日本の教育はダメじゃない | 真の国益を実現するブログ

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今回のブログは著書名『日本の教育はダメじゃない』をそのままタイトルにして、そのポイントを紹介します。

今の日本の教育ではどんどん学力が低下するし、創造性は一向に育たない。またいじめも多い。したがって、教育改革は早急に必ず行わなければならない。
このような言説については、目に触れない日がないくらいマスコミや学者などから繰り返されてきました。そして、実際に教育改革が進められてきました。

結論から言うと、信用ある国際的な調査において、他国との比較で日本人の基礎学力や創造性が劣っている、またいじめが多いなぞというデータは確認されていません。むしろ逆の結果が出ています。

という私も、いじめの件数はともかくも、日本人の基礎学力は低下しているし創造性も高くないと思っていました。

ということで、日本の教育について客観的なデータをもとに検証・分析した著書である、ちくま新書2021年2月発行の『日本の教育はダメじゃない-国際比較データで問いなおす』からポイントを紹介(抜粋)しておきましょう。

なお、国際比較データですが、主に次の二つの調査の結果によっています。
A 「ピサ(PISA)」( Programme for International Student Assessment)
 15歳時点の世界の子どもの学力を調査するテストで、日本では「学力到達度調査」と呼ばれているものです。
 2000年から3年に1度行われていて、2018年までのデータからの分析で80か国が参加しています。
 実施している主体は、OECDを中心とした先進国グループです。

B 「ティムズ(TIMSS)」
 日本では「国際数学・理科教育動向調査」が正規名称です。ピサ(PISA)との違いは測る学力のタイプで、ティムズは「学校で習った内容をきちんと覚えていて使えるか」、一方、ピサは「学校で習った基礎的な内容を、新しい目的に対して創造的に使えるか」を測っています。

★ 日本は学力が高い
①日本のこどもたちは、基本的な知識という点では世界でトップクラス
知識を創造的に使うという点でも、数学と理科については、世界トップクラス。
③創造性を現実的な問題解決に活かす能力は世界トップクラス。

④学力格差に関して、基本的な事項を理解していない子どもは少ない。ただし、学力には社会階層の影響が認められ、他の先進国と同程度に不公平な社会である。
大人になったときの能力は世界トップクラス。
学力の一貫した低下傾向は認められない。

ここで学力が高いのは理解したが、勉強のしすぎであるとか、その代償も大きいのではないか、あるいは何かを犠牲にした結果ではないのかという疑念を持たれた方も多いと思います。
各種教育の代償についての分析も紹介されています。

★ 教育の代償は大きくない。
①国際的にみると勉強時間は少なめ。
②受験やテストに対して感じるプレッシャーの程度は、国際的に見ると普通。
高い学力を塾通いから説明するのは難しい。
高い学力は、むしろ、子どもたちの学習に対する考え方や、先生方の授業のやり方によるかもしれない。
⑤勉強に興味をあまり持っていないが、これは「学び」のために必要なことかもしれない。
⑥自分の能力にほとんど自信を持っていないが、そのことが高い学力を支えているのかもしれない。
⑦国際的に見ると、学校が楽しいと感じている子が多い。
いじめは国際的に見ると少なく、不登校も学業の修了という観点からは欧米のドロップアウトの問題よりは相対的に軽微である。
⑨10代の自殺率は国際的にみて中程度。

⑩肥満の割合という観点からは、非常に健康。

推論も含まれていますが、驚くべきデータ分析結果です。人口に膾炙している言説とかなり違いますね。
もしかしてマスコミや学者はデータを見ないで発信していたのでしょうか?

★ 教員の質の高さとその多忙さ
アメリカの教育研究者ジェームス・スティグラーの日本の小中学校とアメリカの小中学校を比較した研究によると、日本の中学校の授業は、アメリカやドイツに比べて質の高いものだと結論付けています。これは教員の質の高さがあってこその結果でしょう。日本の教育はしばしば、創造性を育まないからダメだと言われますが、スティグラーの調査では、発見・思考型の課題が使われていて、創造性を育む教育が行われていたとのことです。日本の教員の特徴としては、数学の別解(別の解答法)について、より多くの時間を子どもたちに与えて考えさせて発表させていることなどを挙げています。

ただ悲しいのが、日本の教員の多忙さで、労働時間の比較では群を抜いて世界一です。これは何とかしないといけません。今必要な教育改革は、教員の労働環境改善でしょう。

★ゆとり教育
「ゆとり教育」については、小中学校では2002年から、高校では2003年から実施され、第一次安倍晋三内閣が設置した教育再生会議での議論により、2011年以降「脱ゆとり教育」へ転換されています。
教育再生会議における議論では、「ゆとり教育」が学力低下の主因であるとして、「ゆとり教育」は撤回されたのですが、先にあげたピサ(PISA)データをきっちり見ると、「ゆとり教育」が学力低下の原因であったと言うことはできないようです。

★教員免許更新制
安倍晋三内閣設置の教育再生会議では、もう一つ大きな間違いを犯しています。学力低下の一因として、教員の質の低下をあげ、「教員免許更新制」を提案したことです。2007年に法制化、2009年に現場に導入されています。
では、「教員免許更新制」とは何か。これは文字通り、教員の免許を一定期間ごとに更新するものです。教員免許更新制の目的は教員の能力の保持・向上ですが、それを教員コミュニティの内発的な活動に任せるのではなく、講習を担当する外部専門家にゆだねる点で、「授業研究※」とは異なっています。学校の教員の持っている時間は限られているので、教員免許更新のために時間や労力を割いたら、授業研究がその分だけできなくなってしまいます。この「授業研究※」が日本の授業の質の高さだと国際的に注目されていたのに。。。
※「授業研究」とは・・・・教え方の改善を目的にした活動で、次のように行われます。まず先生方はグループを作って、一つの授業をどのように構成するかを考えます。その構成に基づいて、一人の先生が実際にクラスで教えてみます。他の先生方は、その授業を教室の後ろで生徒の反応を観察し、授業のどの部分が生徒にとって分かりやすく、どの部分がそうではないかを探ります。そして、先生方は再びグループで集まり、より良い授業構成や実践を考えます。この繰り返しを通じて、より良い授業を作り上げるとともに、教育能力を高めていくのです。

★繰り返される、エビデンスに基かない改革
このようなエビデンスに基づかない改革は教育行政に限ったことではありませんね。
「今のままでは立ち行かなくなる、抜本的に改革しないと!」、「まだまだ改革が足りない!」
政治改革・公務員制度改革・経済構造改革・少子化対策など枚挙にいとまがありません。
教育改革に関しては、日本に限ったことではないようです。アメリカでもオーストラリアでも、この20年、学力向上のための教育改革を数多く行ってきましたが、芳しい結果は出ていないようです。たぶん、教育やそれをとりまく社会というのは、私たちが考えるほど単純なものではないのです。
政治経済しかり、年金等社会保障制度もしかり、非常に複雑かつ有象無象の利害調整が発生する制度の抜本的改革なぞ、たいてい失敗するのです。いや、むしろ悪化するケースの方が多い。

★最後に
『日本の教育はダメじゃない』のポイントを紹介してきましたが、ぜひ読んでいただきたい本です。
先にあげた二つの国際的な学力調査記事とデータのURL貼っておきます。

まずは、ピサ(PISA)に関するNHKの記事から
『子どもの国際学力調査 日本は順位上昇 世界トップレベルに』

次にティムズ(TIMSS)の日本の成績の国際比較表
https://www.mext.go.jp/content/20201208-mxt_chousa02-100002206-2.pdf



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