音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~ -39ページ目

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

佐渡裕芸術監督プロデュース

ジルヴェスター・ガラ・コンサート2022

 

【日時】

2022年12月31日(土) 開演 15:00 (開場 14:15)

 

【会場】

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

【演奏】

指揮:鈴木秀美

ピアノ:小林愛実 ★

ソプラノ:高野百合絵 ♦

ソプラノ:高橋維 ♥

バリトン:加耒徹 ♣

バス:河野鉄平 ♠

合唱:神戸市混声合唱団

管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

(コンサートマスター:田野倉雅秋)

 

【プログラム】

J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲

J.シュトラウスⅡ世:春の声 ♥

シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 ★

モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」より

 レポレッロのアリア “カタログの歌” ♠

 “結婚式の合唱” ♥&♠

 三重唱 “おだまり、悪い心よ” ♦&♣&♠

 ドン・ジョヴァンニのアリア “シャンパンの歌” ♣

 ドンナ・アンナのアリア “恋人よ、私を不親切な女と思わないで” ♦

J.シュトラウスⅡ世:ポルカ・シュネル「雷鳴と電光」

J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」より

 第2幕へのイントロダクション “歌え、踊れ!”

 第2幕フィナーレ “君と僕~ドゥイドゥ” ♦&♥&♣&♠

 “乾杯の歌” ♦&♥&♣&♠

 

※アンコール

<第1部>

ショパン:プレリュード 第17番 変イ長調 ★

<第2部>

J.シュトラウス:ラデツキー行進曲

蛍の光 ★&♦&♥&♣&♠

 

 

 

 

 

兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)のジルヴェスター・コンサートを聴きに行った。

J.シュトラウス2世の曲を中心としたニューイヤーコンサートのようなプログラムで、指揮の鈴木秀美による「“こうもり”というオペレッタはもともと大晦日が舞台だから、むしろジルヴェスターにこそぴったり」といったお茶目な言い訳スピーチもあった。

オーケストラの女性団員たちは色とりどりのドレスに着飾っており、お祭りらしい大変華やかなコンサートだった。

 

 

 

 

 

冒頭曲、J.シュトラウス2世の「こうもり」序曲で私の好きな録音は

 

●ワルター指揮 ベルリン国立歌劇場管 1929年1月セッション盤(CD

●C.クラウス指揮 ウィーン・フィル 1929年7月2日セッション盤(CD

●ワルター指揮 パリ音楽院管 1938年5月セッション盤(CD

●C.クライバー指揮 バイエルン国立管 1975年10月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●ウィーン・リング・アンサンブル(R.キュッヒル、E.ザイフェルト、H.コル、G.イベラー、A.ポッシュ、W.シュルツ、P.シュミードル、J.ヒンドラー、G.ヘーグナー) 1993年10月セッション盤(CD) ※室内合奏版

 

あたりである。

心浮き立つ快速テンポのワルター/ベルリン盤とクライバー盤(特に前者は粋で軽やかな理想的テンポ)、新旧のウィーン・フィルの美音が味わえるクラウス盤とリング・アンサンブル盤(特に前者は極上の音色)、ウィーンとはまた違ったフランスの美音が聴けるワルター/パリ盤。

 

 

今回の鈴木秀美&PACの演奏は、これらの名盤に匹敵するとは言わないまでも、緩急の差を大きく取ったメリハリのある佳演だった。

全体に快速というより落ち着いたテンポだが、この曲らしい勢いやワクワク感はちゃんとある。

テンポを落とすところで、かなり大きく落とすのが個性的で面白い。

これまでチェリストとしての彼の演奏しか聴いたことのなかった私だが、今回彼の指揮にも感心させられた。

 

 

 

 

 

オーケストラのみによる演奏としてはもう一曲、J.シュトラウス2世の「雷鳴と電光」が奏されたが、この曲で私の好きな録音は

 

●カラヤン指揮 ウィーン・フィル 1949年10月18日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●マゼール指揮 ウィーン・フィル 1982年1月1日ウィーンライヴ盤(NMLApple MusicCDYouTube

●クライバー指揮 ウィーン・フィル 1992年1月1日ウィーンライヴ盤(Apple MusicCDDVD

 

