太陽の光の描写が印象的だった2本。

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  『神々の山嶺(いただき)』

 

 

夢枕獏原作、谷口ジロー作画の同名漫画をフランスのパトリック・アンベール監督がアニメーション化した2021年作品。

 

日本では日本語吹替版で劇場公開。

 

声の出演:堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美ほか。

 

記録上に残るエヴェレストの初登頂は1953年だが、伝説的なイギリス人登山家のジョージ・マロリーが1924年6月にエヴェレストの山頂付近で消息を絶っていたことから、「マロリーが初登頂を成し遂げていたのかもしれない」という説もささやかれていた。ある時、取材でネパールのカトマンズを訪れた雑誌カメラマンの深町誠は、長らく消息不明になっていた孤高の登山家・羽生丈二が、マロリーの遺品と思われるカメラを手に去っていく姿を目撃する。羽生を見つけ出し、マロリーの謎を突き止めようと考えた深町は、羽生の人生の軌跡を追い始めるが、尋常ならざる執念で危険な山に挑み続ける羽生という男の人間性に次第に魅了されていく。やがて2人の運命は交わり、冬季エヴェレスト南西壁無酸素単独登頂に挑む羽生に、深町も同行することになるが……。

(映画.comより転載)

 

原作は、夢枕獏さんによる小説も谷口ジローさんによる漫画も未読です。

 

フランス製のアニメーション映画といえば、去年、レミ・シャイエ監督の『カラミティ』を観たし、ここ最近は日本製のアニメよりもあちらの作品の方に足を運ぶことの方が多いぐらいで、今回もTVで宣伝を観ていわゆる日本で流行っている絵柄ではないところに興味を惹かれたし、評判もいいようなので。

 

そもそも恥ずかしながら僕は夢枕獏さんの小説を一冊も一篇も読んだことがないのですが、谷口ジローさんの漫画は90年代に『「坊ちゃん」の時代』を読んでいて好きでした。

 

僕は漫画のことは全然わからないですが、谷口さんの絵柄は劇画タッチでいわゆる日本の「アニメ絵」とは異なるので、個人的に入り込みやすかったんですよね。フランスのバンド・デシネ(フランス・ベルギー版コミック)に影響を受けていたのを初めて知った。あちらでも作品や谷口さんのことはよく知られていて高く評価もされていて、だからフランスでアニメ化されたのね。

 

でも、瞳の大きさが顔の半分ぐらいもありそうなアニメ絵でないのはいいんだけど、この映画を観ていると登場人物の日本人たちの顔が皆似通っていて判別しづらく、映画が始まってかなりの間慣れなくて困った。みんな目が異様に小さくて鼻の形に特徴があり、髭ヅラだと誰だかわからなくなる。

 

 

 

 

 

リアルといえばリアルかもしれないけれど、さすがにちょっとブサ過ぎないか。

 

深町の手の動きがオーヴァーで、アジア人顔を前面に出しているところなどもちょっと大友克洋監督の『AKIRA』を思い出したんだけど(それから高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』も少々)、そういえば大友さんもバンド・デシネの影響を色濃く受けていたのでした。そういうところで繋がってるんだなぁ。

 

できれば、日本のアニメとこういうアニメの中間ぐらいの絵柄が個人的にはありがたいんですが。

 

特に主要登場人物の深町と羽生が登山用の帽子をかぶってゴーグルをつけると、しばしばどっちがどっちだかわからなくて混乱した。

 

 


 

あと、これは僕が観た劇場がたまたまそうだったのか、妙に音が大きくて、臨場感を出すためにあえてそういう設定にしたのか、それともその劇場の上映の担当者の耳が難聴気味なのかわからないけれど、なんか台詞のヴォリュームも環境音も音楽もすべて大きいので耳がガンガンしてきて堪えられず、いつも持ち歩いているスポンジ製の耳栓を装着。それでも充分聴こえるぐらいだったから、相当デカい音だったんじゃないだろうか。他のお客さんたち、よく平気でいられたな(これの前に別の映画も観ていて、その時には音量の大きさは気にならなかったから、僕が神経質なわけじゃないと思う)。

 

映画の公開開始からすでに何週間か経っていたけど、お客さんはわりと入ってました。登山経験者のかたがたも観にこられてるんでしょうかね。

 

なんとなく勝手に期待していたんですが、僕自身は登山は未経験だし、だから映画での登山用語を交えた会話も理解しにくくて頭に入ってこなかった。ずっと観続けていればなんとなくはわかるんだけど、山に魅せられて危険なエヴェレスト登頂を目指す男が観客のこちらを置いてけぼりにしてどんどん先に行ってしまうような映画で、どうも物語に寄り添うことができなくて、雪景色が続くこともあって途中でブラックアウト。

