いつもありがとうございます、一葉です。
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■ ウィークエンド・シンデレラ ◇3 ■
キョーコの目にまず飛び込んできたのは、ポールハンガーラックに下げられていた色とりどりのドレスたちだった。
それらは挑戦的な色味が多く
大人の女性をイメージするエレガントな朱赤、全体にストーンがきらめている星空のような黒、ホワイトからピンクにグラデーションしている裾広がりのドレス、美女と野獣のベルを連想させる鮮やかな黄色と、その4つのドレスが特にキョーコの目についた。
普段決して見ることのない華やかな衣装。それらに引きつけられてしまったキョーコのテンションは一気にMAXに達した。
「 はぁぁぁぁ、素敵っっ!!! 」
「 それは良かった。君ならもしかしたら喜んでくれるかも…って、そう思ってお招きしたからね 」
ドレスに見惚れていた間に近づいて来ていたのだろう蓮が、気持ち腰を折ってキョーコの顔を覗き込む。
ドレスと王子、ダブルのときめきに鼓動を激しくビートさせたキョーコは、鼻血を噴き出しそうになった。
「 あ、あの、これがシンデレラの魔法ですか? 」
「 …どうかな。どう思う? 」
「 予想外に素敵です!だって、まさかリアルでこんなドレスが見られるなんて夢にも想像していなかったので! 」
「 そう。君はドレス、好き? 」
「 大好き!子供の頃からずーっと憧れているんです。いつか私もお姫様になりたいって。それが小さい頃からの夢。現実は、そんな優しくないですけどね 」
一番大好きで
一番憧れたのは
いつも華やかな舞踏会を遠くで見ている事しか出来なかった、ぼろ服一枚の惨めな女の子が
ある日、突然現れた魔法使いに
誰もが目をくらませるほど美しく変身させてもらえる、シンデレラストーリー。
そんなこと、ある訳ないと分かっているからこそ
余計に憧れずにはいられなかった。
「 …すてきです 」
「 それではシンデレラ。俺と一曲どうですか? 」
「 はいっ?!! 」
「 この衣装は本番用だからムリだけど、練習用の貸しドレスがあるから着てみない?もちろん貸し靴もあるよ。あ、君、足のサイズいくつ?ちょっと靴を脱いでみて? 」
「 え?え? 」
「 はい、俺の肩に手を置いて 」
蓮がキョーコの目の前でさっと腰を落とした。
素早い動作でキョーコの両手を引っ張り、自分の左肩に導く。キョーコの左足を強引に浮かせた蓮は、キョーコが履いていたコンフォートパンプスをさっと脱がせた。
「 あえぃっ?! 」
「 うん、サイズ了解。じゃ、ここのイスに座ってちょっとだけ待ってて 」
「 はいぃぃ? 」
待ってて?
待っててって、何なの?
そりゃ、待っているのはいいけれど
でもさっきあの王子なんて言った?
俺と一曲どうですか…って聞かなかった?
それってやっぱりそういう意味?
踊り?踊る?そんなの無理!!
だって私、踊りなんてマイムマイムぐらいしか知らないわよ?
しかも、今も覚えているかって言ったら、だいぶ怪しいレベルだし。
「 お待たせ、シンデレラ。ドレスはこれでいいかな? 」
ドレス、というよりそれはほぼワンピース。
キョーコは蓮に手のひらを向けた。
「 いえ、そんなの結構で… 」
「 大丈夫だよ、遠慮しなくても。はい、どうぞ? 」
「 いえ、どうぞって言われても… 」
「 靴はこれが合うと思う。はい、履いてみて? 」
そう言って、キョーコの目の前に置かれたのは、かなりヒールが高い靴だった。
「 ・・・・これ、ヒールがだいぶ高くないですか? 」
「 そうかな。7センチあるけど、大丈夫だと思うよ。なぜなら淑女はヒールが高い靴を履くものだから 」
私が淑女?それはなんて素敵な響き!!
「 靴を履き替えたら、あのカーテンの向こうで着替えてきて。空いているロッカーを使っていいから、そこに荷物を置いてね 」
…って、そうじゃなくて!!
「 レディが着替えている間に俺は準備をしておくよ。焦らなくていいからね? 」
レディ?!なんて素敵な響き♡
…って、そうじゃなくて!!