あたりである。

また、下野竜也&京響による実演(その記事はこちら)のノリのよさや、西本智実&イルミナートフィルによる実演(その記事はこちら)の堂々たる風格も忘れがたい。

 

 

今回の鈴木秀美&PACは、これらともまた違ったアプローチの、落ち着いたテンポながら打楽器の打撃音をことのほかしっかり利かせた、インパクトある楽しい演奏に仕上がっていた。

こちらの曲については、上記の往年の名演たちにも並ぶ演奏だったと言ってもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

私にとっての今回のメインディッシュであるシューマンのピアノ協奏曲、この曲で私の好きな録音は

 

●リヒテル(Pf) ロヴィツキ指揮 ワルシャワ・フィル 1958年10月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

●ポリーニ(Pf) カラヤン指揮 ウィーン・フィル 1974年ザルツブルクライヴ盤(NMLApple MusicCDYouTube123

●小林愛実(Pf) 田中祐子指揮 読響 2017年2月28日川崎ライヴ(動画、その記事はこちら

●藤田真央(Pf) 熊倉優指揮 N響 2020年11月14日東京ライヴ(動画、その記事はこちら

●小林愛実(Pf) 下野竜也指揮 N響 2022年2月5日東京ライヴ(動画)

 

あたりである。

また、2019年に聴いたクレア・フアンチの実演も忘れられない(その記事はこちら)。

私の今回のメインディッシュの理由はお分かりいただけたと思うが、この曲を得意とする小林愛実の実演をついに聴けるこの機会を心待ちにしていた。

 

 

そしてその演奏は、期待に違わぬものだった。

リヒテルやポリーニの輝かしい演奏とも、フアンチや藤田真央の爽やかな演奏とも違う小林愛実の解釈は、甘美な憧れに満ちたもの。

あらゆる音がしっとりと情感を含ませられており、無機質に鳴らされる音が一つもない。

晴れやかなはずの終楽章でさえ、彼女が弾くと楽天的な歓喜の歌には決してならず、「夢ならどうか覚めないで」とでも言わんばかりの、満たされ得ぬ憧憬の表現となるのだった。

おそらく初めて小林愛実を聴いたであろう知人に会場で会って話したところ、感動のあまり涙が止まらなかったとのことだった。

そういう演奏である。

華麗なコンチェルトを聴いてスカッとする、といった類の演奏ではない。

 

 

 

 

 

シューマンの協奏曲の後には、休憩を挟んでモーツァルトとJ.シュトラウス2世のアリアや重唱、合唱曲が抜粋で歌われ、ガラ・コンサートの楽しい雰囲気に戻った。

歌手も揃っていたが(なお大西宇宙は出演できず加耒徹が代役)、彼らの中では、ドンナ・アンナのアリアを歌った高野百合絵が特に良かった。

ドンナ・アンナのアリアというと、2019年にクルレンツィス指揮ムジカエテルナの公演で聴いたナデージダ・パヴロヴァの歌があまりにも素晴らしくて耳に焼き付いているが(その記事はこちら)、その迫真の表現力と比べることはできないものの、今回の高野百合絵もかなりしっかりと声が出ていて、(もともとメゾの音域と思われるが)高音域も余裕があり、十分に聴かせる歌いっぷりだった。

個人的に、クラシック音楽の日本人歌手でお気に入りの人が長らく見つけられなかったのだが、最近は今回の高野百合絵とか、あるいは例えば谷垣千沙とか(その記事はこちら)、良い声だと思う人がちらほら出てきていて嬉しく思う。

 

 

 

 

 

余談だが、小林愛実の衣装が少し珍しいというか、いくぶんゆったりした感じなのかなと何となく思っていたら、実は大変おめでたいことになっていたよう(こちら)。

喜ばしいニュースに幸せをお裾分けいただいた。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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京都大学交響楽団

第212回定期演奏会

 

【日時】

2022年12月16日(金) 開演 19:00 (開場 18:00)

 

【会場】

京都コンサートホール 大ホール

 

【演奏】

指揮:西本智実

管弦楽:京都大学交響楽団

(コンサートマスター:野口徹)

 

【プログラム】

シベリウス:交響詩「フィンランディア」 Op.26

モーツァルト:交響曲 第31番 ニ長調 KV 297(300a) 「パリ」

チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 Op.64

 

