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 ハーバードスタンフォードといったアメリカの大学名がタイトルに入っている著作は、どれであるにせよ、大学生になったばかりの若者が読むのに相応しいだろう。世界を変えようとする若者たちの視点なり人生態度が読み取れるからである。しかしながら、おっさんビジネスマン世代にとって、本書に記述されている具体的内容は、先刻承知なごくありふれたものである。2016年1月初版。

 

 

【自国の強みと課題を見直す機会】
 世界最高峰の教育機関、ハーバードが日本のどこに着目しているかを理解することは、アメリカの問題意識を知り、世界の行方を読み解くうえで重要なヒントにもなるだろう。そして、それを知ることは、私たち日本人自身が気づかずにいる自国の強みと課題を見直す機会となるにもちがいない。(p.6)
 諸外国人観光客が見ている日本と、日本人が見て欲しい日本は、往々にしてかなり違うのは、近年テレビ番組でしばしば報道されているから、誰でもよく知っているだろう。
 しかし、世界を先導するリーダーを育成するという目的で運営されているハーバード大学の授業で、学習の題材とされている日本企業の具体例は、テレビで報道されないから、体験者の著作を読むのが手っ取り早い。

 

 

【ケーススタディ:2年で500本】
 学生はケースの主人公になったつもりで、「自分がこの企業の経営者だったらどうするか」「この国のトップだったらどうするか」を考え、授業で発言しなくてはならない。
 ハーバードの学生は年間約250本、卒業までの2年間で500本の事例を学ぶといわれている。そのうち必修科目で学ぶ日本の事例は次の6本だ。(p.25)
 トヨタ自動車、楽天、全日本空輸、本田技研工業、日本航空、アベノミクスの6本。
 実学として、現実に役立つのは、具体的な事例である。チャンちゃんがジャンルを問わず本を読むのも、意外な著作の中に見出される具体的な事例こそが面白いからである。ところが、大人になっても、義務教育の延長みたいな、全体のまとめ的書評を書いている人々が少なくないのを知っているけれど、ありふれた書評家を目指しているのでないなら、単に読書世界内の読書家なのだろう。それでは、体系的な知の構築などできはしない。
 このなかで何十年も教えられているのが、トヨタ自動車と本田技研工業のケースだ。この2つはハーバードで「普遍的な教材」としても地位を確立している。(p.26)
 トヨタの「カイゼン」や「カンバン方式」は、もはや日本語のまま、経営学の基本用語として確立している。
   《参照》  『キミは日本のことを、ちゃんと知っているか!』 齋藤孝 (PHP研究所)

            【小学校生活を制する者は世界を制する:kaizen】

 今、この読書記録の中にタイトルに「トヨタ」が入っている読書記録 がいくつあるか検索してみたら6冊あった。経営系ビジネス著作でトヨタに言及していない著作は、むしろ稀だろう。
【世界はいま一度、日本から学ぶべき】
 じつは近年、教員のあいだでも、日本を再評価する機運が高まってきている。その大きなきっかけとなったのは、2013年、ニティン・ノーリア学長(Nitin Nohria)が『ボストン・グローブ』紙に寄稿した記事だ。(p.32)
 その記事内容が掲載されているけれど、巷間よくいわれているありふれた内容なので、書き出すのをやめた。
 要は、世界はいま一度、日本から学ぶべきだといっているのである。(p.33)
 2014年には、教授陣の1割近くが日本企業視察に来たという。この多さは史上初めてだとか。ハーバードの教授陣が大挙して日本に来たからと言っても、所詮は左脳系の頭デッカチで解釈する程度のことだろう。
 外資系コンサルタント企業と比べて、ダントツの成功率を誇っていた日本の経営コンサルタント企業である船井総研が、ハーバードでケーススタディの教材として用いられていたこともあったけれど、日本の学生が、経営の世界で成功したいなら、船井総研の国内・海外展開事例から直接学んだ方が早いのではないだろうか? と思ったりもする。
   《参照》   『勝つための方法』  船井幸雄・小山政彦・佐藤芳直 中経出版

