高校生物学習教材 クエン酸回路を分かりやすく | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

※この記事の内容は、高校生向けの解説であることをお断りしておきます。

 

 「呼吸の反応」は難しいけど、「高校生物」の教科書ではちゃんと高校生に分かるレベルに簡単にしてあります。

 

 ただ、簡略化しすぎてかゆいところに手が届かないもどかしさはあります。だから、こんな鉛筆描きの落書きでも受験生の役に立つかもしれない。

 

 今日は、クエン酸回路を取り上げます。呼吸は、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の3つの反応系に分けて理解するので、2番目になりますね。解糖系については、過去記事の「解糖系を分かりやすく」を見てください。

 

 解糖系ではブドウ糖1分子から2分子のピルビン酸が生じます。このとき、H+と電子e-が4つずつ取り出され、NAD+に受容されます。

 

 

 

 このNAD+というのがイメージしづらく、高校生を戸惑わせていますが、構造式をもとに図にするとこんなやつです。水素イオンと電子を受け取って、NADHとH+(と表現される)形になります。

 

 

 酸素(O2)が十分に存在する条件では、ピルビン酸はミトコンドリアで徹底的に分解されます。

 

 

 

 ミトコンドリアの中に入ったピルビン酸の分解にあたるのは酵素なんですけれども、脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)と脱炭酸酵素(デカルボキシラーゼ)が働くという説明で片付けられてしまっており、説明がほぼないので、呼吸を理解しようと試みた高校生はイメージが持てず、あてもなく迷宮をさまよう恐れがあります。

 

 

 

 ミトコンドリアで働く酵素の多くは、複合体というチームを作って行動しています。クエン酸回路の最初で働くピルビン酸脱水素酵素(複合体)にも、脱水素にかかわるNAD+だけじゃなくて、脱炭酸にかかわるチアミン二リン酸、それから補酵素A(CoA)という補酵素たちが搭載されています。

 

 ピルビン酸脱水素酵素(複合体)の構造解析図を参考にすると、上の図のように表現できました。

 

 酵素に乗った補酵素たちはそれぞれ、チアミン二リン酸はピルビン酸のカルボキシ基(-COOH)から二酸化炭素(CO2)を取り外し、NAD+はH+と電子e-を受け取り、CoA(補酵素A)は脱水素と脱炭酸の果てに生じたアセチル基をくっつけて運ぶ仕事をしています。

 

 

 

 このCoA(Coenzyme A、補酵素A)は、教科書のクエン酸回路の説明の中で、どこからともなく現れ消えてゆく謎のキャラクターになっていて、戸惑う高校生はたくさんいると思います。

 

 高校生の皆さん、恐れることはありません。CoAはADP(アデノシン二リン酸)に炭化水素鎖がしっぽみたいに足されたヌクレオチドの仲間で、アセチル基を運ぶ仕事をしています。ありふれた補酵素でどこにでもおり、一番最初に発見された補酵素として有名なのです。まあ、だから「補酵素A」なんですけれども。

 

 CoAはクエン酸回路の冒頭で、ピルビン酸からできたアセチル基をシッポの先にくっつけてアセチルCoAと呼ばれるようになります。これがオキサロ酢酸と水からクエン酸を生成する反応にかかわります。

 

 

 オキサロ酢酸というのは、カルボキシ基(-COOH)が二つある炭素数4の有機酸です。これにアセチルCoAが運んできたアセチル基と水が加わってクエン酸が生じます。

 

 クエン酸というのはカルボキシ基(-COOH)が3つあり、トリカルボン酸(TCA)の仲間です。ちなみにクエン酸回路をクエン酸回路と呼ぶのは何故か高校までで、大学に進むとクエン酸回路はトリカルボン酸回路(TCA回路)と呼ばれるようになります。

 

 

 

 カルボキシ基(-COOH)の部分があると脱炭酸がしやすくなるとみえて、脱炭酸酵素が二酸化炭素を発生させて分解します。ここの反応は「高校生物」では、「高校生にはまだいいかな」、みたいな愛情をもって簡略化されているところで、実際はもっとややこしいです。ここではNAD+、二酸化炭素、それから水素源としての水だけが描かれていますが、きっとここでも酵素複合体が働いているのだろうなと推しておきましょう。

 

 酵素は主成分がタンパク質である割に、実際に肝心なのは補酵素や金属イオンの部分だから、タンパク質の部分は酵素の種類を増やすためにあると考えるとすっきりします。

 

 

 

 αケトグルタル酸からコハク酸ができる反応も大筋で理解することでよいとされています。ここでも脱水素酵素と脱炭酸酵素が働いて分解が進みます。ここではATPが合成されると書いてあるけど、実際にはATPじゃなくてGTPが作られているようです。GTPというのはグアノシン3リン酸というヌクレオチドなんだけれども、高校生物では習わないので、そうだと言うわけにもいかず、ATPが作られるということにしといてくださいって感じです。これは仕方ないですね。

 

 ここまでの反応を炭素数の変化でおさらいしておくと、オキサロ酢酸が4でアセチル基が2だから、クエン酸は6。そこから二酸化炭素が取れたαケトグルタル酸が5、コハク酸はさらに脱炭酸(二酸化炭素が発生する)されて4となり、これで脱炭酸は終わりです。

 

 

 

 さて次に、コハク酸は脱水素酵素によってH+と電子が抜かれてフマル酸になりますが、ここだけは水素受容体がNAD+ではなくてFADということになっており、高校生は泣く泣く、「なんでここだけ違うんだよ…」、と、愚痴をこぼしながら受け入れて学習を進めることになります。 

 

 

 

 FADというのは炭化水素からH+と電子を抜き取るプロフェッショナルで、やはりヌクレオチドのメンバーで、こんな図で表現できます。

 

 実を申しますと、実際に炭化水素からH+と電子e-を抜き出す仕事はFADの仕事であって、NAD+はFADが取り出したH+と電子をちゃっかり貰って運んでいます。なので、FADは脱水素を行う酵素には必ずおり、H+と電子を抜いてはNAD+に、せっせと渡しているということになります。教科書だとまるで、NAD+が脱水素からH+と電子の運搬まで一人で請け負い、大活躍しているような描かれ方をされてますけど、そこをいうとややこしくなるからと、省略されているのが高校の教科書なのです。

 

 コハク酸脱水素酵素のところだけ水素受容体としてFADが登場しないといけないのは、この酵素がすでに、ミトコンドリアの内膜に存在している電子伝達系を構成するタンパク質になっているからです。H+と電子を電子伝達系に運んでいくのが水素受容体の任務ですから、すでにゴール地点にいるコハク酸脱水素酵素のFADは、NAD+にH+と電子を運んでもらう必要がなく、直接、水素伝達系に渡すんだということですね。

 

 

 

 フマル酸になってしまえば、加水されてリンゴ酸になったあと、脱水素されてオキサロ酢酸に戻ります。これでクエン酸回路は完成します。

 

 長ったらしい説明になりましたが、高校生がつまづきそうなところは全てつぶし、簡単に説明したつもりです(だめか?)。

 

 最後にクエン酸回路の反応をまとめてみましょう。

  

 最初はピルビン酸2分子でした。

 

 クエン酸回路全体でH2Oが6分子足され、CO2が6分子発生し、2ATP(ほんとうはGTP)が作られていました。

 

 水素H+と電子e-はNAD+とFADに受け取られており、数えてみると、8NADHと8H+と2FADH2になっております。

 

 式にするとこうなります。クエン酸回路の迷路で道に迷った高校生が、図を手掛かりに、これか、ここか?と、内容を検証して脱出してもらえたら本懐です。