$映★画太郎の映画の揺りかご


ニコラス・ウィンディング・レフン監督、『ラースと、その彼女』『ブルーバレンタイン』のライアン・ゴズリング、『17歳の肖像』『わたしを離さないで』のキャリー・マリガン出演の『ドライヴ』。R15+



College feat. Electric Youth - A Real Hero


自動車修理工場で働きながら映画のスタントマンをしている主人公(ライアン・ゴズリング)は、強盗の逃がし屋という別の顔ももっていた。あたらしく住みはじめたアパートの隣人で子持ちの若い女性アイリーン(キャリー・マリガン)と知り合った彼は彼女と互いに惹かれ合うが、やがて事件に巻き込まれていく。

以下、ネタバレあり。



とにかく「不思議な映画」という評判を聞いて、気になっていました。

映画評論家の町山智浩さんによれば「ちょっとデヴィッド・リンチを思わせる作風」とのこと。

なので、普通の映画ではないんだろう、実験的な作品だったりすんのかな、とちょっと身構えながらの鑑賞。

冒頭、さっそく強盗を働いた二人組を乗せての“ドライヴ”がはじまる。

おなじようなシーンがあったジェイソン・ステイサム主演の『トランスポーター』を思い出すが、ステイサムの映画なら30分以内にハゲマッチョが上半身裸になって男たちとシバき合っているところ。

でもこの映画はいわゆるアクション物ではないので、ライアン・ゴズリング演じる主人公は淡々と仕事をこなし、日常に戻っていく。

ところで映画を観終わってから気づいたんだけど、この映画の主人公である“ドライバー”の名前は劇中で一度も出てこない。

キャリー・マリガン演じるアイリーンとの出会いの場面では台詞が一切なくて、バックに音楽が流れるだけ。

そしていつのまにか主人公は彼女の家に入っている。

なるほど、このあたりが「不思議」ということか。

省略と余白。

「北野武の映画からの影響を感じる」という指摘もあったが、たしかにそうかもしれない。

説明は極力省いて、俳優たちの無言の演技をじっと見つめるキャメラの眼。

出演者たちの表情から、彼らの心の動きを観客に想像させる余地をつくっている。

デヴィッド・リンチの映画にはオールドハリウッド、1950年代のアメリカのイメージがあるが、この『ドライヴ』では劇中で使われる音楽や主人公とアイリーン、彼女の息子ベニシオの3人がドライヴする場面の処理などが80年代映画風で、これはカッコイイのか、古臭いのかちょっと迷うような編集だな、と。

嫌いではないですが。

主演のライアン・ゴズリングは、僕は『ブルーバレンタイン』を観たきりだけど、出演作品が目白押しでつい最近も『ラブ・アゲイン』が公開されたばかりだし、現在も『スーパー・チューズデー』が公開中の超売れっ子。

『ブルーバレンタイン』では薄毛でちょっと腹の出てきたヒゲ面の中年男性を演じていたが、今回は一転してイケメンぶりを発揮、まさに「ウホッ、いい男」。

なんというか、特にこの人は「眼」が魅力的なんだな、と。

神秘的で、なにを考えているのかわからないちょっと怖いあの眼。

アイリーンと見つめ合う場面では、言葉を交わさなくてもふたりの目の演技に惹き込まれる。

アイリーンを演じるキャリー・マリガンは、僕はDVDで観た『わたしを離さないで』での演技が印象的で、やはり台詞をいわない場面での表情の作り方がじつに見事だった。

これまた大人気の「いい男」ミヒャエル(マグニートー)・ファスベンダーと共演している『SHAME シェイム』も気になっていたんだけど、ちょっと重い話っぽいので観るの躊躇してしまった。

DVDになったら観てみよう。

『ドライヴ』はそんな「いい仕事してる」旬のふたりの共演作品である。

また、アイリーンの服役中の夫役にオスカー・アイザック

髪を短く刈ってヒゲ面だったので最初ちょっと確信がもてなかったが、あとでキャストを確認してみたらやっぱりそうだった。

ロビン・フッド』や『エンジェル ウォーズ』で癖のある演技を披露していて、僕のお気に入りの俳優さん。

今回は出演時間はそんなに長くはないものの、やはりその眼の演技に「いいなぁ」と思ってしまった(あんまりウホウホいってるとほんとにそのケがあると誤解されそうだが汗)。こういう一見なんてことないような役に彼のような芸達者な役者を配置するところに好感がもてる。

オスカー・アイザックが演じるスタンダードが出所して家に戻ってきて、部屋の前で主人公と会う場面。

凡百の作品ならばこの前科者の夫をDV男にでも設定して主人公に退治させるところだが、この映画ではスタンダードは過去に犯罪に手を染めていながらもそれを反省して妻子を愛する男として描かれている。

