ウィークエンド・シンデレラ ◇12 | 有限実践組-skipbeat-

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 前のお話こちら【1011


■ ウィークエンド・シンデレラ ◇12 ■





「 こんな所じゃ落ち着いて話が出来ないから、上にあがろうか 」


 との社の言葉で、3人はエレベーターに乗り込んだ。

 上・・と言ったからてっきり6階のことだろうとキョーコは思ったのだが、蓮が最上階を選んだのを見て何事かと思う。

 なぜならその階は実に簡素なフロアであることをキョーコは知っていたから。


 11階にはトイレも無く、あるのは狭い廊下と壁と窓のみ。ひとつだけ扉のようなものはあるが、鍵がかかっていたため、屋上に出られるのかどうかさえ分からなかった。

 掃除は楽だからいいのだが、このフロアは何のためにあるのだろうと疑問だった。


 目的フロアに到着し、エレベーターを降りて歩みを進める蓮のあとにキョーコと社が続いた。

 防火シャッターを思わせる扉の前に立った蓮が、扉脇の壁についているコンセントカバーを開いた。電卓を思わせる数字キーが現れ、そのいくつかを蓮が押すと、解除を知らせる音が鳴って開錠されたのがキョーコにも分かった。



「 え、ここってなんですか?事務所? 」


「 ここは俺の家だよ。どうぞ 」


「 敦賀さんの? 」



 立ち入ったドアの向こうは確かに家の中だった。



「 社さん。俺、シャワー浴びてきていいですか 」


「 はいよ、どうぞ 」


「 最上さん、ごめんね。ソファに座って少しだけ待ってて 」


「 はい・・・ 」



 蓮がいなくなるとキョーコに対し、社が簡単に自己紹介した。キョーコもしようとしたのだが、蓮から話は聞いているから大丈夫だよと制された。

 柔和で温和な話し方が大人の余裕を感じさせる。だからだろう、キョーコちゃんと呼んでもいいかと確認され、キョーコは二つ返事で了解した。

 馴れ馴れしいとか、図々しいとか、そんな風には少しも思わなかった。



「 じゃあ早速。キョーコちゃんはお茶とコーヒー、どっちが好み? 」


「 私はお茶が・・・ 」


「 了解 」



 社は勝手知ったる、という身のこなしで対面キッチンに向かった。戸惑う様子など一切なくお茶を淹れ始めたのを見て、キョーコは素直に浮かんだ疑問を口にした。



「 ずいぶん手慣れていらっしゃるんですね。よく来るんですか? 」


「 というより、俺もこの家に住んでいるから 」


「 え?ここに・・って、つまり敦賀さんと一緒に暮らしてるってことですか?! 」


「 そうだよ。はい、お茶どうぞ 」


「 ありがとうございます。え、っと、ええ?えっと、それって・・・ 」


「 あ。ああ、大丈夫だから。いきなり初対面同然の男二人と一緒に住むなんて怖いって思うかもしれないけど、むしろ俺が一緒の方が絶対安全だと保障する。それに、同居して欲しい理由はキョーコちゃんがダンス初心者だからなんだ 」


「 ・・・・初心者だと一緒に住もうってなるんですか? 」


「 なる。エスコートされることに慣れて欲しいから。社交ダンスは男女がペアになるのが基本だってことは知っているよね。その際、男性側は次の動きを伝えるリードを、女性側はそれを汲み取ってリードされる役割を担う。だから社交ダンスでは男性をリーダー、女性をパートナーって呼ぶんだけど 」


「 はい。それは土曜日のダンスサークルで習いました。でも、社交ダンスって踊る前にどう踊るかを決めておくものなんですよね?だったら別に・・・ 」


「 うん、それは確かにそうなんだけど。実際にフロアに立つとなかなかそうはいかないものなんだよ。例えばね、フロアに7組のペアが立ったとして、もし仮に全員が同じ踊り方をするのだとしても、スタート時と同じ距離間で踊り続けることは出来ないって想像できる?極端な例を挙げると、小学生ペアと大学生ペアが同じフロアに出て踊るとしたら 」


