※高校生物のレベルでの解説になります
「電子伝達系」は呼吸の反応の最終段階です。
前段階の「解糖系」と「クエン酸回路」は、何のために起きているのかが分かりにくいけれども、「電子伝達系」の幕で最後のオチまで聞くと、呼吸のストーリーの全容が分かってようやく腑に落ちます。
「ミトコンドリアはこれがやりたかったんだ…」、と、いうのは「ATP合成酵素を回す」ことなんですよねー。だったら最初からATP合成酵素の話をしてくれりゃあいいんですが、教科書や参考書の紹介は最後です。まあ、順に説明すればそうなるんですけど。
ミトコンドリアがATPを量産できるのは内膜にATP合成酵素を持っているからです。むいたミカンを重ねたような形が愛らしい。動力源は水素イオンH+の濃度勾配で、H+が通過する勢いでぐるぐると回転し、ADPをリン酸化してATPをつくります。
「NAD+とFADは、H+の濃度勾配をつくるために頑張ってたのかー…」、と、最後になって解糖系とクエン酸回路の意味が分かります。
さて、濃度勾配を作り出す仕組みの説明をしましょう。
ミトコンドリアの内膜には、電子伝達系という水素イオンH+をくみ出すためのポンプが埋まっておりまして、これは電子e-が流れることで駆動します(電気仕掛けってことですね)。
電子伝達系のお陰で、H+の濃度は膜間腔の方がマトリクスよりも10000倍高くなっているそうです(pHの差にして4ですね)。ミトコンドリアの内膜と外膜は生体膜だからH+を通さず、膜間腔というスペースがちょうどH+をためるのにちょうどよい袋として働きます。
NADHが、運んできた電子e-を水素伝達系のタンパク質に流すとH+が膜間腔に運ばれる仕組みです。
電子伝達系を構成するタンパク質はⅠからⅣまであって、電子e-がⅠから順にⅣまで流れると、Ⅱ以外の3つがプロトンポンプとして働きます。
NADHはⅠから電子e-を流すので、3つのプロトンポンプを動かすことができます。偉い人が計算すると、NADH1分子(e-2個)あたり3ATPを作るだけのH+を膜間腔に移動させることができるらしい。NADHはブドウ糖1分子から解糖系で2分子、クエン酸回路で8分子の合計10分子できるから、最大で30ATPをつくる計算になります。
クエン酸回路を構成するコハク酸脱水素酵素はⅡのところにあり、ここで働くFADは、H+と電子e-をNAD+に運んでもらうことなく、直接、電子e-を水素伝達系に流します。このため、FADH2は1分子あたり2ATPを作るだけのH+を膜間腔に移動させることになり、最大で4ATPをつくることになります。
こうしてNADHとFADの運ぶH+と電子e-のお陰を持ちまして、電子伝達系ではマックスで34分子のATPが作られます。
ここで、解消しなければならない大問題が2つあります。一つはATP合成酵素を回したあとにマトリクス側に流入するH+をどうにか処理しないとH+の濃度勾配を維持できなくなること。もう一つは、Ⅳに電子e-が集まって電子が流れなくなり、プロトンポンプが止まってしまうことです。
これらの問題は電子伝達系のⅣのところで、使用済みのH+と電子e-を酸素分子(O2)と反応させて水(H2O)にして除去することで解決します。
つまり、O2が十分にあればATP合成酵素を回し続ける状態が維持されるのです。電子伝達系でのATP合成は、酸素分子(O2)を絶えず供給する必要があるので、酸化的リン酸化と呼ばれます。
「息を止めると(O2をミトコンドリアに与えないと)苦しくなるのは、ATP合成酵素を回せなくなるからだったんだー」、と、腑に落ちれば、呼吸の反応は理解できたといっていいかもしれません。
最後に電子伝達系で起こる反応をまとめておきます。最初はややこしく感じても、呼吸のストーリーを理解して見直せば、覚える必要がないくらい簡単です。