いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、はるやまち様からお与かりした記念リクエストの第二部続きをお届け致します。
オレンジカラー・ナンバリングは二部の意。
前話こちら【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 ・17 ・18 ・19 】
■ ウィークエンド・シンデレラ ◇20 ■
その後、驚くべきスピードでキョーコは新たなステップ・ルーティンを次々と体得していった。
それは社が二ヶ月後、と定めた次の競技会スケジュールをも覆し、約ひと月後に行われる競技会に標準を合わせるに至って、それで見事C級に駆け上がってしまうほどには。
全競技の点数が張り出されたその前で、蓮とキョーコは顔を見合わせ、笑顔でハイタッチを交わした。
「 ・・・さすが、というべきか。けど正直言うと俺は意外と驚いている 」
「 俺も社さんと一緒で嬉しすぎてちょっと驚いています 」
「 私は当然だと思っています。だって頑張りましたから 」
「 いや、キョーコちゃん、本当にすごいよ?!頑張れば誰にでも手が届くって訳じゃないんだから 」
「 確かに。でも本人が言うように最上さんは本当に頑張ったからね。背中、随分絞れてきたよな。筋肉がだいぶついたこともあってこの肩甲骨の見え方がかなりセクシーになって来て俺は好き 」
「 ありがとうございます。でも敦賀さんの好みなんて聞いてません 」
「 ところで、二人とも 」
「 もちろん、次は二ヶ月後のC級競技会・・・でいいよな、最上さん? 」
「 B級アタック、上等です!! 」
「「 よし、目指そう! 」」
C級からB級への昇級は、それまでとは違い別の条件が加味される。
これももちろん所属団体によって条件は異なるのだが、二人の場合はこうだった。
1・C級競技会で1~6位に入賞
2・C級競技会で準決勝に2回
3・上位級競技会で準決勝に1回
このいずれかに該当すること。
ちなみにこの条件は年度をまたぐことは出来ない。つまり、今期年度中に条件を満たさなければならず、出来なければ次年度は最初から。
もしB級に上がれた場合も決して安心ではなく。
次年度に出場するB級競技会、もしくは上位競技会で一度も最終予選まで到達できなかった場合は再びC級に落とされる。
・・・ということをキョーコは一切知らなかった。
晴れてC級に上がれた今日。ご褒美として訪れた超久しぶりのだるまやで、蓮と社から初めてそれを聞かされたキョーコは、大将おすすめ魚介尽くし定食を堪能する手を止め、初めて通されたお座敷の一席でだいぶ目を丸くした。
「 え・・・なんですか、それ。つまり、今後はただ上を目指せばいいって訳じゃないって事ですか 」
「 ワケじゃないって事ですよ 」
「 嘘ですよね、社さん? 」
「 本当だよ、キョーコちゃん。日本のボールルームダンスはそういうシステムになっている 」
「 ・・・え?B級で躓いたらまたC級に?そんなバカな。でも、そうか。上まで行けたら辞めればいいってこと? 」
「 なに言ってんの。やめさせないよ、最上さん 」
「 は? 」
「 もう俺のパートナーは君以外にはあり得ないからね 」
蓮がにっこりと微笑む。
それを目の当たりにしたキョーコが三度瞬きを繰り返す間、社は美味しそうに大将おすすめ魚介尽くし定食を堪能していた。
「 …っっと待ってください。それ、約束が違っっ 」
「 キョーコちゃん、キョーコちゃん、ちょっといいかい?! 」
突然会話に入って来たのはおかみさんだ。どうやら配膳が終わったあとも三人の様子を窺っていたらしい。
しかも見ると店に訪れた時の顔よりずいぶんと興奮しているようで、嬉々とした様子のおかみさんの目が心なしかキラキラと輝いていた。
「 どうかしましたか、おかみさん 」
「 キョーコちゃんが連れてきてくれたそちらのお客さん、もしかしなくてもプロの社交ダンサーだろう?! 」
「 え・・・ 」
そう言ったおかみさんは大きめの本を両手で抱きしめていた。よく見ればそれがダンス雑誌だと分かる。
そう言えばおかみさんも社交ダンスをしているのだ。
だとするとこの人も上尾と同じように、蓮のファンだったのだろうか・・・とキョーコは思った。
あり得ないことではない気がした。
ただ、予想と違っておかみさんが手にしていたダンス雑誌はバックナンバーではなかった。
そうと分かったのはおかみさん自身がその表紙をキョーコに見せつけてくれたからだった。
「 これ、見たんだよ!! 」
「 あ、そう言えば今日が発売日だったかも 」
「 ・・・ということは、例のあれが 」
「 掲載されているはずだ 」
「 なるほど 」
「 え?何がなるほどなんですか、敦賀さん 」
「 あれだよ。ノービスの試合のとき、少しだけ席を外したでしょ、俺達 」
あ、そう言えば。
