いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、はるやまち様からお与かりした記念リクエストの第二部続きをお届け致します。
オレンジカラー・ナンバリングは二部の意。
前話こちら【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 ・17 ・18 ・19 ・20 ・21 】
■ ウィークエンド・シンデレラ ◇22 ■
その選択を彼女にさせた理由はなんだろう。
自分で頑張ると言ったわりに、それからめっきり絶不調に陥ってしまったらしいキョーコを見下ろしながら、蓮はここ最近そのことばかりを考えていた。
「 キョーコちゃん、ダメダメ!回転量が全然足りてない。その程度の動きだから後半のステップで蓮の歩幅と合わなくなるんだ。もっと大きく素早く動かないと 」
「 そうですよね、すみません!敦賀さん、すみません。もう一度最初からお願いします 」
「 了解 」
「 …っっ…キョーコちゃん、だからって回転量ばかりに気を取られてたらダメだって。手は優雅に泳がせて、膝はもっと柔軟に曲げるんだ。適当に動いていると思わぬケガをするから気を付けて 」
「 すみません。分かっているんですけど難しくて… 」
「 頑張れ。それと、蓮!! 」
「 はい? 」
「 お前、何考えながら踊っているんだ。キョーコちゃんをもっとリードしなきゃだろ!どうした、お前らしくもない 」
そんなこと、言われたって。
「 あとな、ついでだから言うけど、この前からお前の練習着、いったい何?なんでジャージじゃない訳? 」
「 社さん、それ!その指摘を待っていました。実は俺、ヒートダンス選手権は予選会も本選もこのズボンで踊ろうかと思って 」
「 はぁ?出来るか!それ、ゴルフウェアだろうが! 」
「 そうですけど、出来ますよ。既定の範囲内ですから。ウエスト位置だって標準ですし、濃紺で無地ですから何の問題もありません 」
「 服装規定だけを見れば確かにそうだけど、どう考えても社交ダンスズボンで踊るべきだろ。そんなの一杯持っているんだから、その中のどれかを着ろよ 」
「 社さん。俺、常々思っていたんですけど、社交ダンスズボンってそもそも太過ぎると思いませんか? 」
「 はぁ? 」
「 女子のズボンが太いのはカッコいいからいいと思うんですけど、せっかくレッスンでこれだけ腰や足や膝の動きを細かく練習しても、あんなだぼだぼのズボンじゃ外から見たって動きなんて絶対伝わらないですよ 」
「 かもな。でも社交ダンス界ではそういう形が常識で・・・ 」
「 それ!日本人の悪いところです。これと決められたことに疑問を持たないところ。でも俺はそういう当たり前だと思われているズボンの太さがずーっと嫌だったんですよ、実は 」
「 お前ね。今さらそういう面倒くさいことを言うなよ 」
「 今さらじゃありません。言ったでしょ、ずーっと思っていたって。足が細い選手だとズボンの生地まで肉が触れないから筋肉の動きがまったく外に伝わらなくて、まるでテロテロ、ペロペロなワカメみたいじゃないですか 」
「 ワカメ・・・ 」
「 ジャージで練習している時の方が自分の筋肉の動きが感じられて踊りやすいところからも、裾は細いに限ります。そもそも昔のやんちゃな学生服みたいな足元ってカッコ悪いと思いませんか? 」
「 考えたこともないけど。みんな一緒だし 」
「 だったら今こそ考えるべきです!ジャイブの時、裾がバサバサするのって気持ち悪くないですか?サンバのバウンスアクションの時、膝の動きが感じにくいから大雑把で単調になりがちじゃないですか?ルンバの時、足の動きが感じられないからって膝を伸ばそうとし過ぎて過剰にお腹を張っちゃうでしょう?チャチャ特有の微細で素早い足元のアクションを充分に見せられていると思えますか?
