いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、はるやまち様からお与かりした記念リクエストの第二部をお届け致します。
二部だけど続きナンバリングです。すみません。
前のお話こちら【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 】
■ ウィークエンド・シンデレラ ◇16 ■
「 敦賀さん朝ですよ、起きて!! 」
土曜日の朝6時。
ヒズリ・ダンススタジオビル11階でキョーコが蓮の布団をはがした。
寒い季節ではないとはいえ全身を包んでくれていた布団がなくなれば肌寒く、蓮はぼーっとしながらうっすらと目を開けた。
「 ・・・いま何時? 」
「 朝6時!ご飯が出来ましたから起きてください 」
「 もう6時…。社さんは? 」
「 さっき自力で起きていらっしゃいました!敦賀さんも早く起きてご飯を食べましょ。踊りたいんでしょう?早く!! 」
「 ・・・・・はい、起きます 」
蓮がリビングに行くと確かに社はそこにいた。食卓椅子に腰を下ろし、すでに朝食が用意されているテーブルに伸びている社の右手がマグカップを抱いている。湯気が立っている所を見ると中身はコーヒーだろうと想像出来た。
「 おはようございます、社さん 」
「 おー、起きたか、蓮。お前の分もあるぞ、コーヒー。そっちに 」
「 ありがとうございます 」
言いながら蓮は社の前に腰を下ろした。
「 なんだか信じられないよな、俺達 」
「 そうですね。何しろ今まで朝6時に寝ることはあっても起きたことなんてありませんでしたからね 」
「 ははっ 」
3人で暮らすようになってから既にふた月が経っていた。つまりあのダンスパーティからひと月だ。同時にキョーコがやる気を出してからひと月。
キョーコのバイトの都合上、ダンスの練習は土日にしか行えないため、土日に限り蓮と社は早朝からキョーコにたたき起こされるようになっていた。
用意されていたコーヒーを口に運び、蓮はその芳醇な香りに酔いしれるように両目を閉じた。
「 敦賀さん、起きて!! 」
「 うわっ!!・・・なに、びっくりするだろう、そんな耳元で急にっ 」
「 コーヒーを飲むふりをしながら寝ようとするからですよ 」
「 違う。いまはコーヒーの香りを味わっていただけだ 」
「 本当ですか?二度寝しようとか思っていたんじゃないですか? 」
「 完璧な濡れ衣だ。ベッドから這い出た瞬間から俺は覚醒している 」
キョーコと蓮のやり取りを微笑で見守りつつ、社がテレビ前のローテーブルに視線を移す。そこに置かれたディスクを眺め、社はキョーコに向かって口を開いた。
「 もしかしたらまた貴島・琴南ペアの映像を見ていたの?キョーコちゃん 」
「 はい、朝起きてからですけど 」
「 そう。そんなに良かった?あの二人 」
「 はい、すっごく!!私も琴南さんのようなシンデレラになりたいと思うぐらいにはとっても素敵な二人でした。私もあんな風に踊りたい 」
「 そう。ま、良いことだよね、目標が出来るって言うのは 」
社、蓮に引き続き、キョーコが自分の席に座る。テーブルは1メートル四方の正四角形で、社の前に蓮、蓮の左側にキョーコ、キョーコの左側に社がいる。
朝食はコンソメスープにトーストとバナナ。食後30分からすぐダンスの練習に入れるよう、消化の良いものが中心で、それが土日の定番朝食メニューとなっていた。
「「「 いただきます 」」」
キョーコが着席したのを合図に朝食がスタートした。
彼女が作る料理はどれも文句なく美味しかった。
「 今日はニンジン、ジャガイモと白身魚のスープか 」
「 デザートはバナナ。腹七分目までは喰っとけよ、蓮 」
「 心得ています 」
食事と運動のタイミングは条件次第で最適時間が変化する。具体的には食事の内容と量と食べ方、運動の種目や強度などと、個人差が出る胃腸の消化吸収能力によって推奨される時間が異なる。
一般的には食材を柔らかく調理したスープなど、消化の良いメニューを腹七分目程度によく噛んで食べたあとなら、食後20~30分程度で軽い運動から始められるとされている、それを参考にした形だった。
午前中4~5時間の合間の休憩でプロテインを摂取して、たっぷり踊ったあとは体が栄養を欲するため昼食は逆にたっぷり食す。
体を動かすのは筋肉で、たんぱく質の摂取は必須。もちろん他の栄養もだ。
しかし海藻やこんにゃく、キノコ類、脂身の多い肉やナッツなどの食物繊維や脂肪が多い食品は消化に多くの時間がかかる。そのため体を大きく上下させる運動をする場合は2時間以上あけることが推奨とされている。
それゆえ蓮とキョーコは午前中の疲労回復の目的も含め、昼食後2時間前後を打ち合わせの時間としてスケジュールを管理していた。最もそう決めたのは社だが。