 

客席でどれぐらい意識を失っていたのか、それともわずかに舟を漕いでた程度なのかわかりませんが、ネパールで「山登りはやめたんだ」と言っていた羽生が、気づくと再びエヴェレストを登っていた。

 

映像は美しかったし、まるで4DXで観ているかのような迫力があったし、雪山の恐ろしさを疑似体験することができましたが、心情的にはなぜあんな思いまでして、あそこまでの犠牲を払って登り続けるのかどうしてもわからないので(登山ってお金もかかるだろうし)常軌を逸した行為にしか思えなくて、ずーっと腑に落ちない気持ちのまま観ていた。

 

 

 

 

 

残される人々のこと、遭難して多くの人たちにかける迷惑など、個人の趣味や道楽で済むことではないし、実際、雪山で遭難したり亡くなる人は大勢いるわけだけど、申し訳ないけれど同情する気になれない。「なぜ登る?」という強い疑問だけがモヤモヤと胸に渦巻く。

 

 

 

それは映画を観終わった今も変わりませんが、ただ羽生が深町に遺した手紙の中に書かれていた、「山に登る理由などない」「生きている意味を探す必要なんかない」という言葉には、ちょっと背中を押された気もした。

 

ただ生きていくこと。命尽きるまで。意味も理由もなく、ただ登る。

 

ここで「山に登る」ということは、生きることそのものを表わしている。

 

ようやくここで僕は、この映画を観てよかった、と思えたのでした。

 

誰かが必死に登る姿に人は感動を覚えるし、その人が目にして感じたことは写真や言葉で伝えられるかもしれない。でも、「登る」行為そのものは、その人と、その人の身体とともやがて消えていく。何も残らない。

 

そこに寂しさとともになんともいえない清々しさもある。

 

世界一の山を制覇することと一緒にしたら失礼だけど、でも、頼まれもしないのにブログに映画の感想を書くのも似たようなものかもしれない、と思った。

 

何事も「価値」とか「意味」を云々される現在、ただひたすら何かを続けること。

 

その時、多分、本当の「自由」もそこにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『グレイマン』

 

 

アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ監督、ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ビリー・ボブ・ソーントン、ジュリア・バターズ、レゲ=ジャン・ペイジ、ジェシカ・ヘンウィック、アルフレ・ウッダード、ヴァグネル・モウラ、ダヌーシュほか出演。Netflix作品。

 

原作はマーク・グリーニーの小説「暗殺者グレイマン」。

 

音楽はヘンリー・ジャックマン。

 

CIAの指令の下で邪魔者を消す「シエラ」として働く“シックス”(ライアン・ゴズリング)は、任務中に標的からCIAの極秘情報の入ったチップを受け取る。情報の漏洩を恐れる本部長のカーマイケル(レゲ=ジャン・ペイジ)はシックスを始末するため、やはりCIAに雇われている暗殺者のロイド(クリス・エヴァンス)を差し向ける。

 

キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』のアンソニー&ジョーのルッソ兄弟によるアクション映画。

 

評判がいいのと、僕はルッソ兄弟の映画はこれまでアベンジャーズ関連作品しか観ていないので、それ以外の彼らのアクション物を観てみたくて。

 

正義の超人キャプテン・アメリカ役でルッソ兄弟と組んできたクリス・エヴァンスが悪役を演じる、というのも新鮮だったし(劇中で「超人」という言葉が嫌い、という台詞もw)。

 

 

 

主演はライアン・ゴズリングで、彼の出演作を観るのは2019年公開の『ファースト・マン』以来。共演のアナ・デ・アルマスは『ブレードランナー 2049』ではゴズリングの“恋人”役でした。

 

 

 

 

 

また、ゴズリング演じるシックスの父親代わりのような存在であるフィッツロイ役は先日「午前十時の映画祭」で観た『アルマゲドン』にも出ていたビリー・ボブ・ソーントン。当たり前だけど『アルマゲドン』の頃からも年を取ってるから、前もって知っていなければ彼だと気づかなかったかも。

 

 

 

カーマイケルの部下でロイドのお目付け役のようなブリューワー役は『マトリックス レザレクションズ』でキアヌ・リーヴスとともに闘っていたジェシカ・ヘンウィック。

 

残念ながら『マトリックス』の時のようにアクションは見せてくれなかったけど、あの映画の時よりもお芝居の見せ場は多かった気がする。またあとで述べますが、続篇があったら次はぜひジェシカ・ヘンウィックさんのアクションシーンも入れてほしい。

 

 

現在の彼女はひと頃の菊地凛子的なポジションなのだろうか

 

また、フィッツロイの姪クレア役は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でディカプリオと共演していたジュリア・バターズ。

 

 

 

 

かように出演者たちもなかなか魅力的。

 

