いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、はるやまち様からお与かりした記念リクエストの第二部をお届け致します。
オレンジカラー・ナンバリングは二部作の意。
前話こちら【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 】
■ ウィークエンド・シンデレラ ◇17 ■
3週間後。都内某グランドホテル大ホール。
社がエントリーしてくれた競技会に出場すべく、会場を訪れたキョーコは会場の隅っこで、蓮が壁ドンして作ってくれた僅かばかりの更衣スペースで真っ赤になりながら着替えていた。
「 信じられない、更衣室が無いなんて!! 」
「 そういえば説明していなかったよね。日本の競技会場はみんなこの仕様なんだ。アメリカとかイギリスならちゃんとした更衣室があるんだけど 」
「 そうなんですか?でもこの前のパーティでは・・・って、目!!敦賀さん、目をつぶっていてください!なんで見下ろしているんですか!! 」
「 なに言ってるんだ。参加者は男女の別なくみんなその辺で着替えるのに、君が誰にも見られたくないって言うから敢えて俺が君のためにこの体と持って来たタオルを使って死角を作ってあげているのに。このぐらい、許されると思うけど 」
「 それは本当にありがたいと思っていますけど!! 」
「 それより早く着替えて。俺も着替えたいし、そもそも別の意味で我慢できなくなりそうだから 」
「 っっっ!!! 」
蓮の言葉は嘘ではない。
日本では、競技会参加者のために主催側が更衣室を用意していることはほとんどないのだ。
さて、社交ダンスをたしなむ人間の生息域は、あらゆる場面で二手に分かれる。
例えばプロで親しむか、アマチュアで楽しむかといった具合に。
うち一口にアマチュアと言っても、競技会に出て上位を競う競技型と、ダンスを愛好するだけの愛好家と大きく二通りに分類され、その愛好家の中でも一方はスタジオなどでダンスをただ楽しむ派と、イベントに参加して練習の成果を披露する派と二つに分かれる。
ではプロの場合はどうかというと、こちらも同じである。
以前、少し触れたようにダンスを教えるコーチタイプのプロと、スポーツとして参加する競技ダンスをメインにするプロと大まかに二通り。最も、競技ダンスをしているプロのほとんどはコーチの資格を持っていた。
そして競技ダンスのプロもまた、大まかに2種のジャンルに分かれる。
言わずと知れたラテンアメリカンとスタンダードである。現在、競技会の多くは両セクションへの重複出場を不可としていることから、プロの競技者はラテンかスタンダード、どちらかを専門競技としていた。
「 最上さん、メイクはどうするの? 」
「 自分でやります。道具は持ってきていますから 」
「 そう。化粧は多少濃いめにした方がいいよ。そうじゃないと印象が薄くなっちゃうからね 」
「 ・・・努力します 」
「 とはいえ、今日はノービスだからな 」
社交ダンスのメイクや髪型は非常に特殊だ。ゆえに出来る美容院は限られている。
たいていの場合、ダンスメイクで初めて顔を合わせた人と、後日普通のメイクで再会すると、必ず誰?ってことになる。
しかし今日は資格を得るための競技会なので、本番まがいの派手さは特に必要ではなかった。
「 …うん、可愛い。やっぱりそのドレス、君に似合っているよ 」
「 ありがとう、ございます 」
一見するとワンピース型の軽いフレア。結局ドレスは蓮と社が所属しているダンスアカデミーが所有している中から選んだ。
上下がセパレートになっていて、スカート丈のボリュームを容易に変更できるため、ラテンでもスタンダードでも踊ることが可能だった。
この前借りたドレスではラテンが踊れないから、と社が顔を曇らせた理由がキョーコにもやっとわかった気がした。この会場に着いて理解した。
フリーパーティとは違って競技会では10種を踊らなければならないのに、更衣室がまったく用意されていないのだから。
着替えが済み、キョーコがメイクを始めた横で、蓮が堂々と着替え始める。
男性の着替えなんて見る機会がないのでもちろん興味はあったのだが、やはり凝視するような勇気はなく、キョーコは意識的に蓮に背を向けていた。
「 敦賀さん 」
「 うん? 」
「 ところでNってなんですか? 」
「 ノービス。社交ダンス団体では選手ごとに級があって、スタート地点に立った時点ではN級って言われるんだ。一定のランクに足していない初心者って意味 」
「 初心者?でも敦賀さんは経験者ですよね? 」
「 そうだけど、社交ダンスの場合はペアで認識されるんだ。だから君と組んだ時点で俺もまたノービスってこと 」
「 へぇ・・・ 」
