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■ ウィークエンド・シンデレラ ◇6 ■
この人は王子、と自分で認めた蓮に顔を覚えてもらえたことを確信できたその日の夜、キョーコは蓮のアドバイスに従い良質なたんぱく質を摂ろうと注文した大将おすすめ魚介尽くし定食を待っている間中、ニコニコ・・・と言うよりニマニマしていた。
今度の火曜日、彼に会えたらこう言うのだ。
敦賀さんに頂いたプロテイン飲料を飲んだら痛みが少し和らぎました。それで良質なたんぱく質を意識的に摂ったらすぐに筋肉痛が治ったんです。あなたのおかげです、ありがとうございました、と。
ここぞとばかりに満面の笑顔で。
知り合わなきゃ始まらないのが恋である。
自分があんなイケメンとどうにかなるだなんて、想像するだけでも身の程知らずだということは判っている。
でも、夢ぐらいは見ていたいと思うのだ。
なぜなら、自分は絵本作家だから。
子供の頃、シンデレラの物語で胸をときめかせた自分のように、今度は夢見がちな自分の想像力が作り上げたお話で誰かの胸をときめかせたい。
蓮との出会いがそんな素敵な物語を生み出すエッセンスになったら嬉しいし、欲を言えば自分の幸せに繋がったらもっと嬉しい。
そうなるためには、彼の人となりを知っていかなければ。
見た目だけじゃなく心も王子だったら、なお素敵な出会いとなる。付き合えるかどうかの問題は、この際、脇に置いとくのだ。
もし彼が見てくれだけの王子だった場合は、そのとき縁を切ればいい。
さて、これからどうやって親密度を上げていこう…と、あれこれ想像を巡らせるだけで、キョーコの口元は緩みに緩んだ。
「 はいよ、お待ちよ、キョーコちゃん。ところで、さっきから何ニヤニヤしているんだい? 」
「 ウヒャぅ!別に、ニヤニヤなんてしていないですよ! 」
「 おや、自覚無しかい。困ったお嬢さんだねぇ 」
自覚はある。だからこそ思いっきり否定をしてみた。
そんなキョーコを見て微笑を浮かべたおかみさんが、ヤレヤレとジェスチャーしながら離れて行く。
その後姿にキョーコは蓮の背中を重ね合わせた。
あの高い上背とがっしりした体つきはそれだけで胸キュンものだ。
ついでに言うと昨日のダンスのとき、キョーコはしびれまくっていた。
なにこの上腕二頭筋!!!凄すぎる!
発達した彼の腕に触れた瞬間、キョーコはもう蓮に心を奪われていた。
今日、思惑通り再会でき
スプレー缶を片付けに行こうと向けられた蓮の背中に、ごちそうさまでした、と声を掛けたキョーコに振り向いた彼は優しく目を細めてくれた。
蓮から差し出されたプロテイン飲料を何とか飲み切ったキョーコは、気持ち深々と頭を下げてシェーカーを蓮に返した。
本当は、本当に深々と頭を下げたかったのだが、筋肉痛がそれを許してくれなかった。だから気持ちだけだ。
「 お粗末様でした。それで? 」
「 はい?それで、とは? 」
「 踊りに来たんじゃないのなら、どうして君はドア付近で聞き耳を立てていたのかな 」
はうっ、しまった!
言い訳!釈明!申し開き!
早く!早く弁明をっ!!
「 …っっ…実は昨日、忘れ物をしてしまって! 」
「 忘れ物?ごめん、気づかなかったな。何を? 」
「 いえ、ここにではなくてですねっっ!!お掃除の仕事のとき、です。掃除用具の中に忘れ物をしちゃって、それでこのビルに来たんです! 」
「 ・・・・へぇ、そう 」
うっ!そのぬるい笑顔。
まるで信じていないわね?!
当然と言えば当然かもだけどっ。
「 それで?その忘れ物を取りに来たあと、わざわざ6階に来てくれて・・・それで筋肉痛になったことを俺に報告に来てくれた訳なんだ? 」
「 わ・・・ざわざって、いうか・・・ 」
筋肉痛を報告にって、なんか心象悪すぎない?
ダメだわ。
だからって何を言ったらベストなのか、まるで思いつかない。
それでも、あなたに逢いたかったから来たんです♡・・なんてセリフは、どんなに恋愛下手でもまだ言う時ではないことぐらい、分かり過ぎる答えだった。
けれど当然ながら嘘を押し通すのは得策ではない、とキョーコは思った。
こうなったら
素直に嘘じゃないほうを告白すべき!!