「 ほら、早くお姫様。あっちで着替えを済ませてきて? 」
お姫様~~~~っっ!!!って、もう何なのよぉ。
ときめき言葉のオンパレードに、もはや抗うことが出来なくなり、キョーコは指示されるがままに着替えを済ませた。
王子が用意してくれた衣装は決して派手なものではなかったが、キョーコが動くたびにスカートの裾がエレガントに翻るフレア・ロングワンピースだった。
7センチのヒールを履いたのは生まれて初めて。身長163センチに7センチがプラスされた170センチの視野世界は新鮮そのもの。
カーテンを開けて、キョーコがおずおずと一歩を踏み出すと、キョーコが出てくるのを待ち構えていたのだろう王子が満面に笑顔を浮かべた。
「 ようこそ、姫。我がボールルームへ 」
「 ボールルーム? 」
「 舞踏会場って意味だよ 」
「 ぶぶぶ…舞踏会!!? 」
「 そう。ここはいま、君と俺、二人だけの舞踏会場 」
ああ、もう!ときめきが激しすぎる!!
だからって流されちゃダメ。
ときめきワードに溺れている場合じゃないわ。
しっかり目を凝らすのよ!よく見なくてもここは普通のダンススタジオそのものじゃない。
壁一面に鏡があって、イメージだけど10人ぐらいのダンサーが心置きなく踊れるんだろうなって想像出来るぐらいの広さの・・・。
「 あの、ちょっといいですか?つい促されるままに着替えて来ちゃいましたけど、踊るのは無理です。だって私、マイムマイムだってろくに覚えていませんから 」
「 マイムマイム?・・・は、フォークダンスだからね。そもそも俺達二人だけじゃ踊れないかな 」
「 …っっ!!じゃ…なにを… 」
「 そうだな。スタンダードに、ワルツなんていかがですか? 」
「 余計ムリ!!ワルツなんて一度も踊ったことないですから! 」
「 でも、どんな風に踊るかぐらいは知っているだろ?足運びは知らなくても 」
「 それ、知っているうちに入らないと思いますぅ 」
シンデレラとか、美女と野獣とかのアニメで
キャラクターが踊っているのは何回か繰り返し見たけれど
それで知っていると言えるのなら、大抵の人が知っていることになるじゃない。
「 だって私が覚えているのって、男性と女性が手をつなぎ合って、向かい合ってクルクル踊る…ぐらいの知識しかないんですよ? 」
「 うん、それだけ知っていれば十分だよ、最初は。足運びはいま俺が教えてあげるから 」
「 ・・・・・でも、無理だと思います 」
「 無理じゃないよ。そんな顔しないで。シンデレラはどんな苦境に立たされても笑顔なんだろ 」
「 …私、シンデレラじゃないもん… 」
「 だったらシンデレラになればいい。君はシンデレラ気分を味わいたくない? 」
「 ……っっ…そりゃ……出来るなら味わってみたいけど…。でも、踊れると思いますか?私でも…… 」
「 もちろんですよ、お姫様。俺がちゃんと教えてさしあげます。さぁ、お手をどうぞ? 」
「 ・・・そんな笑顔、ずるい 」
紳士スマイルで差し出された蓮の左手に、キョーコはそっと右手を重ねた。
「 ところでシンデレラちゃん。そろそろ君の名前を聞かせてもらえる? 」
「 あ!そう言えばまだでしたね、失礼しました。私、最上キョーコといいます 」
「 では、キョーコ姫。俺の足取りを真似てみて 」
「 はい 」
左手も蓮にすくわれたキョーコは、まるで初めて歩き出す赤子のようだった。
蓮の足取りを見ようと視線を俯かせる。
「 いくよ。ゆっくりでいいからついて来てね 」
「 はい 」
それから蓮は、ステップ名はひとつも口に出さず
初心者レッスンで最初に教える、クローズドチェンジ、ナチュラルターン、リバースターン、シャッセ、ナチュラルスピンターンの5つを繰り返しキョーコに指導した。
⇒◇4 に続く
ボールルーム・・・社交ダンスのこと。
このリクエストを執筆するにあたって色々資料を集めたのですけど、実はその途中でふと思い出したことがありました。それは原作20巻の出来事。
グレイトフルパーティでマリアちゃんが、トラおじさまとフロアでダンスをしているシーンがありますよね。あれ、何気なく読んでいたけれど、マリアちゃんってば本物のお嬢様だったのね!…って思いました。
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