で、実際、映画の方も結構面白くて、プラハでのトラム(路面電車)爆走のアクション場面ではどうやって撮ってるんだろ、と不思議だったほどの迫力。

 

さすが、Netflixの作品としては破格の予算をかけたというだけはある。

 

監督さんたちは「アベンジャーズ」シリーズでド派手なアクションはお手の物、といったところなんでしょうかね。

 

もっと地味な肉弾戦が続く作品かと思ってたら、シックスが乗った輸送機が空中で爆発四散するあたりから、あぁ、これは「007映画」なんだ、と。主人公のシックスはさまざまな国を飛び回るし、全身傷だらけになりながらもしぶとくて簡単に死にそうにないし。

 

アナ・デ・アルマスは『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』で本家ジェームズ・ボンドと共闘していたし、劇中で007をもじったシックスの台詞もある。

 

難しいこと考える必要がまったくなく頭空っぽにして観ていられる、ほんとに純粋にアクションに特化した作品。

 

潤沢な予算で実力派人気俳優たちを使って思う存分やりたいことやった、という感じ。

 

だから、内容的に観終わったあとに何か残るということはないんだけれど、面白いアクション映画を観たいなぁ、と思っている人はご覧になるといいですよ。

 

では、これ以降はネタバレを含みますのでご注意ください。

 

 

面白かったのを前提にあえて言うと、いろいろとユルユルな映画ではあった。

 

表沙汰にできないCIAの極秘情報については最後まで詳しく説明されないし、無敵の暗殺者シックスもジェームズ・ボンド同様に隙だらけで、たまたま仲間のダニ・ミランダ(アナ・デ・アルマス)が助けてくれたからよかったものの、一人で闘ってたらあっという間にオダブツになるようなキャラ。

 

また、ブリューワーから「ソシオパス」と呼ばれるロイドも、映画を観ているとそこまで頭がおかしそうには見えないんですよね。笑顔が可愛いクリス・エヴァンス(似合ってない口髭もどこかユーモラスだし)が悪態をつきながら銃撃したりゴズリングと闘う様子はどこか微笑ましくさえあって、観ていて愉快ではあったんですが。

 

クリス・エヴァンスの映画は、ここんところ僕は『フリー・ガイ』とか『ドント・ルック・アップ』などでカメオ出演みたいなのしか観てなかったんで、がっつり全篇に渡って出ている映画を久しぶりに観られて嬉しかったですが。

 

でもさぁ、人質を取ってるのにそれを全然脅しに使えてないのは、人質取ってる意味がなくない?^_^; いくら次から次へと傭兵たちを送り込んでも、子どもには手を出さない時点で全然クズ野郎じゃないでしょ。

 

そして、ロイドとの闘いにケリがついて病院から抜け出したシックスがCIAに軟禁されているクレアを助け出したところまではよかったんだけど、…えっ、ここで終わりなの?ってところで映画は終わってしまう。

 

ラスボスが倒されないんだよね。

 

カーマイケルが口にしていた「御大」というのが誰なのかも最後までわからず仕舞い。

 

これは続篇作ってほしいよね。すでにその計画はあるのかもしれないけど。

 

主人公が子どもの頃に父親からずっと虐待されていた、というくだりはベン・アフレック主演の『ザ・コンサルタント』を思わせた。あちらも続篇の企画があるようだけど。なんだったら、アベンジャーズよろしくこちらでも作品を越えてクロスオーヴァーしてベンアフと闘ったらどうだろうか(笑)

 

この映画、本来なら全国の大手シネコンで普通に上映されるタイプのエンタメ映画なんだけど、ネトフリ作品だからか、僕が住んでるところではミニシアター系のシネコン1館でしかやってなくて、客層がおじいちゃんばかりだった。いや、おじいちゃんやおばあちゃんたちがこういう映画観たって全然構わないと思いますが、もったいないなぁ。だって客席に若者が一人もいなかったもの。一人もだよ?^_^; みんな、夏休みなのにどこ行ってんの(あぁ、ネットで観てんのか)?

 

映画館がお年寄りが涼む場所になっちゃってる。いや、騒がしい若い連中が群れてる映画館よりもこちらの方が居心地は良いし、僕も外見は馴染んじゃってますが。

 

話題になってるアニメやアトラクションムーヴィー以外は、映画館に来るお客さんはこれからますますお年寄りやおじさんたちばかりになっていくのかなぁ。まぁ、若者よりも年配の人間の方が人数は多いわけだから、それならそれで僕は構いませんけどね。

 

ライアン・ゴズリングは来年公開予定のグレタ・ガーウィグ監督、マーゴット・ロビー主演の『バービー(原題)』でケンを演じているので、どういう映画になるのか今から楽しみです(^o^)

 

 

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