「 それはたぶん、体の大きさも歩幅も違うでしょうから。離れたり近づいたりしちゃいますよね? 」


「 そういうこと。体の大きさが違えば動きの幅も異なるのは当たり前。だからこそダンスではフロアクラストというテクニックが重要でね。これはフロアで他の人にぶつからずに上手に踊り続ける技術のことで、つまりイレギュラーな動きでもスムーズに動けなきゃ出来ないわけ 」


「 そっか。それでリーダーさんのリードをパートナーが汲み取らなきゃ・・・ってことに 」


「 そう。察しが良いから話がスムーズで助かるよ。社交ダンスの本場イギリスでは、生活のベースにエスコートがある。男性がドアを開けて促されたら歩き出す。ダンスも同じで、パートナーは、リーダーに促されて動き出す。だから女性はエスコートされて当然という意識が必要なんだ。それを一緒に暮らすことで培って欲しいっていうのと、自然と阿吽の呼吸を身に着けて欲しいんだよね 」



 なるほど。

 ただ私の足元を見て一緒に住もうと言って来たわけではなかったんだ。


 だけど、だけど!!



「 他に質問はある? 」


「 11階以外は全てダンスフロアなんですか、このビル 」


「 1階と11階は違うけど、他はそうだよ 」


「 ・・・ってことは、この家の広さって階下フロアと同じってことですよね? 」


「 そうだね。だいたい80坪ぐらいだったかな 」 ※約160畳


「 ここって賃貸なんですか?まさか持ち家? 」


「 一応、賃貸 」


「 このリビング、凄く広く見えますよね 」


「 そうだね。でもそれほどでもないんだよ、実際は。見えている限りを合計すると20畳ないからね。キッチンが3.5畳、こっちのリビングで15畳ってところ。天井が高いからそれより広く見えるだけ 」



 確かに、天井高が3メートルもあるせいで、キョーコの目には30畳ぐらいに見えている。

 しかしキョーコの家は和室8畳と2畳のキッチン、トイレとバスが一緒になっている狭い1Kアパートだ。つまりこのリビングより狭い家に住んでいる。



 世界が違い過ぎる、とキョーコは思った。

 この二人とは全く住む世界が違い過ぎると。



「 他には何かある? 」


「 あの!私、貧乏なんです! 」


「 ・・・・なに、いきなり 」


「 敦賀さんのダンス、本当にすごいと思いました。あんなスゴイ人から誘われていたんだって思って、つい戻ってきてしまいましたけど、でも私にはダンスに費やせるような金銭的な余裕は全くありません。だから・・・ 」


「 ああ、うん。だから、それもあって一緒に住もうって提案したんだと思うよ、蓮は 」


「 でも、たとえ家賃を節約できたとしても、ダンスはそれ以上にお金がかかるものなんですよね?! 」


「 ん? 」


「 たとえば、ダンスに必要な靴とか、ドレスとかが必要ですし、それに、ダンスパーティに参加するには登録料が必要で、パーティチケットのノルマもあるって話を知り合いから教えてもらったんです 」


「 なるほど。パーティチケットについては後で説明するけど、ドレスとか靴はあとで考えればいいと思うよ。何なら蓮に揃えてもらってもいいんじゃないかなぁ?なぁ、蓮 」


「 そうですね。俺の好みで衣装を決めても良いなら、それもありですかね 」


「 は?え、あの。つかぬことをお伺いしますけど、お二人って一体どんな関係なんですか? 」


「 社さんは社交ダンスの講師。ついでに言うと俺のコーチでもある 」


「 違うだろ。どっちかって言うと同士だ。俺はお前のコーチになった覚えはない 」


「 俺はあるのに。どっちにしろ大丈夫だよ、最上さん。俺は君に金銭的な負担を掛けるつもりはないから。だから言ったんだよ。一緒に住もうって 」



 言いながら蓮もソファに腰を下ろした。コの字に置かれたソファでちょうど蓮と社が対面となり、その間にキョーコが座っている形である。



「 その話は、はい・・・。理由も社さんから伺いましたけど 」


「 でね、キョーコちゃん。チケットノルマのことなんだけど、確かにそういうパーティも存在する。けどそればっかりじゃないよ。パーティっていうのは、つまり発表会のことなんだけどね、発表会にも色々種類があるから 」