彼が主人公に「妻を助けてくれたんだってな」というときの、ちょっとした緊張感。

この男は妻と主人公との関係をうたがっている。

ただそれをわかりやすく嫉妬のような形であらわすのではなくて、その表情と「アイリーンと話せよ」というわずかな言葉のやりとりで表現する。

これは、若妻と二人の男の三角関係に発展していくのか?と思っていると、しかし物語は意外な方向に進んでいく。

この映画は観終わったあとでは一応“クライム・ストーリー”といった説明ができるんだろうけど、なにも知らずに観てるあいだは先が読めなくてじつに面白かった。

たしかにこの「先の読めなさ」はリンチの映画っぽいけど、彼の作品ほど難解ではなく、思ってたほど「変」な映画でもなかった。

主人公がスタンダードと組んだ計画が失敗するあたりから、淡々としていたこの作品はヴァイオレンス映画に変貌していく。

ただ、残酷描写も「ここぞ」というところでバッと見せてまたちょっとクールダウンするといった感じで抑制が効いていて、たとえば韓国映画における同様の場面のような執拗さはない。

暴力のあつかい方などは、ちょっとデヴィッド・クローネンバーグの最近の映画に似てるかもしれない。

人の頭を踏み砕く場面もあるし。

主人公たちをワナにハメた黒幕があきらかになる後半はほかの類似の映画を思わせる展開で少々興奮も醒めたんだけど、それでも普通の映画ではやらないような撮影方法がとられていたりして、飽きずに最後まで観ていられた。

ヘルボーイ」シリーズのロン・パールマンが“ユダヤ人のピザ屋の経営者ニーノ”役で出ている。

この人、赤鬼みたいなヘルボーイのときは頼りがいのある気のいいキャラなのに、“素顔”で出てる役はけっこうあくどかったり、いつも悲惨な目に遭ってるのが可笑しい。

元映画製作者で主人公の運転の腕を見込んで多額の金をつぎ込むベニーといい、そのいかにもな強面おじさんたちの非情ぶりはガイ・リッチーの映画のギャングたちを思わせる。

ガイ・リッチーの映画ほど入り組んでないし、ユーモアはほぼ皆無だが。

スタンダードを脅す相手の服装など、ゴロツキってやっぱりどこでもああいうジャージとかスウェットみたいなの着てんのかな、と思った。

ちなみに、そんな使えない手下を滅多刺しにする凶暴なベニー役のアルバート・ブルックスは、マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』で、選挙事務所でロバート・デ・ニーロをバカにして殴られそうになるモジャ毛の眼鏡男を演じてた人。

ずいぶんと貫禄増しましたなぁ。

主人公は謎めいているが、アクション映画の不死身のヒーローのように大勢を相手に派手な立ち廻りをすることはなく、せいぜいショットガンで彼を殺そうとした男二人を返り討ちにする場面ぐらい。

それがかえってリアルで、だからこそ自分が出会った大切な存在の命が脅かされたときの彼の逆襲にはアガる。

“ドライバー”は映画のカースタントのバイトもしていて、キャメラの前でパトカーに乗って横転してみせたりする。

また彼は先ほどのベニーが金を出してレースにも出場することになっていたが、これらの設定はその後物語とほとんどからまない。

ハッキリいって、別に彼がレーサーやスタントマンでなくても物語上なんの支障もない。

映画の途中で車が追っかけ合う、まんま「カーチェイス場面」があったり、“ドライバー”が映画のスタントシーンでかぶっていたラテックスのかぶりものをつけて自分をおとしいれた敵を襲撃(相手を殺しちゃうんだから顔を隠す必要がないにもかかわらず)したりと、メタっぽい場面はあるんだけど。

この「設定が物語にあまりからまない」というのも、なんだかリンチっぽかったりして。

通常のアクション映画ならばそれはシナリオの不備ということになるんだろうけど、これは「どこに着地するのかわからない映画」なので、それもまた作品の不思議な雰囲気作りに貢献している、と好意的にとっておこう。

主人公“ドライバー”の素性は最後まで明かされない。

雇い主で工場の経営者シャノンはアイリーンに主人公のことを「5~6年前にこの町に来た」というが、元スタントドライバーで主人公の裏の仕事をサポートしている彼は、この“ドライバー”とはもっと前から知り合いだったのかもしれない。

雇い主という名目のシャノンに“ドライバー”は「黙ってろ」と横柄な口をきく。

また、自分をハメた相手の居どころを聞きだすために、いっしょに強盗の仕事をした女性に暴力をふるって脅すこともいとわない。

ニーノは電話口で「てめぇ素人だな」というが、そんな“ドライバー”に彼は易々と始末される。

そんな終盤を「カタルシス不足」という人もいるが、あきらかに観る者にカタルシスをあたえるのを放棄している黒幕の最期の描写もふくめて、作り手が描きたいのは派手な殺し合いでもカーチェイスでもなく、なにか別のもののようだ。

主人公“ドライバー”は、まるで『ペイルライダー』で劇中ではただ「プリーチャー(牧師)」と呼ばれていたイーストウッドのような「名無し」の神話的な存在として描かれている。

だから“ドライバー”は最後に腹を刺されても死なない。

見開いていた眼を閉じまばたきをして、ふたたび車を発進させる。

リアルに見えるヒーローでありながら、その存在はロマンティシズムに溢れている。

スクリーンのなかを走りつづける“ドライバー”は、今日もどこかで撮影されている“カーチェイス”のスタントマンのように正体のわからない幻影である。

ラストのあっけなさといい、なんとも“クール”な映画でした。



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