「 あ、そうだ。敦賀さん、社さん 」
「 うん? 」
「 なに? 」
「 実は私、昨日、夜のバイトを辞めてきました 」
「「 え? 」」
「 だって食費も家賃もいらないって言うから、一人暮らししていた時より全然お金がかからないんですもん。とはいえ、ビル清掃の仕事を辞めたら全く収入がなくなってしまうので、そっちのバイトは続けます。練習用シューズとかドレスとか、買わなきゃですしね 」
「 最上さん 」
「 でも本音を言うと辞めたのは別の理由です。夜のバイトをしていると昼間眠くてしょうがなくって・・・ 」
今までキョーコは月曜から金曜まで、午前中3時間はビル清掃をしていた。加えて月・水・金の午後2時から夜9時までは料亭でアルバイト。それで得られるひと月の収入は20万円に届かなかった。
蓮と出会ってからは土日をダンスの練習に充て、残り火・木の午後には絵本作成の仕事の時間。すると休める日は一切ない。
もちろんそれでも最初は良かった。どうせダンスは期間限定だと分かっていたから出来ると思った。けれど・・・。
「 やっと10種の足型を覚えて、体もだいぶ鍛えられました。でもまだまだだって分かっています。だから余計に頑張りたいって欲が湧いてきたんです。ダンス、もうちょっと頑張ろうって 」
「 ・・・っっ 」
「 それは嬉しい限りだよ、キョーコちゃん。じゃあ、そろそろ次に移ろうか 」
「 つぎ? 」
「 そ。キョーコちゃんの言う通り、一応10種の足型も覚えてもらえたことだし 」
「 一応って…。これでも私けっこう頑張っているのに 」
「 分かってる。だからこそだよ、キョーコちゃん。やる気があるならなおさら、そろそろ賞金が出る競技会を目標に、それに参加できる資格が得られるパーティに出席しようか。エントリーは俺がしておく 」
「 パーティ?!それってこの前みたいな・・・ 」
「 いいだろ、蓮? 」
「 もちろんです。腕が鳴ります 」
「 ・・っ!!それって。社さん、つまり私と敦賀さんとで・・・? 」
「 当然だよ。蓮のパートナーはキョーコちゃんで、キョーコちゃんのリーダーは蓮なんだから 」
「 はい、 嬉しいです!!私、頑張ります!! 」
「 なんだ、俺と踊れるのがそんなに嬉しいんだ?朝から晩まで土日にみっちり踊っているのに 」
「 なんですか、そのしたり顔。私はただ、初対面の人と踊るよりは敦賀さんの方がって、ただそれだけですよ 」
「 そうなんだ。そんなに俺と踊りたかったんだ 」
「 人の話、聞いていませんね? 」
「 じゃあ、ドレスを買いに行こうか、最上さん 」
「 は? 」
「 晴れて俺と踊れる初めてのパーティなんだから、是非その記念に。どんなのがいい?俺としては肩紐がいいなと思うんだけど。デコルテを大胆に開け、しかも胸周りが緩くて、踊るたびにちらちら見えちゃうようなドレス 」
「 っっっ!!絶対いやっ!そんなの着るぐらいならこの前お借りしたドレスで十分です!社さん、この前のドレス、貸してください!! 」
「 ・・・んー。でもあれでラテンは踊れないからなー 」
「 俺が買ってあげるってば。ラテンもスタンダードも踊れるドレスをね。裾は短めでターンするたびにチラ見えして、思わずゾクっとしちゃうような物が良いよね。その方が俺のやる気を一層そそってくれるから。よし、買いに行こう!! 」
「 絶対に行きません! 」
「 蓮。そういうネタでキョーコちゃんをからかうのはよせ。キョーコちゃんも、真に受けなくていいから。ドレスは俺が候補をいくつか考えておくから 」
「 大体、なんで敦賀さんが私のドレスを用意するんですか!自分の燕尾服でも準備してくださいよ! 」
「 そう言われてもな。俺、燕尾服なんて腐るほど持ってるから。ドレスはルーティンを左右するから早めに決めておくに越したことなく、従ってすぐにでも買った方がいいと思う 」
「 そうだとしても、少なくとも自分のドレスは自分で決めます!敦賀さんだって最初、私にそう言っていたじゃないですか 」
「 あの時は確かにそうすればいいと思っていたんだけどね。俺が決めた方が楽しいって気づいちゃったから君のドレスは俺が決めたいなって・・・ 」
「 人の話を聞け、二人とも!ドレスもルーティンも俺が決める!!飯終わったんなら着替えてさっさとフロアに降りろ!ストレッチを忘れるな 」
社の一喝が鋭く入ったところで、二人は肩を縮めて声を揃えた。
「「 はい 」」
実はこんな光景も定番になりつつあった。
⇒◇17 に続く
このシリーズは現時点の目算で25話前後で完結する見込みです。つまり二部が10話程度ってことですが・・・終わるかな・・・。
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