「 そうなんですか 」


「 そう。大まかに言うと、デモンストレーション、ミニデモ、トライアルの3つかな 」


「 その中でも様々な規模があって、ホテルの一室を借り切る場合もあれば、小さな教室で身内だけっていうささやかな規模のものもある。公民館でのサークルだと、ノルマはないことの方が多いかな 」


「 あ、私の知り合いもそう言っていた気が・・・ 」


「 トライアルっていうのは、ミックスコンペとも呼ばれるんだけど、要はチームマッチのことなんだ。1ヒート4~5組ぐらいのコンペ形式で一斉に踊って、審査員もいて、ちょっとした賞品が出る場合もある。

 ミニデモっていうのはデモンストレーションのミニ版のことでね。デモンストレーションは何かっていうと、1組ずつ、3分間の演技披露に合わせた照明などの演出が施される発表会のこと。つまりペアの二人だけで踊れるものなんだ。本格的な分、エントリー料も高いし、ミスをしたら丸判りになっちゃうから、まさに腕と見栄が必要な舞台だ 」


「 ちなみにデモは3分間のシンデレラって言われている 」


「 シンデレラっ♡ 」


「 発表会は多くの場合、ホテルでそれなりの広さの所を借り切って開催されるから、出演者の参加費用だけで賄うことが難しいってことと、発表会である以上は人に見てもらうことに意義があるでしょ。だからチケットノルマが付いていることが普通なんだけど、そのチケット代を招待客自身が払ってくれたらいいけど、もしキョーコちゃんが知り合いに来てって誘われたらどうする?ワンチケット2~5万ぐらいだよ 」


「 うっ・・・それは・・・お金を払わなくていいなら行ってもいいって言う・・かも 」


「 だよね。そもそもボールルームに興味がない人が気軽に払える金額じゃないから、だから必然的に出演する人がチケット代を払うことになるって構図が出来ちゃうわけ 」


「 な、なるほど 」


「 でもミニデモはチケットノルマが少なかったり、無かったりするから、そっちに出る人もいるよ。その代わり照明の演出がなかったり、時間が短くなったりしているけど 」


「 でも、自分たちだけがフロアで踊るって、下手じゃ出来ないことですよね 」


「 そうだね。だからエントリーする人は発表会までの時間とお金を惜しまないって人が大勢いる 」


「 そんなに社交ダンスに時間とお金をかけてペイするの?・・・なんてタイトルの電子本まで存在するぐらいだ。ゴルフはお金がかかる趣味として名高いけど、デモラーはそれ以上だと言われているからな 」


「 ふええええっ? 」


「 社さんみたいに腕のいいコーチャーにお願いすれば、当然コーチを拘束する時間分の対価が必要になる。国内でデモしているだけでもベンツの2~3台は当たり前。中にはマンションや一戸建てぐらい散財している人なんて珍しくも何ともないんだ 」


「 ひえぇぇぇっっ?!!信じられないっっ!! 」


「 ああ、でも。キョーコちゃんはレッスン料なんて考えなくて平気だよ。蓮がいるし、俺だって請求するつもりは無いからね 」


「 ただね、最上さん。そこまで突き抜けた人生を歩んでいる人は、間違いなく微塵の後悔もなく、楽しい人生だったって言えるだろうなって、俺は思うんだよ 」


「 同感だ、蓮。それ、言えてる。絶対そうだと俺も思う 」


「 もちろん、踊ることが単純に楽しくてダンスを続けている人もいるから、スタジオでのレッスン料以外にダンスにお金はかけませんって人もいる。そっちの人の方が多いだろうね 」


「 楽しみ方は人それぞれ。それもボールルームのいいところ 」


「 言えてます。ただどっちの姿勢であっても、時間をかけた分だけ自己価値は上がって行き、情熱を注いだ分だけこだわりが強まって上手くなり、その努力をした分だけ達成感も格別なものになるのだけは間違いない 」


