コロナ禍対策を主因として、日米をはじめとした先進国の政府支出(財政赤字)が増大しています。
『2021年度の米財政赤字335兆円 議会予算局見通し』
『財政健全化の議論停滞 国債依存、7年ぶり4割超―21年度予算』
筆者は、日本は大きな政府であるべきだと考えていますし、財政赤字そのものには何の問題もないと考えています。当然、財政破綻を危惧する必要はありません。
しかしながら、日米の現状の財政赤字については、それが企業や中高所得者の貯蓄となり、多量に金融市場に流入することで、金融市場不安定化の要因となっている可能性を否定できないと考えます。(株高がずっと続けば、活性化と呼ばれるのでしょうが)
また、明らかに格差拡大につながります。
『給付金10万円使途、13%が「投資」 株価回復に一役? 暴落後ネット口座開設急増』
『2021年第1四半期の資金循環速報(2021年6月25日、日本銀行調査統計局作成)』より
★家計部門の資金余剰ですが、暦年ベースで見ると、なんと2019~2020年にかけて約25兆円もの増加です。コロナ禍対策としての定額給付金による要因以外には、コロナ禍による家計支出の縮小もあるかと思います。
★家計金融資産の内訳ですが、2021年3末の前年比を見ると、投資信託(+33.9%)と株式等(32.1%)が大きく伸びています。
★このグラフからも、家計の金融資産として、投資信託と株式等の急激な増加が見て取れるかと思います。
★民間非金融法人企業の金融資産ですが、こちらは株式等(30.8%)が大きく伸びています。
もちろん、資金循環で最も気にすべきところの家計や非金融法人企業の赤字拡大はなく、黒字が拡大していることは、経済全般にとってよいことで、すぐに株式市場が崩壊するとは思いませんが、少なくとも、現在の雇用状況や企業の営業収益が反映されているとは言い難く、健全ではないでしょう。
ポストケインズ派の名古屋大学の鍋島直樹教授は、ミンスキーの金融不安定仮説を論じた中で、次のように述べています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/52/3/52_KJ00010198903/_pdf/-char/ja
<金融不安定性仮説の要諦は,全面的な不況過程へと拡大する可能性のある金融危機が,資本主義経済の正常な機能の結果として生じるのだと主張するところにある。彼は,投資ブームの過程で経済全体を支配する楽観的な期待を「多幸症」(euphoria)ということばで表現していたけれども,金融不安定性の拡大が,人々の非合理的な期待や非合理的バブルの結果であるとは決して考えていなかった。すなわち資本主義経済とは,内生的な不安定性という本質的な欠陥を自らの内にはらむシステムであると見ているのである。>
これからワクチン接種がさらに進み、経済活動が元に戻り、楽観論が支配し始めたときが怖いですね。そうなれば、民間企業部門は負債による資金調達に転じるでしょうから、その時がいわゆるミンスキーモーメントになるのではないでしょうか。
先の定額給付金については、時間制約や事務処理面で一律に給付せざるを得なかったとはいえ、施策展開においては、金銭給付以外が望ましいと考えます。経済の実需面の底をつくるという意味合い、また現状の行政ニーズへの対応という見地から公務員を増やすのがベストでしょう。給付するなら、低所得者や失業者等社会的弱者に絞るべきです。