 

 

 

 

京都大学交響楽団の定期演奏会を何年かぶりに聴きに行った。

アマチュアオーケストラながらこれまで長い伝統を持ち、朝比奈隆など大御所指揮者の客演を実現してきた同オーケストラだが、今回ついに西本智実が客演することとなったのだ。

古今の日本の指揮者で最も偉大な人物は、鈴木雅明と並んで西本智実だと(勝手に)考えている私としては、これは絶対に聴き逃せない機会であった。

大指揮者がアマオケを振るというのは、指揮の魔術に触れる絶好のチャンスである。

 

 

 

 

 

最初の曲は、シベリウスの交響詩「フィンランディア」。

この曲で私の好きな録音は

 

●ベルグルンド指揮 ボーンマス響 1972年セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

 

あたりである。

北欧の柔らかい空気と、輝かしい勝利のファンファーレとを兼ね備えた演奏としては、今のところこれが一番だと思う。

 

 

今回の西本智実&京大オケの演奏は、さすがに北欧の空気感はなかったけれど、十分な重みと迫力があって、聴き手の心をぐっとつかむ良い演奏会の幕開けとなった。

 

 

 

 

 

次の曲は、モーツァルトの交響曲第31番「パリ」。

この曲で私の好きな録音は

 

●アバド指揮 ベルリン・フィル 1992年3月13-15日セッション盤(Apple MusicCD

●カンブルラン指揮 バーデン=バーデン・フライブルクSWR響 1999年7月22-24日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

 

あたりである。

前者は色彩感、後者は透明感と持ち味は異なるが、ともに優美で軽やか、典型的なモーツァルト演奏である。

 

 

今回の西本智実&京大オケの演奏は、小編成の曲だけあって個々の技量が目立ちやすく、さすがにプロオケや音大生オケとは比べられないが、それでもかなりよくまとまっていた。

第1楽章および終楽章のコデッタの力強さが印象的。

終楽章冒頭のヴァイオリンによる主題も清澄で美しかった。

西本智実が振ると、優美なロココ作曲家の曲ではなく、ベートーヴェンの交響曲第7番あたりを指し示すような、活力みなぎる曲になるのが面白い。

大変に聴きごたえがあった。

 

 

 

 

 

休憩を挟んで、最後の曲は、チャイコフスキーの交響曲第5番。

この曲で私の好きな録音は

 

●メンゲルベルク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管 1928年5月10日セッション盤(CD

●ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィル 1960年11月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管 1974年9月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●西本智実指揮 スヴェトラーノフ記念ロシア国立響 2011年2月7-11日セッション盤(CD

●西本智実指揮 スヴェトラーノフ記念ロシア国立響 2018年6月28日?モスクワライヴ(動画

 

あたりである。

つまり、西本智実の得意曲というわけである。

新旧のコンセルトヘボウ管の美音を引き出したメンゲルベルク盤とハイティンク盤(前者は派手、後者は地味だが)、カミソリのような切れ味のムラヴィンスキー盤、これらともまた違った西本智実のアプローチは、重厚でドラマティックな、この曲に最もふさわしい解釈だと私には思われる。

以前に彼女の実演も聴いたが、忘れがたい名演だった(その記事はこちら)。

 

 

さて、今回の西本智実&京大オケの演奏は、どうだったか。

聴いてみると、とんでもない名演であった。

伝統あるアマオケとはいえ、一人一人は20歳になるかならないかの若者、それも勉学の片手間にやっているはずのクラブ活動である。

そんな彼らが、西本智実の指揮棒に必死に食らいついて、凄まじい演奏をなしとげた。

充実した厚みを持つ低弦、ロマンティックに歌い上げるヴァイオリン、迫力に満ちながらも派手すぎることのない引き締まった金管。

ティンパニも、言い過ぎを恐れずにいえば、フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルのアウグスト・ローゼかヴェルナー・テーリヒェンか、と見紛うような暗い情熱の表現が聴かれた。

各奏者の疵は多少あるし、洗練された演奏というのとは違うのだけれど、演奏全体が一つの壮大なドラマを表現しつくしており、アマオケだからといって芋っぽいところが微塵もない、きわめて完成度の高い、圧倒的な演奏だった。