「 本当は、忘れられなかったんです! 」
「 ん? 」
「 昨日、自分がシンデレラのようにダンスをしたこととか。ハンガーにかかっていたドレスの素敵さとかが忘れられなくて・・。それで、もう一度来たくなって・・・ 」
シンデレラを引き合いに出すなんて、もしかしたらバカにされるだろうか。
もしそうだったらこの王子はその程度の王子ということにしちゃおう。
キョーコがちらりと蓮の様子を盗み見ると、蓮は嬉しそうに微笑んでいた。
「 そう。どんな理由であっても嬉しいよ。ダンスに興味を持ってもらえたなら 」
「 …っっ 」
「 そこで提案なんだけど、どうかな 」
「 はい? 」
「 昨日は練習用のドレスで踊ったけど、今度は本物のドレスを着て、俺と踊ってみないか? 」
「 ・・・・・ハ?あの、ワタシ、いまこんなキンニクツウ状態になってしまって、歩くのさえ困難になってしまっているのデスが? 」
「 ぷっ!うん、分かってる。それは今すぐって話じゃなくてだよ 」
「 へー。今すぐじゃないなら、いつ? 」
「 そうだな。一ヶ月後とか? 」
「 一ヶ月後? 」
「 そう。実は来月、ダンスパーティがあるんだけど・・・ 」
「 ダンスパーティ?!!なんて素敵な響きっっっ!! 」
「 フ・・・。でね、君に俺のパートナーになってもらえたらと思って・・・ 」
「 いえぇぇぇぇっっ?!! 」
予想外のお誘いに目を白黒させたキョーコの脳内で、理性がすぐに答えを算出。
とんでもないとばかりに彼女は勢いよく首を左右に振りまくった。
「 いえイエいえイエ、無理でしょ、無理!!今だってこんな筋肉痛なのに! 」
「 大丈夫。そんなの、しばらくすれば治るでしょ 」
「 そりゃそうかもですけど、たった一ヶ月しかないなんて無理! 」
「 だったら、二ヶ月後でもいいよ? 」
「 期間を伸ばせば大丈夫ってものじゃないですよ!だって、ダンスパーティってことは、人前で踊るってことですよね?観客がいっぱいいるって事ですよね?そんなの、恥ずかしすぎて無理!! 」
「 恥ずかしくなんてないよ。だってみんなも踊るんだから 」
「 だったら余計に無理です! 」
「 ・・・・・シンデレラになれるチャンスなのに? 」
「 うっっっ!! 」
それを言われると心が揺れる・・・。
「 俺、思うんだけど。シンデレラは魔法使いのおかげでドレスを着られて、ガラスの靴を履けて、それで舞踏会に参加できることになったよね。でも、シンデレラは魔法使いが用意してくれたドレスで本当に満足していたんだろうか。もしかしたらもっと違うドレスの方が良かったんじゃないかな?でも君は、自分で自分好みのドレスを選べるよ。自分が好きな靴を選べる。そしてここぞとばかりに舞踏会に行けるんだ。それって重要だと思わない? 」
「 っっっ!! 」
た、確かに!
「 時間をかけてドレスアップをして、特別なステージで俺とダンスをしないか?それだけで君は本当に、一日だけでも本物のシンデレラになれるよ。それを味わってみたくない? 」
「 ~~~~~~っっっ!!! 」
シンデレラみたいになんて言われたら、それだけで胸がときめいちゃう。
シンデレラになれるなんて言われたら、思わず頬が朱に染まる。
早くもキョーコの脳内で始まってしまったダンスパーティの中で、キョーコはシンデレラの如くフロアの中央で王子の蓮と華麗に舞っていた。
周囲の羨望を一身に浴びながら。
「 ねぇ、どうかな? 」
「 ・・・・・っっっ・・・ちょっと、考えさせてください 」
「 いいよ!いい返事を待ってるね! 」
このやり取りを思い出すだけで顔がにやける。
ダンスパーティで王子とダンスが出来るなんて
浮かれない方がどうかしていた。
王子とダンス。
王子とダンス。
人生で一度ぐらい、そんな経験をしてもいいわよね?
一応、考えさせてと返事は保留にしてきたけれど、キョーコの気持ちは決まったも同然だった。
「 あ、そうだ。キョーコちゃん 」
おかみさんに声を掛けられ、キョーコは現実に引き戻された。
煮つけられたキンメダイと目が合い、微笑を浮かべる。
はい、と返事をしながらおかみさんに視線を向けると、ちょうどおかみさんが湯飲みにお茶を継ぎ足してくれている所だった。
「 実は明日、グループレッスンの日なんだよ 」
「 グループレッスンって、昨日おかみさんが言っていたダンスのですか? 」
「 そうそう。キョーコちゃんも興味があるならどうかと思ってね。1回限りの参加でも大丈夫だし、ワンコインだしさ。ダンス用シューズのレンタルもあるから、どうだい? 」
なんて素敵な渡りに船!
王子とダンスの前に予行練習が出来るじゃない。
それ、メチャクチャ有難いです!!
「 是非、ご一緒したいです! 」
「 そうかい、良かった 」
「 そうしたら明日、私はどんな格好をしていけばいいですか? 」
「 ああ、上は動きやすい物なら何でも大丈夫だよ。下はダンス用のスカートの人が多いけどね、キョーコちゃんは持っていないだろうから、長めのスカートとか、あるいはスパッツでいいんじゃないかね 」
「 はい、了解しました!! 」
わぁ、楽しみ!
ルンルン気分でマグロの刺身に箸を伸ばしたキョーコは全く分かっていなかった。
翌日、自分がどんな憂き目を見ることになるのか。
⇒◇7 に続く
サクッと進んで気持ちがいいw
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