パソドブレのアペルを踏む動作だって、裾が太いせいで隠れちゃっていますよね。あれ、表現できているかどうかを審査員は本当にチェックしているのかよって、疑っちゃったときとかないですか? 」
ダンスの練習途中だったから、蓮とキョーコはお互いの右手同士を取り合っている状態だった。
でも蓮が手を離す気配はちっとも感じられないし、そのくせ話がヒートアップしてきてしまって、だからキョーコは仕方なく、立ち止まって二人の会話を眺めていた。
額からはいくつも汗が流れていたけど、乱れた呼吸はすでに整い始めている。
回復スピードは以前の比では無かったが、それでも社から言わせればキョーコはまだB級に達しているとは言い難いレベルだった。
「 疑ったとき・・・は過去に何度かあったけど 」
「 ほら、あるんじゃないですか、やっぱり、社さんも!!! 」
「 ぷっ 」
我が意を得たりなツッコミを見せた蓮の様子に思わず笑ってしまって、キョーコは二人から顔を反らした。
それに気づいて蓮が優しく口元を緩める。
良かった、少しは笑ってくれて。
キョーコの言葉通り、ヒートダンス選手権予選会に目標が変わったのは蓮も賛成したからだ。
けれど自分からそれを言い出したというプレッシャーを感じているのだろうか。それからのキョーコはまるで日の丸を背負ったオリンピック選手のような顔つきで毎日練習に励んでいた。懸命に。
だというのにこちらからのリードの手ごたえがまったく感じられなくなって、キョーコが何を考えているのか蓮にはまるで分らなくなってしまった。
一緒に踊っているのに分厚い壁を感じる。
リードとフォローの役がまったく機能していない。
なぜこんな風になってしまったのだろう。
「 それでですね、社さん。いま俺が言ったすべての不満を解消してくれるのが裾が細めのズボンというわけなんです。実際、俺の足の動きが良く見えたから今まで黙っていたんでしょう?社さんだって 」
「 まぁ、そうだけど 」
「 このズボン、探しまくったんですよ、俺。裾が絞られていてストレッチ性があって、フォーマルシルエットでポリ中心のスポーティな素材の10分丈・・・で、見つけられたのがゴルフウェアだったんです。そう言えばゴルフも紳士のスポーツですからね。
これ、服装規定に沿っているから出場できるはずですけど、万が一のことを考えたらやっぱり特注依頼したほうが良いですかね。その場合、ちゃんと裾絞りで作ってくれるかな 」
「 服装規定って、さっき社さんも言っていましたけど、そういうのがあるんですか? 」
「 あるよ。選手権大会だけじゃなくて、競技会にも 」
「 そうなんですか。知らなかった 」
「 だろうね。そうだと思ってた。前に蓮がからかった時、キョーコちゃん、真に受けていたから 」
「 え? 」
「 ノービスに出ようって決めたとき、蓮がキョーコちゃんをからかったでしょ。デコルテを大胆に開けて、踊るたびにちらちら見えちゃうようなドレスにしようかって言ってたあれ。でもそういうデザインのドレスだと服装規定に引っかかって、実際に着たら出場できないんだ 」
「 そうなんですか?! 」
「 そうだよ。男性は一般的な襟付きの白の長袖シャツと、黒か濃紺の無地ズボン。女性はレオタードにスカートか、ブラウスにプリーツスカート、もしくはシンプルなドレスで・・・っていう規定がある上、許可される襟の形まで決まっているんだ。だから俺、言ったでしょ。真に受けなくていいって 」
「 っっっ、そういう事だったんですね!ぷん 」
可愛らしく拗ねたキョーコが頬を膨らませ、蓮を睨み上げてから視線をそらした。
社はそんなキョーコを優しく宥めたが、蓮は笑顔をひそめた。
なぜだろう。やっぱり壁を感じる。
このところはいつもこうだ。直ぐに会話が止まってしまう。
たぶん、以前の彼女なら自分に食って掛かって来たと思うのに。
最近の彼女はどこかよそよそしい感じがある。
特に一番感じているのは、前ほど笑わなくなったこと。踊り始めた当初は、体がきついって言いながら二人で良く笑い合ったのに。笑いながら練習していたのに。
やっぱりこの状況をこのまま放置するのは得策じゃない、と蓮は思った。
「 社さん。今日は全フロアに予約が入っているから俺たちの練習はこれまでですよね 」
「 ああ。だからいつものように筋トレをするか、あるいは予選会用のルーティンでも考えるか? 」
「 ルーティンは社さんに一任します。俺と最上さんは買い物に行って来たいので 」
「 え? 」
「 なんだ。さっき言った特注ズボンをお願いしてくるのか? 」
「 ええ。そうしようかなって 」
「 それでなんで私もなんですか?敦賀さん、一人で行ってくればいいじゃないですか 」
「 そんなこと言わずに、リードフォローの鍛錬のつもりで俺とデートしよう、最上さん 」
「 はぁ?デート? 」
「 そうだよ。しかも一緒に出掛けていくんじゃなくて、どこかで待ち合わせをするデートスタイルで 」
「 なんでわざわざそんなこと 」
「 なんでも。・・・ということで、君にこれをあげる、はい 」
そう言って蓮がズボンの後ろポケットから取り出したのは某コーヒーショップのプリペイドカードだった。
キャラクターのワンコが店舗の窓から客が来るのを待っている、そういうイラストが描かれている。
「 え? 」
「 入金してあるから、それ使ってコーヒーでも飲みながら俺の到着を待ってて 」
「 ・・・・何それ、すごい手練れ感 」
「 何の手練れ感だよ。立ちっ放しで俺の到着を待つよりマシだろ。俺、少し待たせるつもりだから 」
「 だったら遅れる時間に待ち合わせればいいじゃないですか。こんなの用意しなくても・・・ 」
「 何時に終わるか読めないから。それと、毎朝美味しいコーヒーを淹れてくれるお礼も含めたつもりなんだけど。・・・けどそうか。街角で俺の到着をワクワクしながら待ちたいって希望があるなら確かにこれは要らないな 」
「 ああ、うそ!要ります。せっかくですからご馳走になります 」
「 そう?良かった。じゃあ、はい。ちゃんと俺のこと待っててね 」
「 はい、はい 」
良かった、カードを用意していて。
良かった、了承してくれて。
もちろん蓮の目的は買い物などではなかった。
それよりもっと大切なこと。
見えなくなってしまったキョーコの心と
そういう選択を彼女にさせた
そもそもの理由が知りたくて。
⇒◇23 に続く
太いズボンの話はプロダンサー太田洵司さんのつぶやきがあまりにも面白かったので勝手に採用させていただいちゃいました。
ところでこれ、あと3話じゃ終わらんわw
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