「 それは何にでも言えることだけどな。立派な個人財産だと言っていいと思う 」


「 ですね 」



 終わりの方、キョーコは二人の会話をただ聞いているだけだったけれど、判る…と思ったし、羨ましいなとも思った。

 社が言ったように、二人は同じ価値観を共有している同士なのだろう。

 だから一緒に暮らすことができるのだ。



「 ところでキョーコちゃん。発表会の話に戻るけど、お金がかからない発表会っていうのもあるんだよ、実は 」


「 え? 」


「 そっちは競技会って言うんだけどね 」


「 社さん? 」



 蓮が眉を顰めると、社は目線をキツめた。その目が黙れと言っている。

 社の意を正しく受け取った蓮は、ただ静かに固唾を飲み込んだ。



「 競技会、ですか? 」


「 そう。競技会っていうのは、ボールルームの運動会だと思ってもらえばいいかな。エントリー料は必要だけど、ある一定条件を満たして参加すると、成績によって賞金が出るのもあるんだ 」


「 ええ、賞金が出るんですか。それは魅力的ですねっ! 」


「 くす。そういうのはどう思う?出たいと思う? 」


「 それは、そうですね。同じ踊るならそっちの方がお得な気がします♪・・・でも、さすがに私じゃ無理だろうなってことぐらいは判っちゃいますね。優勝とか準優勝とか、絶対に無理でしょう 」


「 賞金は優勝や準優勝した人にだけ払われるんじゃないって言っても? 」


「 へ? 」


「 これは決して一律ではないけど、例えば準決勝に進めたペアには20万、そこで6位に入賞すれば30万、5位なら40万と上がっていって、優勝すると300万、とかもある 」


「 ええー、6位でも30万円ももらえるんですか。準決勝に進めた場合でも20万?ええー、なんかそう聞くと手が届きそうな気が・・・・いえいえ、世の中そんなに甘いはずがないですから、私じゃやっぱり無理だと・・・ 」


「 それは努力次第かな。もちろん組む相手にもよるけど、蓮は優勝したこともある男だから 」


「 えっ?!敦賀さんってそうだったんですか!すごい!やっぱりすごい人だったんですね! 」


「 他にも、ダンスを始めてたった一年で優勝しちゃった人とかもいるよ 」


「 えっ?そういう人もいるんですか!?すっごーい 」


「 この世界を知らない人は意外に思うかもしれないけど、それって実は別に珍しいことでも何でもないんだ。だからキョーコちゃんでも、蓮と組んで頑張ればそうなれる可能性は十分にあるよ 」


「 えー、うっそぉ 」


「 本当だよ。ただし、普通の発表会と異なることがあってね。パーティの場合はお金を払って一種目だけ踊ればそれで終わりなものだけど、運動会の場合は全種目に出る必要があるんだ。それで総合評価を下されるわけ。となると、キョーコちゃんは10種目すべての足型を覚えなきゃ出場できない 」


「 そうなんですね。それって陸上で言う、10種競技みたいなものってことですよね。ちなみに足型って、覚えるのにどのぐらいかかるものなんですか? 」


「 平均的に言うと3ヶ月ぐらいで大抵の人は覚えるかな 」


「 へー。3ヶ月か・・・ 」



 それだったら、2ヶ月後のダンスパーティに出るより、ひと月分家賃を節約できるかも?


「 最上さん? 」


「 ああ、は、はいっ? 」


「 この時点で君はどっちに興味ある?2ヶ月後にパーティに参加するのと、社さんが言った数か月後に運動会に出て賞金を狙うのと・・・ 」


「 え・・・それは・・・。正直に言うと賞金が出る方に断然興味があります。私、明確な目標がある方が頑張りやすい性格なので・・・ 」


「 ・・・っ・・・そうなんだ 」


「 じゃ、蓮と一緒にそっちを目指してみるっていうのはどうかな?俺達としてもね、年配者ばかりが集まる発表会より、運動会の経験値の方が高いから、色々やりやすいんだ 」


「 あ、そうなんですね。だったら、はい!私、運動会の方で頑張ってみたいと思います 」


「 本当に?二言はないね? 」


「 はい! 」


「「 やった!! 」」



 キョーコが笑顔で了承した瞬間、蓮と社は思わずハイタッチを交わした。


 はいと答えた時点でキョーコは逃れられない蟻地獄に足を踏み入れたも同然だった。

 もちろん二人はそんなこと、キョーコに微塵も悟らせはしなかった。






 ⇒◇13 に続く


真の策士は蓮か社か。

ちなみに蓮と社のセリフがどれなのか判らないものもあるかと思いますが、適当に読み流してください。



⇒ウィークエンド・シンデレラ12・拍手

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