プロの翻訳者による辞書の本当の使い方(これをやれば高度な単語力が身につきます) | 翻訳で食べていく方法★プロの翻訳者養成所
2022-02-13 14:06:50

プロの翻訳者による辞書の本当の使い方(これをやれば高度な単語力が身につきます)

テーマ:翻訳者のスキルアップ法

翻訳者の七つ道具の1つに「辞書」があります

 

もしかしたら、「辞書を使う翻訳者はまだ一人前じゃない」「プロ(ベテラン)の翻訳者は辞書が要らない」と勘違いされている人もいるかもしれません

 

「プロ」の翻訳者が辞書を使う理由は、3つあります

 

①自分の使った訳語(用語)のが適切であることを確認・証明するため

 

②しっくりいく言葉が思いつかない場合にインスピレーションを得るため

 

③度忘れしたときのショートカット

 

プロの翻訳者は以上のような用途に辞書を使います

 

「辞書が要らなくなる」ということは生涯ありません

 

つまり、辞書は翻訳者の七つ道具として、生涯そばに置いておくものなのです

 

辞書(あるいはそれに代わる道具)を使わない翻訳者、つまり、自分の頭の中にある単語だけで訳文を作る翻訳者は、自分が今もっている知識止まりの、不十分な仕事しかできないのです

 

「辞書」という、あの形のものに限定されるものではありませんが、百科事典、ウェブの用語辞典、定義、Wikipedia、論文、広告、資料などなど、用語が使われているあらゆる形のものを参考書として、自分の繰り出す訳文のインスピレーションとして常に参照し、より適切かつより豊かな(効果的な)訳文を作っていくことが、翻訳者が生涯にわたり求められることなのです

 

決して、自分の頭の中だけにある言葉だけで、(楽をして)仕事をしてはなりません

 

ハチハチハチ

 

言語運用能力(持っている語彙数を含め)が未熟な人、単語の意味をしるために辞書の助けが必要な人は、今回の話に出てくる翻訳者の範疇ではありません

 

そういう人たちはもちろん、迷いなく単語の意味を引き出せるようにしておかなければなりません

 

もちろん、母国語でさえ、すべての単語が頭のなかに入っているわけではありません

 

そういう単語はもちろん辞書を調べて、自分の想像している意味とイメージが重なっていることを確認しなければなりません

 

語学習得の過程での辞書の使い方とはちょっと違う用途ではありますが、辞書は翻訳者にとっても何よりも重要な参考書かもしれません

 

辞書をはじめ、言葉の参考書を常に参照して、自分の言葉が一般に使われている意味と相違がないかを確認しながら訳文を作っていくことがとても大事です

 

以前、こんなことがありました

 


いつのことかも覚えてないくらい昔の、駆け出しのころです

 

でも、この出来事は今でも忘れられません

 

でも、このとき私がクライアントの「逆切れ」の原因になったのが、私が選択した訳語の正当性を、客観的な裏付けを添えて示してしまったからでした

 

この案件はフランス企業の契約書の和訳の仕事だったのですが、ある法務用語の訳語を、当時の私は判例やフランス法に関する論文で確認したうえで敢えて使ったのでした

 

おそらく、そういう質問(クレーム)が来るだろうな・・・ と思って予防線を張っておいたところでした

 

案の定でした

 

私は説明を求められたので、クライアントが提示してきた「訳語」ではなく、私が採用した訳語がなぜ適切なのかをフランス法の観点から裏付けを添付して提示しました

 

それに対する反応が、「もう仕事を頼ない」だったのです

 

若かりし私は、ちょっと納得いきませんでしたが、間に入っていた翻訳会社からの何の対応もなかったので、それ以上、抗議はしませんでした

 

その後どうなったかは分かりませんが、その翻訳会社からは仕事を受注し続けました

 

(その件については、翻訳会社はノーコメント)

 

私の裏付けが、その翻訳会社の防衛になったのかどうかは私には分かりませんが、何か問題が発生した際に自分の責任が果たせるように、決定の裏づけ・根拠をしっかりと持ち、それを提示できるようにしておくことが、リスクマネジメントやコンプライアンスの観点からも重要です

 

これが「説明責任」と言われるものです

 

「説明責任」は、よく政治家の人や経営幹部が好んで使う言葉のようですが、あの人たちの多くがやっていることは、本当の意味での「説明責任」ではありませんね

 

ミスや不正があったときに記者会見をして「言い訳」をして、挙句の果てに「その件に関しては記録が残っていませんでした」と言う・・・

 

論拠が何も示されず、オーディエンスが納得いく客観的な説明ができていないのでは「説明責任」が果たされたとは言えませんね

 

話は脱線しますが・・・

 

とにかく、説明責任を果たすうえで「辞書」は心強い論拠の1つになります

 

辞書に載っている単語かどうか、という意味ではなく、自分が使った訳語や表現が、社会通念上認められる定義に沿っているかどうかを客観的に示すことができる根拠になるのです

 

「私はそういう意味で使っています」では、客観的な論拠にはなりません

 

これは、専門的な用語や表現のみならず、一般的な語句や慣用句などについても言えます

 

たとえば「『的を得る』という言い方は間違っている!」と指摘された場合、それを誤用としていない学術論文や公文書など権威ある文書における用例などを示すことで、間違っていない論拠を示すことができるわけです

 

ですから、翻訳作業をしているときから、きちんと論拠を持って用語を使っていく必要があります

 

この目的を果たす道具の1つが辞書となります

 

(もちろん、辞書は傍に置く参考書の1つに過ぎません)