きっと多忙ななか必死に練習し全力で取り組んだのであろう若い団員たちにとって、青春のひとこまの思い出としてこれ以上のものがあるだろうか。

 

 

 

 

 

大指揮者が振るアマオケの演奏と、並の指揮者が振る超一流のオケの演奏と、どちらが良いか、という命題が以前からある。

私は、断然前者派である、ということを今回改めて確信した。

楽器も同じ、奏者も同じ、ただ前に立って棒を振る人が変わるだけで、音楽がもう全然違ってきてしまう。

これは、科学によって全てが説明される現代において、未だ残された世界の七不思議の一つだと私は思う。

西本智実の手になる音楽マジック、存分に堪能させてもらった。

それが配信で伝わるかどうかは分からないが、12月20日までの期間限定有料配信もあるようなので、興味のある方はどうぞ。 → こちらのサイト

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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「L.V.ベートーヴェン」

※ライブストリーミング配信

 

【日時】

2022年12月12日(月) 開演 20:00

 

【会場】

カフェ・モンタージュ (京都)

 

【演奏】

ヴァイオリン:上里はな子

ピアノ:松本和将

 

【プログラム】

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 op.24 "春"

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 op.47 "クロイツェル"

 

 

 

 

 

カフェ・モンタージュ主催の上里はな子&松本和将によるベートーヴェン2大ヴァイオリン・ソナタの演奏会をオンライン配信で聴いた。

 

 

 

 

 

前半のプログラムは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」。

この曲で私の好きな録音は

 

●クライスラー(Vn) ルップ(Pf) 1936年2月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●シュナイダーハン(Vn) W.ケンプ(Pf) 1952年9月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●グリュミオー(Vn) ハスキル(Pf) 1957年1月セッション盤(Apple MusicYouTube1234

●パールマン(Vn) アシュケナージ(Pf) 1974年6月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●P.フランク(Vn) C.フランク(Pf) 1992-95年セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●安永徹(Vn) 市野あゆみ(Pf) 1995年セッション盤(Apple MusicCD

●鈴木愛理(Vn) クズネツォフ(Pf) 2017年10月31日、11月1日セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりである。

この曲はとにかくのびのびと芳醇に、それでいてくどくなく上品に歌わせてほしい。

 

 

今回の上里はな子らの演奏は、これらの盤に比べると質実剛健というか、甘さ控えめのストイックな歌わせ方で、「春」というよりは「秋」といった印象。

といっても味気ないわけでは決してなく、本場ドイツを思わせる端正で味わい深い、彼女たちの個性のよく出た演奏だった。

 

 

 

 

 

後半のプログラムは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」。

この曲で私の好きな録音は

 

●イブラギモヴァ(Vn) ティベルギアン(Pf) 2010年5月25日ロンドンライヴ盤(NMLApple MusicCDYouTube123

 

あたりである。

他にティボー/コルトー盤(1929)、フーベルマン/フリードマン盤(1930)、クーレンカンプ/ケンプ盤(1935)、ゴールドベルク/クラウス盤(1936)、ブッシュ/ゼルキン盤(1941)、タシュナー/ギーゼキング盤(1951)、ハイフェッツ/スミス盤(1960)、ファウスト/メルニコフ盤(2006)、クロサキ/ニコルソン盤(2008)、ガット/リベール盤(2015)、五嶋みどり/ティボーデ盤(2022)あたりも好きで、名盤が目白押しの曲だが、このイブラギモヴァ盤のまっすぐな悲劇性、ケレン味のないデモーニッシュ性は、数多ある名盤たちを凌駕するほどのものだと思う。

実演で聴いたときも、ものすごかった(その記事はこちら)。

 

 

今回の上里はな子らの演奏は、これらの火花散るような名盤たちとは違った、クラシカルで落ち着いた構えの、大人の音楽だった。

激しい解釈を好む私にはややもの足りなくも感じられたが、新鮮でもあった。

飛ぶ鳥を落とす勢いの32歳のベートーヴェンのいかにもな悲壮感においそれとスポットを当てることは、慎重な彼女たちにしてみれば避けるべきことだったのかもしれない。

そういえば、ベートーヴェンがこの第9番から9年経った41歳時に作曲した第10番、彼の最後のヴァイオリン・ソナタだが、それを上里はな子らが先日演奏した際には、彼女たちの大人な味わいが曲にぴったり合った、堂々たる風格をもつ最高の名演となっていたのだった(その記事はこちら)。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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奇跡の四重奏