蓮が所属している団体に限らず、日本の競技ダンスは基本的にクラス別の大会となっている。
大会はアマチュア部門とプロ部門に分かれ、一般的にはプロ部門にダンス教室の先生が出場。
クラスはA級からD級。アマの場合は1~5級。どちらも一番下がノービス級だ。
この昇級条件は団体によって異なる。しかしどこでも一定の条件を納めれば昇級し、一定の条件以下だと降級するシステムを採用している。要するにまずはノービス級に出場し、そこから上を目指すということ。
ちなみに日本ではダンス団体が4~6ほど存在しているが、昇級する条件が団体によって異なるため互換性はなく、それゆえ団体ごとに出場人数が大きく違うといった状況の他に、同じ級でも昇級しやすい団体と、しにくい団体というのがあった。
つまり同じA級でも、どこのA級かでレベルが異なる。
蓮と社が所属している団体は、うち一番レベルが高いと言われていた。
ノービス級の大会は、クラスを持っていないペアが出場する大会だ。多くの場合は出場選手の上位10~20%程度が昇級できる仕組みである。
級を持っていないペアが出てくるため、他団体の上位選手や過去に上位選手だった者、学生ダンス出身といったレベルの高い選手が出て来る場合があり、その波乱を期待して、C・D級の大会よりむしろ注目度は高かった。
「 俺たちは5ヒート目か。ま、余裕でしょう 」
「 敦賀さん、ヒートって? 」
「 ヒートっていうのは踊るグループの順番のこと。例えば一次予選に100組出場する場合、10組ずつで10ヒート・・・みたいな感じ 」
「 なるほど 」
「 審査はね、審査員が例えば5人いるとするだろ。その審査員が各5点ずつ持っているから、第一ヒートの10組の中で5組に1点ずつ付くわけ。つまり出場選手から見れば、最大5点が入るってこと。これがヒートの数だけ繰り返される 」
4~5種目踊る総合戦の場合は全部の種目を同じように繰り返す。そして各々のカップルで全種目の点を合計し、合計点数が多いペアから順に二次予選に上がれる仕組みである。
何組が出場しようと、結果として表彰されるのは上位6組だけなので、競争は非常に厳しいと言えた。
「 ふあぁあぁぁ・・・。なんだか緊張するぅぅぅ 」
「 必要ない。いつも通りに踊ればいいんだから 」
「 そんなこと言ったって、今日の雰囲気はこの前の時と全然違うじゃないですか。この前のパーティはどっちかって言うと舞踏会って感じで和やかな雰囲気だったけど、今日のはまるで陸上競技大会みたいです。しかもいつもはスタジオで社さんに見守られながら敦賀さんと二人っきりで踊るだけなのに、今日は大勢の人たちと同じフロアで踊る訳だし。しかも敦賀さんは燕尾服。何もかもが違うからいつも通りって訳にはいかないですよぉ 」
「 まぁ、ね・・・ 」
だからこそ、人前で踊る経験をしてもらおうと数か月前、キョーコをフリーのダンスパーティに連れて行った訳なのだが。結局あの日、キョーコは1曲も踊り切ることが出来ずに諦めた。
そうなったことを社は残念そうに思っていたようだったが、蓮自身は全然構わないと思った。
なぜなら、キョーコには変な癖を持って欲しくなかったから。
自分以外の男の手垢など冗談じゃない。そんなの微かでも許せない。
何のためにダンス未経験者のキョーコをここまで強引に引き込んだと思うのだ。
なにものにも染まっていないこの子を
大切に大切に育てていきたい気持ちは蓮の中でさらに大きく膨らんでいた。
「 これより、ノービスクラスの競技を開始します。第一ヒートのカップルは・・・ 」
アナウンスが入った。
キョーコの肩に力が入る。
「 あああああ、もうだめ!敦賀さん、お手洗いに行って来て良いですか?! 」
「 ・・・いいけど。すぐ戻ってこられる?あと10分もないよ? 」
「 大丈夫です、すぐ戻ってきます!! 」
蓮を置いて、キョーコが足早に廊下に向かった。
同じように初出場なのだろう幾人かの女性たちが、自分と同じように廊下に向かってゆくのが見えた。それで少しほっとした。緊張しているのは自分だけではないのだ。
所用を済ませ、キョーコが深いため息を震わせながら蛇口捻る。そのときふと視線を感じて顔を上げた。
鏡に映った人物は自分と同じようにドレスを着ていて、出場者なのが分かった。・・・が、他にも人はいるのになぜ自分だけを凝視するのか。理由が分からずキョーコもまた鏡越しにその人物を凝視した。
「 ・・・っ・・・あ?! 」
思い当たる人物の名が浮かんでキョーコは目を見開いた。
まさかこんな所で会うなんて。
数秒、キョーコは呼吸を忘れた。
⇒◇18 に続く
おかしい。ダンスシーンまで入らなかった・・・。
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