香港大手企業、米中対立板挟み
パナマ運河港湾売却で中国圧力
「パナマ運河は中国の支配下」「米国に取り戻す」と意気込むトランプ米大統領と米中の関税戦争になっている中国との間で板挟みになり、中国に「愛国商人」を迫られている香港最大の大手複合企業、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)。ついに中米パナマ運河の2港湾運営権を売却するか、中止するか、重い代償を背負わされる立場に追い込まれている。
米投資会社に売却か中止か 長江和記実業(CKハチソン)
「愛国」迫る中国、香港企業苦境
▲香港で記者会見に答える長江和記実業(CKハチソンホールディングス)を創業した李嘉誠氏
CKハチソンは不動産を中心に巨万の富を築いた「香港の超人」の異名を持つ大富豪・李嘉誠氏(96)が創業した香港トップ企業。李氏は戦後、香港にプラスティックの工場を作り、造花「ホンコンフラワー」が大当たり。不動産業に転身して香港暴動で暴落した土地を買い取り、長江実業有限公司を設立して香港最大の不動産会社に成長させた。
▲長江和記実業(CKハチソンホールディングス)を創業した李嘉誠氏(右)と長男で同社社長の李沢鉅(ヴィクター・リー)氏
不動産だけでなく、港湾や移動通信、小売などを扱う和記黄埔(ハチソン・ワンポア)を買収、香港島の電力供給を独占する香港電灯などインフラ運営までの巨大複合グループを築き、中国や海外への投資の嗅覚は卓越していて「超人」と呼ばれるほど。
▲李嘉誠氏の家族写真
1989年の天安門事件後、大半の外国企業が撤退した際、逆に中国本土へ投資を拡大し、香港最大の企業集団になった采配は中国共産党の評価も高い。広東省潮州市に生まれ、1981年には20億香港ドルを投じて故郷の潮州の近くに汕頭大学を創設する愛郷心も強い。中国指導部とのつながりも深く、息子の李沢楷と李沢鉅は全国政治協商会議委員に就任している。
▲李嘉誠氏(左)と妻の故・莊月明氏
▲長江和記実業(CKハチソンホールディングス)の実績報告をする李嘉誠氏(中央)
中国共産党指導部の激しい権力闘争を半世紀以上見てきた李氏は、不動産バブルが続いた北京五輪後、不動産不況のリスクを鋭く察知し、2010年代に中国本土の不動産を処分。当時の香港各メディアは中国の衰退を先読みして事業の軸足を欧州など海外に移したと報じ、不動産不況による自社の被害を最小限に食い止めた。ここ10年、中国へのビジネス割合を薄め、欧州へビジネスをシフトし成功。23年のCKハチソンの売上4616億香港ドル(約8兆5050億円)で、そのうち欧州が2317億香港ドル(約4兆2620億円)と約半分を占める。
▲パナマ運河の港湾運営権がトランプ米大統領の発言で米中貿易戦争の矢面になり、運営権を売却したいCKハチソンは苦境
だが、米中貿易戦争が激化する直前、パナマ運河の港湾運営問題がCKハチソンのアキレス腱になってしまった。中国指導部に事前の根回しがなく、「超人」李嘉誠氏の先読みが誤ったのか。CKハチソンは3月4日、米大手資産運用会社ブラックロックなどの投資家連合との間でパナマの2港湾を運営する傘下企業の権益の90%となる228億ドル(約3.4兆円)で売却する基本合意を締結した。
▲中国共産党香港マカオ弁公室のウェブサイトにパナマ運河港湾運営権売却反対の大公報の記事が紹介されたことをPRする中国系香港紙「大公報」
中国系香港紙「大公報」は3月中旬から「国家の安全と利益を脅かす行為」と非難し、売却を撤回するよう批判記事を連日報じ、売却が中国の「国家安全法」や独占禁止法に抵触すると主張。中国共産党(香港マカオ弁公室)も同紙の批判記事を転載し、中国当局も売却を調査する意向を示し、売却撤回キャンペーンのように圧力をかけている。
トランプ政権が同社を中国共産党の意向通りに商業活動する中国企業と同一視し、トランプ大統領がパナマ運河を「中国が牛耳っている」と批判する発言があったことで同社は誤解を恐れて静かに売却によるリスク回避を望んでいたが、中国側の激しい反発で中国内や香港でのビジネスに様々な政治的圧力が加わる憂き目に遭っている。
▲パナマ運河についてトランプ米大統領の発言から火がついた港湾運営権問題
4月14日の米ブルームバーグ通信によると、李嘉誠氏率いるCKハチソンから43港の買収を目指す中心的な投資家グループとしてイタリアの資産家ジャンルイジ・アポンテ氏のファミリー企業が浮上し、パナマ運河の2港については米ブラックロック傘下の企業とアポンテ氏のファミリー企業がほぼ半分ずつ所有する形になるという。
基本合意による売却が実行されても、撤回となったとしても、「前門の虎、後門の狼」が待ち受け、CKハチソンにとっては代償がつきまとう苦境に追い込まれる形となりそうだ。
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