樫本大進&赤坂智子&ユリアン・シュテッケル&藤田真央

 

【日時】

2022年11月27日(日) 開演 15:00 (開場 14:15)

 

【会場】

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

【演奏】

ピアノ:藤田真央

ヴァイオリン:樫本大進

ヴィオラ:赤坂智子 *

チェロ:ユリアン・シュテッケル

 

【プログラム】

モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478 *

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 op.49

ブラームス:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 op.25 *

 

 

 

 

 

好きなピアニスト、藤田真央が出演する室内楽コンサートを聴きに行った。

彼の実演を聴くのはこれで10回目。

 

→ 1回目 2019年愛知公演

→ 2回目 2020年大阪公演

→ 3回目 2021年京都公演

→ 4回目 2021年関西フィル公演

→ 5回目 2021年モーツァルト第1回

→ 6回目 2021年モーツァルト第2回

→ 7回目 2022年大阪公演

→ 8回目 2022年モーツァルト第3回

→ 9回目 2022年モーツァルト第4回

 

今回は、ベルリン・フィルのコンサートマスター樫本大進らと共演した、ピアノ四重奏曲・三重奏曲の夕べである。

 

 

 

 

 

最初の曲は、モーツァルトのピアノ四重奏曲第1番。

この曲で私の好きな録音は

 

●セル(Pf) ブダペスト四重奏団員 1946年8月18日セッション盤(Apple MusicCD

●クリーン(Pf) アマデウス四重奏団員 1981年セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube123

●アレクセイ・メルニコフ(Pf) 豊嶋泰嗣(Vn) 磯村和英(Va) 上村昇(Vc) 2015年12月1日浜コンライヴ盤(CD)

●三浦謙司(Pf) 漆原啓子(Vn) 鈴木康浩(Va) 向山佳絵子(Vc) 2015年12月1日浜コンライヴ盤(CD)

●牛田智大(Pf) 川久保賜紀(Vn) 松実健太(Va) 長谷川陽子(Vc) 2018年11月19日浜コンライヴ盤(CD)

●アンスネス(Pf) トラスコット(Vn) ハンター(Va) F-M.グートマン(Vc) 2020年2月21-25日セッション盤(Apple MusicCD

 

あたりである。

この曲はピアノが大事で、ころころと軽やかかつ流麗にながれる演奏が好み。

今回の藤田真央のピアノも、これらの名盤にも増して軽やかで繊細なタッチによる、最高級の演奏だった。

これが聴けただけでも、今回行った甲斐があったというものである。

弦については、樫本大進のヴァイオリンと赤坂智子のヴィオラはなかなかよくこなしており、シュテッケルのチェロはそれよりやや音がかさつく印象だが、全体に十分満足できる出来だった。

 

 

 

 

 

次の曲は、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番。

この曲で私の好きな録音は

 

●ギラード(Pf) J.フィッシャー(Vn) ミュラー=ショット(Vc) 2006年2月14-16日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

 

あたりである。

とにかくユリア・フィッシャーのヴァイオリンがあまりにもうまい、そして爽やかな中にもほのかにドイツの味が感じられる、これぞメンデルスゾーンというべき最高の名盤。

これに比べると、今回の樫本大進のヴァイオリンがやや大味なのはどうしても否めない。

また、藤田真央のピアノは上の盤のギラードより表情付けが相当細やかだが、あくまで柔らかく、この曲らしい情熱はあまり出てこない(その点では樫本大進は情熱的でこの曲らしい)。

それでも、第3楽章など藤田真央の軽やかなピアノが曲想にぴったり、また樫本大進もかなりうまく弾けていて大変良かった。

 

 

 

 

 

最初の曲は、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番。

この曲で私の好きな録音は

 

●E.フィッシャー(Pf) ブレロ(Vn) ネル(Va) シュルガーズ(Vc) 1939年9月9日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