それで自分は上尾と話していたんだっけ。
「 あのとき、その雑誌の取材を受けていたんだよ、蓮が 」
「 え・・・ 」
「 目ざとい記者さんがいてくれたみたいで、俺の存在に気付いてくれたらしくてね。インタビューに応じちゃったんだ。それを読んでくださったんですか、ありがとうございます 」
「 ということは、やっぱり本人なんだねぇぇ!感激だよ。しかも、ここには載っていないけど、話の内容から察するにパートナーはキョーコちゃんってことなんだろう?! 」
「 そうです。最上さんが俺のパートナーです 」
「 やっぱりそうなんだ!キョーコちゃん、すごいよ、凄いじゃないか!!なんで教えてくれなかったんだい?今度競技会に出場するんだろう?それっていつ?絶対、絶対、見に行くよ!応援団を引き連れて!! 」
「 応援団はやめてください! 」
「 なんで。俺は嬉しいけどな、応援団。どうぞ是非いらしてください。競技会申請をしてから必ずご連絡を差し上げますので是非 」
「 お待ちしてるよ、敦賀さん!ついでと言っちゃなんだけど、この本にサインしてもらってもいいかい? 」
「 ええ、もちろんです 」
「 ありがとうございます。友達に自慢して回るよ 」
「 こちらこそ、応援していただけて嬉しいです 」
今まで、こんなにもおかみさんのテンションが高かったことがあっただろうか・・・というぐらいおかみさんは大はしゃぎ。
その様子を見てキョーコは両手で顔を覆った。
ちょっと待ってよ・・・。
そもそもキョーコは賞金をもらうまでの一時的なパートナーのつもりだったのだ。
やるからには本気で・・・とキョーコが腹を据えたのは琴南奏江のダンスを見てからだが、それは奏江レベルにならなければ到底シンデレラ気分を味わうことなど出来ないと悟ったからだ。
つまりキョーコ自身は絵本作家を辞めたつもりは無く、この先、社交ダンスで生きて行こうと腹を決めた訳でもなかった。
・・・の、だが・・・。
本人の意志とは関係なく、ダンサーとしてのキョーコの認知度が密かに上がってきていた。
「 実は今日、C級に上がったんですよ、俺達。だから今度出場する競技会はプロのB級トライになるんです 」
「 プロのB級?!聞くだけで震えが来るね。キョーコちゃん、どんなドレスを着るんだい?ドレスセットとかヘアアクセサリーとか、使っていないのがあるから良ければ持って行っていいよ?! 」
「 え、いえそんな・・・ 」
「 それは有難いですね。今度是非ご相談させてください 」
「 こちらこそ嬉しいよ!何ならプレゼントしちゃってもいいしね。それから、是非店にもまたいらしてくださいな。応援も必ず行きますよ! 」
「 ありがとうございます。良ければ本当に応援団で 」
「 もちろんだよ、もちろん!! 」
「 おいっ! 」
そのとき、店の奥から大将の声がかかった。
その目と顔がいつまで話をしているつもりなんだ、とかなりの迫力で雄弁に語りかけてきている。おかみさんはそんな大将からの圧溢れる様をものともせず、はいよ~と陽気に返事した。
「 はいよ~、悪かったよ、いま行くよ 」
「 おかみさん、すみません、ご迷惑をおかけして 」
「 あはは、なんだい、キョーコちゃんのせいじゃないじゃないか。ではごゆっくり~♪ 」
お盆をもってご機嫌よろしく離れて行ったおかみさんの背中をキョーコは複雑な思いで見守った。
ふと、あれ、と思って見回すと、蓮のサインが書き足された雑誌が置いてけぼりにされている。
キョーコはその雑誌を手に取ると、ハラハラとページをめくった。それを見た社が口を開いた。
「 読むの? 」
「 ちょっとだけ。ダメですか 」
「 ダメって俺が言える立場じゃないけど、家に帰れば本が届いているんじゃないかな。それを読めば? 」
「 いいんですか、社さん 」
「 別にいいよ。いいだろ、蓮? 」
「 ええ。特に読まれて困ることもありませんし 」
「 だって 」
「 じゃあ、家に戻ってからにします 」
「 そうしな 」
はい、と言って、再びキョーコが箸を持った。
本日の大将おすすめ魚介尽くし定食は、イカ・アジ・マグロの刺身3点盛りと、イワシのトマトロール巻きおよび鰆のごまみそ焼きである。
もちろんそれらはどれも間違いなく美味だったのだけれど、食事だけに集中することがキョーコには出来なかった。
心に引っかかっている言葉があって
それを早く確認したくて。
早く蓮の取材ページが読みたい。
早く、早くと思うほど箸を動かすスピードが速まる。
そんな風に自分を急かしたくなる気持ちが何なのかは、全く分かっていなかったけど。
⇒◇21 に続く
本文にある昇級・降級条件については、実はアマチュアの内容です。
検索してもプロの条件を見つけることが出来なかったので~~。すみません。
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