 

宝石ブルー宝石ブルー宝石ブルー

 

①の用途で辞書を使うことは、私の場合はそれほど多くはありません

 

(とはいえ、普通の人よりは辞書などを多く引くと思いますが)

 

たとえば、ある英単語に対して(その文脈において)少し奇をてらった訳語を思いついたとします

 

そんなとき、その言葉をその文脈で使ても原文の意味とまったく同じになるか、英単語の定義を調べて、完全にマッチするかを確認します

 

そんなときは、英英辞典(Definition Book)を使います

 

①の用途で使うのは、英和辞典よりも英英辞典のほうが圧倒的に多いかと思います

 

そして、英英辞典は②の用途でもよく使います

 

つまり「②しっくりいく言葉が思いつかない場合にインスピレーションを得るため」です

 

たとえば、

 

She gave me a significant look.

 

という文の significant という単語

 

普通は「著しい」とか「重要な」という意味が頭に浮かびますが、「重要な視線」などでは、ちょッと物足りない・・・

 

仮に、前後の流れから「彼女は意味深な視線を僕に送った」みたいな、こじゃれた訳をしたいなぁと考えたとします

 

「意味深な」なんて、ちょっと飛躍し過ぎではないか・・・ でもこれで原文の文脈上、同じ意味になっているか・・・ これを確認してみるのです

 

そのときに英英辞典(Definition Book)を見てみるのです

 

Collins English Dictionaryの定義はこうなっています

 

1. ADJECTIVE [usually ADJECTIVE noun] A significant amount or effect is large enough to be important or affect a situation to a noticeable degree. 

 

2. ADJECTIVE A significant fact, event, or thing is one that is important or shows something. 

 

3. GRADED ADJECTIVE [usually ADJECTIVE noun] A significant action or gesture is intended to have a special meaning.

 

Significant definition and meaning | Collins English Dictionary (collinsdictionary.com)

 

3. がありますね

 

「特別な意味を持たせることを意図した行動やジェスチャー」を表すときに「significant」という単語が使われることがわかります

 

「意味深」という言葉がその意味をバチっと表しています

 

これで、significant look の訳文を先ほどのように工夫すると、さらに原文に近い意味にできる(「著しい」とか「重要な」という単語はあまりよろしくない)ということが言えると思います

 

このように、辞書はインスピレーションを得たいときや、自分が思いついた訳語が原文の意味を的確に表してくれているかを客観的に確認するのに使うことができます

 

さらに、この意味では、私は英和辞典も使います

 

たとえば、先ほどの例文で「significant」に「著しい」とか「重要な」以外にもっといい単語がないかなぁ・・・ もっとしっくりくる言葉がなかったっけ?と思ったとき、つまりもっと良い単語がありそうなんだけど、いいのが思いつかない・・・ といったときに英和辞典や類語辞典を見ると、インスピレーションを得られることがあります

 

significantの意味 - goo辞書 英和和英

 

こちらで見ても、2 に「意味ありげな」「意味深長な」という単語がでてきて、「あ、これがいいかも!」となるわけです

 

宝石緑宝石緑宝石緑

 

翻訳者の辞書の使い方はもう1つあります

 

翻訳者は、「意味深な」みたいな意味で、もっとお堅い単語があったけど、あれなんだっけ? と、度忘れすることがよくあります

 

とくに、加齢が進むと・・・ 「あれ、あの言葉」と、なかなかすっと単語が出て来なくなったりします

 

そんなとき、何分もかけて思い出している暇がないのが翻訳者です

 

翻訳者は常に締め切りに追われています

 

ですから、思い出せないことを思い出すより、ネットや辞書でどんどん検索してしまったほうがはやいのですwww

 

こういう、現実的な(切実な)目的でも、辞書は手放せないのです

 

ベテランになればなるほど(=加齢)必要になるという事情が、お分かりいただけますでしょうか爆  笑

 

ともかく、曖昧な言葉や思い出せない言葉、「もっとしっくりいく言葉は?!」と思ったとき、迷わずに調べることが、よい翻訳者になるための秘訣ですよ

 

ちなみに、Google検索などで「意味深長 類語」と調べれば、すぐに10個くらいは候補があがります

 

「意味深長な言い方」の類義語や言い換え | 含みを残した言い方・含みを残した言い回しなど-Weblio類語辞典

 

 

「辞書を使うのはプロの翻訳者じゃない」とか「辞書を使っている翻訳者は怪しい」とか思っている方がいらっしゃったら、その考え方を変えていただくきっかけになれば幸いです

 

そして、翻訳者を目指している方は特に、ベテランになれば辞書が要らなくなるとか、翻訳ツールを使わなくなる、自分の頭1つで勝負できると思わないでいただきたいと思います

 

辞書をいつもそばにおき、フル活用していくことが、職業として翻訳をしているプロの翻訳者のあるべき姿だと思っています

 

 

Photo by John Appleseed on Unsplash

 

 

余談ですが・・・

 

「七つ道具」という言葉、現在ではとくに「7種類」に限定されるものではありませんが、元々はやはり7種類の道具のことを指していたようです

 

浮世草子(1694年)に「弁慶は祿重けれども、無用の七道具をこしらへて身躰ならず」という言い方が残っています

 

七つ道具【ななつどうぐ】の名前の由来とは?|名前の由来語源なら《ユライカ》 (yuraika.com)

 

今では7つ以上でも、慣例として使われているようですが、それもで言葉に示すとおり7種類の道具を挙げることは多いようですね

 

 

今日も最後までお読みくださりありがとうございました

 

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