【技術士対策55】技術士による真実性の確保 | 技術士を目指す人の会

技術士を目指す人の会

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

朝日新聞デジタルに、水道管の老朽化に関する記事が掲載されていました。

以下の通りです。

 

松山市公営企業局が老朽化した水道管の更新の必要性を訴えるために広報チラシに掲載した漏水事故の写真が、水道管の劣化とは無関係の交通事故で起きた漏水を撮影した写真だったことがわかった。職員が写真を選んだ際、漏水の原因まで確認せずに掲載したという。

写真が掲載されたのは、「まつやまの水道・下水道」と題したカラーB4判のチラシ。先月15日に発行され、市の広報紙に折り込む形で、市内全戸(約24万3千世帯)に配られた。道路橋のたもとにある水道管が破裂し、水が数メートル以上勢いよく噴き上げる様子をとらえた写真で、「水道管の老朽化は、破損による漏水事故の発生リスクが高まる」「計画的に更新していく必要があります」といった記事と掲載された。同局に「交通事故による漏水ではないか」と外部からの指摘があり、調べたところ、2014年に市内で起きた車同士の衝突事故で、水道管が破損した様子を撮影したものだと判明したという。

市公営企業局企画総務課は「今後は市民に誤解を招かないように対応していきたい」としたが、「あくまでも漏水事故のリスクを伝えることが目的の写真だった」として訂正などの予定はないという。市は17日開会の議会定例会で、水道料金を平均13・89%引き上げる条例改正案を提案している。

「水道管老朽化は漏水リスク」と訴えた写真、実は交通事故時 松山市(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

 

この記事を読むと、広報活動の難しさを痛感します。

広報チラシの場合、漏水のインパクトを求められます。

ここからは推測ですが、道路上の漏水事故の写真を探したところ、最近のものでは良いものが無かったのでしょう。

しかも、大半の漏水事故は、道路の一部が冠水する程度で、水柱ができるほど噴き上げるようなことはありません。

十分な精査をせずインパクトのある9年前の写真を採用してしまった。

ところが、その写真は、鋼管製添架管の空気弁に車が衝突して、折損して水が噴き上げたものだった、という感じだと思います。

 

記事にあるとおり、管路更新の遅れは、漏水事故に直結します。

水が噴き上げるな事故が発生する可能性があります。

これは噓偽りのないことです。

漏水のイメージを伝えるために、自然漏水ではない事例を使って説明しても、特段問題はないと思います。

人間誰しもミスはありますし、広報チラシの差し替えの費用を考えても、この件を過度に問題視するべきではないと考えます。

 

●技術士の場合

ただし、これが技術士が作成した説明資料の場合、少し問題があります。

「技術士倫理要領」の第4項に、真実性の確保というものがあるからです。

以下の内容です。

 

技術士は、報告、説明又は発表を、客観的でかつ事実に基づいた情報を用いて行う。

 

このように、技術士は、真実に基づいた情報を用いて、説明を行う義務があります。

というわけで、「もしも技術士がこの広報チラシを作っていたとしたら」という視点で考えてみましょう。

 

まず、この広報チラシは、老朽化した塩化ビニル管の更新を行うことの必要性を強調しています。

塩化ビニル管はφ50~φ75程度の小口径で採用されます。

つまり、大口径の鋳鉄管や鋼管の更新よりも、強度的に問題がある塩化ビニル管の更新を優先するという戦略なのです。

漏水を抑制するという課題に対して、塩化ビニル管の更新を行うという対策を講じることは妥当ですから、これはこれで、良い方法です。

もしも、技術士が説明資料を作るのであれば、塩化ビニル管の脆弱性を示すため、管体に亀裂が入った写真を示すことになります。また、塩化ビニル管からポリエチレン管やダクタイル鋳鉄管に更新するのであれば、耐震性を強化することを説明することになります。

一方、強度的に問題がある塩化ビニル管よりも、大口径の鋳鉄管や鋼管の更新を優先するという考え方もあります。

漏水に伴う断水時の影響を考慮したわけですから、これはこれで妥当な判断です。

もしも、技術士が説明資料を作るのであれば、大量の水が噴き上げた写真を示しと思います。

この度の広報チラシのような写真です。

 

つまり、この広報チラシは、漏水事故の原因として塩化ビニル管の老朽化を重要視しながら、実際には、ダクタイル鋳鉄管や鋼管の老朽化をイメージしていたわけです。

強度的に問題がある塩化ビニル管の更新を優先するという戦略に合致していない資料を提供していたわけです。

この広報チラシの件は、漏水の原因が、自然漏水によるものではなく、車両が衝突したことによるものだったことがクローズアップされています。

しかしながら、もしもこれが技術士の説明資料であったとするならば、漏水原因の分析に誤りがあったことになり、自らの技術的な提案(塩化ビニル管の更新)を拒絶される可能性があったわけです。

やはり、事実に基づいた情報を用いて説明を行うことは重要なのです。

今回の一件は、写真を使用して説明する際は気をつけなければならない、という教訓ですね。

 

 

●技術士倫理要領について

技術士倫理要領は以下の通りです。

(公衆の利益の優先)
 1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する。

(持続可能性の確保)
 2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努める。

(有能性の重視)
 3.技術士は、自分の力量が及ぶ範囲の業務を行い、確信のない業務には携わらない。

(真実性の確保)
 4.技術士は、報告、説明又は発表を、客観的でかつ事実に基づいた情報を用いて行う。

(公正かつ誠実な履行)
 5.技術士は、公正な分析と判断に基づき、託された業務を誠実に履行する。

(秘密の保持)
 6.技術士は、業務上知り得た秘密を、正当な理由がなく他に漏らしたり、転用したりしない。

(信用の保持)
 7.技術士は、品位を保持し、欺瞞的な行為、不当な報酬の授受等、信用を失うような行為をしない。

(相互の協力)
 8.技術士は、相互に信頼し、相手の立場を尊重して協力するように努める。

(法規の遵守等)
 9.技術士は、業務の対象となる地域の法規を遵守し、文化的価値を尊重する。

(継続研鑚)
 10.技術士は、常に専門技術の力量並びに技術と社会が接する領域の知識を高めるとともに、人材育成に努める。

 

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●技術士試験対策

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