●R.ゼルキン(Pf) A.ブッシュ(Vn) ゴッテスマン(Va) H.ブッシュ(Vc) 1949年5月25日セッション盤(Apple MusicCDYouTube

●バビン(Pf) ゴールドベルク(Vn) プリムローズ(Va) グラウダン(Vc) 1958年1月10,13日セッション盤(Apple MusicCD

●D.ハン(Pf) I.ファウスト(Vn) ジュランナ(Va) ムニエ(Vc) 1996年8月21-24日セッション盤(NMLApple MusicCD

●フィールハーバー(Pf) ボーネン(Vn) ブントロック(Va) シュテムラー(Vc) 2020年1月7-9日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube1234

 

あたりである。

最初のモーツァルトのピアノ四重奏曲と違って、こちらのブラームスではピアノもさることながら特にヴァイオリンがうまいと引き締まる気がする。

その意味で、今回の樫本大進は上記の各名盤のヴァイオリンほどではなかったが、それでもブラームスらしい分厚い音色で全体をしっかり引っ張っていたように思う。

藤田真央は、ブラームスらしい重みはないが、相変わらずうまかった。

終演後、アンコールもトークもなかったが大ホールで満席だけあって拍手は盛大、スタンディングオベーションもちらほら見られ会場は熱気に包まれていた。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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東宝 「ミス・サイゴン」

 

【日時】

2022年7月31日(日) 開演 18:00 (開場 17:00)

 

【会場】

帝国劇場

 

【プログラム】

クロード=ミシェル・シェーンベルク:「ミス・サイゴン」

 

【あらすじ】

1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーで、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。

 

【スタッフ】

製作:東宝株式会社

オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ

作:アラン・ブーブリル、クロード=ミッシェル・シェーンベルク

音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク

演出:ローレンス・コナー

歌詞:リチャード・モルトビー・ジュニア、アラン・ブーブリル

ミュージカル・ステージング:ボブ・エイヴィアン

オリジナルフランス語テキスト:アラン・ブーブリル

追加振付:ジェフリー・ガラット

追加歌詞:マイケル・マーラー

舞台美術:トッティ・ドライヴァー

翻訳:信子アルベリー

訳詞:岩谷時子

舞台美術:マット・キンリー

編曲:ウィリアム・デヴィッド・ブローン

舞台美術原案:エイドリアン・ヴォー

衣裳:アンドレアーヌ・ネオフィトウ

照明:ブルーノ・ポエット

音響:ミック・ポッター

映像制作:ルーク・ホールズ

 

『ミス・サイゴン』日本プロダクション

音響補:ニック・グレイ

照明補:セーラ・ブラウン

衣裳補:リー・タッシー

ミュージカル・スーパーヴァイザー:アルフォンソ・カサド・トリゴ

振付補:リチャード・ジョーンズ

日本プロダクション演出:ジャン・ピエール・ヴァン・ダー・スプイ

エグゼクティブ・プロデューサー:トーマス・シェーンベルク

演出助手:渡邉さつき、永井誠

音楽監督・歌唱指導:山口琇也

訳詞補綴:松田直行

舞台美術助手:石原敬、岩本三玲

照明助手:日下靖順、古澤英紀

照明プログラマー:トム・デイヴィス

音響助手:秋山正大

衣装助手:桜井麗

ヘア・コーディネーター:吉田治美

擬闘:栗原直樹

キーボードプログラマー:スチュアート・アンドリュース

歌唱指導助手:本田育代

稽古ピアノ:間野亮子、知野根倫子、高田彩絵

コーディネーター・イン・ロンドン:河井麻祐子

舞台監督:広瀬泰久、菅田幸夫

指揮:若林裕治

副指揮:福田光太郎、渡邉晃司

オーケストラ:東宝ミュージック、新音楽協会

アシスタント・プロデューサー:柴原愛

プロデューサー:齋藤安彦、塚田淳一

 

【キャスト】

エンジニア:駒田一

キム:高畑充希

クリス:小野田龍之介

ジョン:上野哲也

エレン:仙名彩世

トゥイ:神田恭兵

ジジ:則松亜海

タム:藤元萬瑠

 

G.I.:松本悠作、植木達也、島田連矢、宮野怜雄奈、古川隼大、村上貴亮、土倉有貴、仙名立宗(スウィング:深堀景介)

