていう不名誉な注目を浴びたんだ 」
「 え? 」
「 恐らくCからBには上がれても、それ以上は無理だろうってね。実際、その通りだった。それで、パートナーが面白くないから辞めるって言い出して。
もともと異性の注目を浴びる目的でダンスを始めたのが最初だったから、それが出来ないんじゃ踊る意味が無いって言ってね。本当に、モテるのが全てってコだったから 」
「 呆れた。それがセパレートした理由ですか 」
「 俺も俺で特に引き止めたい理由も無かったからそれでいいと思った。俺は上を目指していたのに練習すら適当だった彼女には嫌気がさしていた時期でもあったし 」
「 それで?敦賀さんは今度こそ上を目指せる相手をパートナーにしようと考えて、自分で育てることにしたって訳ですか 」
「 そうだね。正直に告白すると君をダンスに誘ったときはまだそういう自分だったよ。上を目指せるパートナー。確かに俺はそんな相手を求めていた。でも、変わったんだ・・・ 」
「 変わった? 」
「 変わった。君と初めてダンスをした日。あの日の君の笑顔が簡単に俺を変えてくれた。
初めてのダンスで戸惑いながら、けれど楽しそうに踊る君を見ていたら、自然と楽しいなって俺も思えた。もちろん、大会に出場する以上はちゃんと結果は残したいと今だって考えるけれど、だからって踊りを楽しむっていう根本的なことを疎かにしたくないなって。それを、ダンスのことを何も知らない君から俺は教わった。
だからね、今の俺は、君を見つけることができた自分を褒めてあげたい気分なんだ 」
「 ・・・褒め殺ししたって何も出ませんよ? 」
「 そんなつもりないよ 」
「 でも、敦賀さんが言いたい事、ちょっとだけ分かります。ダンスって不思議ですよね。
例えばお客さんに向かって、ほら僕たちすごいでしょ、楽しそうでしょ?・・・って感じで踊っているのと、二人でダンス楽しいね!・・・って感じて踊っているのって、全然違うと思いますから 」
「 そう? 」
「 実際、そう思いました。私なら、あなたと踊れて楽しい!っていう二人を観ていたいなって。それで気づきました。貴島さんと琴南さんペアがそうだったんです。
そう言えば貴島さん、自分のパートナーさんをこう紹介していらっしゃいましたよね。極上のパートナーですって 」
あれはきっと本心なのだ。そのウキウキした気持ちが、観客である自分に伝わっていたに違いない。
少なくとも、敦賀・森住ペアのように、俺達上手いでしょ、とか、カッコいいでしょ、とか。そういうアピールでは少しも胸を打たなかったのだから。
「 そっか・・・ 」
競技会出場に当たって、キョーコが登録種目にラテンを選択した本当の理由は、前のパートナーに対抗してとか、蓮がスキップビート選手権を目指していたことを知ったから、などという理由では全くなかった。
ただキョーコはひたすら悲しかったのだ。自分がまぁまぁなパートナーと称されたことが。正直、憤慨するほどに。
だからラテンを選択した。
スタンダードを選べば常に蓮と手を取り合わなければならない。
腰を支えてもらう姿勢に終始しなければならないから。
しかしラテンは二人が離れて踊るのが基本形だ。
だからラテンを希望した。
キョーコは闘志を燃やしていた。そのつもりだった。
でもそれは、いま思えば取るに足らないちっぽけな見栄やプライドだったのかもしれない。そんなつまらない想いだけがくすぶり、いつの間にか自分を不調に陥れていたのだ。
足元を見失うって、案外簡単で誰にでも出来ることなのだ。
「 最上さん。これは社さんがよく言うことなんだけど、ペアダンスには3つのタイプがあるんだ。一つは男性の踊りが中心のカップル。もう一つは女性を躍らせるカップル。そして最後の一つが、お互いを上手く躍らせるカップル。理想的なのがどれかは分かるよね? 」
「 最後の二人ですね。お互いを上手く躍らせることが出来るカップル 」
「 そう。社交ダンスはリーダーの力量が全てのように思われているけど、本当はそうじゃない。女性の力量だって決して無視できないものなんだ。
フォローが上手な女性とペアになった男性は、自由に踊ることが出来る。女性次第で男性の実力を伸ばすことが出来るんだ。リーダーとフォローは一対だ。それだけに二人の踊りがかみ合えば相乗効果が発揮される。それが社交ダンスの面白さ。
それでね、少なくとも今、俺達はそういう二人になれていると思ってる。だって俺ね、君とダンスをするのがとにかく楽しくて仕方ないから。だからね、今さらこんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど、俺、君をまぁまぁなパートナーだなんて思った事は一度もないよ。俺は君と踊り続けたいんだ 」
俺は君と踊りたいんだよ!!!
「 ・・・あ・・・っ・・・ 」
そう言えばいつからだっただろうか。
最初は自分が踊りたいんだって、彼はそう言っていた。
だけど最近は私と一緒に踊りたい、って、そればかりを口にしていた・・・。
「 ・・・っっ 」
急に涙が滲んで、キョーコは飛び上がりたくなるほど嬉しくなった。
今までこんなにも人から求められたことがあっただろうか。いや、無かったのだ。それは自分が一番よく分かっている。
あれほど焦がれた童話作家になれたのに、作家としての自分を求めてくれた人はいなかった。
だからいま、キョーコはその手を止めてダンスに明け暮れているのだ。
自分を強く求めてくれる人がここに居るから・・・・。
「 我ながらバカじゃないのって思うぐらい単純だわ、私 」
我慢しきれず、キョーコの両目から大量の涙が溢れた。
左手の甲で口元を抑えたキョーコを前に、蓮はおろおろしていた。
「 人から求められる。ただそれだけで頑張ろうって気力が沸いてきちゃうんだから 」
「 ・・・本当に?俺も、早くそうなりたいよ 」
「 え? 」
「 こんなシーンで君からキスをねだられるような男になりたい。そうしたら俺ももっと頑張れそうな気がするから 」
「 この状況でよくそんなセリフが言えますね!からかっていいタイミングじゃないでしょうが!! 」
「 いや、そこはほら、照れ隠しだと思ってよ 」
二人のやり取りを聞きながら、廊下の壁に背中を預けていた社がクスリと笑った。社は余韻に浸るように瞼を閉ざしたあと、そっと自室に戻った。
口元に薄く安堵の笑みを浮かべたまま。
⇒◇28 に続く
予告通り次が最終話となります。
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