シュルツ大尉:佐々木淳平

人民委員:横田剛基

クラブオーナー:萬谷法英

ハスラー:広瀬斗史輝、樋口祥久、藤岡義樹、齋藤信吾

副人民委員長:川島大典

僧侶:蘆川晶祥

ドラゴンダンサー:大久保徹哉、有木真太郎、大場陽介(スウィング:藤田宏樹)

ドミニク:髙田実那

イヴェット:三浦優水香

ココ:鈴木満梨奈

ミミ:江崎里紗

アデル:伊宮理恵

リリー:田中奏

イヴォンヌ:石毛美帆

フィフィ:岡本華奈

(スウィング:森田茉希)

 

 

 

 

 

ミュージカル「ミス・サイゴン」を観に行った。

高畑充希が出演する舞台を観るのはこれで4作目。

 

→ 1作目 2016年 「わたしは真悟」

→ 2作目 2017年 「エレクトラ」

→ 3作目 2022年 「奇跡の人」

 

大作曲家アルノルト・シェーンベルクの弟の孫であるらしいクロード=ミシェル・シェーンベルクが、「レ・ミゼラブル」の後に書き上げた円熟の作「ミス・サイゴン」。

あらゆるミュージカルの最高峰ともいうべきこの名曲のタイトルロールを、好きなミュージカル歌手の高畑充希が歌うということで、どうしても聴き逃すわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

今回の公演、言葉にならない素晴らしさだった。

高畑充希の透明な歌声は、まさにキムそのもの。

私の好きな女声ミュージカル歌手のアマンダ・サイフリッドと同じく、はっと耳を奪われるヴィヴィッドな高音をもった細身の歌声、またその地声の美しさを活かす控えめでノーブルなヴィブラートが特徴である。

ただ違いもあって、明るく華やいだ声質のサイフリッドに対し、高畑充希の声はよりシリアスで、どこか憂いを帯びている。

その点で、とりわけキムにふさわしい。

 

 

声量や力強さといった点では、交互キャストの昆夏美や屋比久知奈、日本初演の本田美奈子、それからウェストエンドのレア・サロンガ、ジョアンナ・アンピル、エヴァ・ノブルザダといった人たちのほうが上かもしれない。

しかし、キムという、特別に強い人ではなかったはずの、ごく普通の一人の女性の静かな悲しみの表現にかけては、高畑充希に優る人はいない。

そして、彼女の演技力。

冒頭の無垢で儚げな様子から、アリア「命をあげよう」の凛とした決意、真実を知ったときの絶望、そして終幕の真に迫った表現に至るまで、観る者の心を強く揺さぶってやまない。

私にとっては、唯一無二のキムである。

 

 

 

 

 

他に、クリス役の小野田龍之介はしっかりした声量が印象的、エンジニア役の駒田一は狂言回しとしての存在感があった。

なお、演奏されたのはエレンのアリアや終幕が変更された改訂稿で、演出もその際の新プロダクションである。

ウェストエンドと同じ、ヘリコプターを含む大掛かりでゴージャスなセットは、生で観るとかなりの迫力だった。

そして何といっても、C-M.シェーンベルクの書いた音楽の素晴らしさ。

パンフレットの高畑充希のインタビュー記事にあるように、どの瞬間にもキムの気持ちにぴったり合う音が書かれている。

 

 

キムの歌のみならず、作品全体にわたって描かれる人間の醜悪さ、軽薄さ、惨めさ、しぶとさ、これらに翻弄される愛、そういったものを甘いメロディや不気味な全音音階、異国情緒(ここではアメリカやアジア風の音楽)やライトモティーフなどを駆使して、どぎついまでにダイレクトに表現するシェーンベルクの書法の妙は、この物語の元となったプッチーニのオペラ「蝶々夫人」や、同作曲家の「トスカ」に匹敵する。

悪趣味の一歩手前の、胸の悪くなるような、それでも人間の真理を孕んだ物語を、とことんまで表現して昇華するような音楽。

よく見知った話であるにもかかわらず、第2幕のキムの悪夢のシーンや終幕に心動かされ涙してしまうのは、音楽の力である。

 

 

 

(画像はこちらのページからお借りしました)

 

 


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