             【ハーバード流の経営学に欠けているもの】

 

 

【終身雇用制は、日本の伝統的企業文化?】
「先日、投資マネジメントの授業でアメリカの資産運用会社の事例が取り上げられましたが、その雇用形態は終身雇用制に近いもので、それが一つの成功の要因となっていました。日本にいると欧米が全て先進的なことをやっているかのように思いますが、じつは伝統的な日本の企業文化のほうが進んでいることもあるのではないか、と思います」(p.47)
 終身雇用制の採用は、エクセレントカンパニーになる上での中核要件である。日本企業であれ外国企業であれ、それは寿命の長いエクセレント企業の常識である。下記リンクから辿れば、終身雇用制を採用している欧米企業がいくつも列挙された記事に辿り着く。
    《参照》   『日本人が世界に誇れる33のこと』 ルース・ジャーマン・白石 (あさ出版) 《後編》

              【企業へのロイヤリティ(忠誠心)】

「終身雇用制は、日本企業が生み出した優れた伝統的な企業文化制度である」と思っているのなら、そのような事実があるかどうか、自分で調べてみるべきだろう。
 ついでに書いておくなら、留学体験者が書いたこの本より、戦中の日本企業の実情を知っている日下さんが書いた下記リンク本のほうが面白いし、結論が早い。
    《参照》   『「質の経済」が始まった』  日下公人  PHP研究所

              【モラル:そのポイント】 ( ← この書き出しは、下記に関係する)

 

 

【仕事の価値の「再定義」】
 新幹線の清掃を請け負う「テッセイ」(=鉄清?)という会社のケース。
 矢部さんが行ったのは、新幹線の清掃という仕事の価値を「再定義」すること。次のような言葉を何度も従業員に投げかけたという。
「失礼だがみなさんは、社会の川上から流れついて今、テッセイという川下にいる。でも、川下と卑下しないでほしい。みなさんがお掃除をしないと新幹線は動けないのです。
 だから、みなさんは、お掃除のおばちゃん、おじちゃんじゃない。世界最高の技術を誇るJR東日本の新幹線メンテナンスを、清掃という面から支える技術者なんだ」 (p.56-57)
 日本人は、お金のために動くのではない、ということを学ぶ事例として、このTESSEIの事例が、ハーバードで採り上げられているらしい。しかし、このようなケースは、いくつもの各国の事例が入れ替わり立ち代わり用いられているだけなのではないだろうか。「日本人だからこそ、できたこと」ではない。
 大分昔に読んだ『ディズニーランドの経済学』という本の中に、清掃作業員をカストーディアル(「“子供の”保護要員」という意味)という呼称に変え、清掃作業員の意識を変えたことで、大きな成果を上げていたという話があった。テッセイの話は、これと同じである。
 カストーディアルは英語だから、米国ディズニー本社のマニュアルにあったことだろう。もちろん、日本人だからこそ、サービス業における顧客対応マニュアルや、製造業における品質管理の質をより一層高めることができた、という側面は間違いなくあるのだけれど、
    《参照》   『最期のパレード』 中村克 (サンクチュアリ出版)

              【本家を超えたマニュアル】

 それは、日本人には文化的にそれを上手にこなせるだけのマインドセット(思考様式ないし意識付け)が既にあるからということなのであって、これを全世界で共通に行い得る企業経営に根付かせるには、各国の経営者(ないし現場管理者)が、日本人との差分を理解して、それぞれの国民に対してマインドセットを再構築する必要があるのである。
 だから、日本人としては、世界各国と日本との文化比較をできるだけ詳細に、口述、記述できるようにしておくべきなのである。「日本と日本文化は、素晴らしい」で終わっていたのでは、世界を善化させる上でほぼ効力を持たない。日本人がなすべき国際貢献としての意識のインフラ整備は、日本と各国の文化比較をできるだけ具体的かつ詳細に理解し記述し整備しておくことだろう。
 文化比較という作業においては、海外で活躍してきた日本人が書いたビジネス書こそが、最高の教材である。例えば奥山清行さんの著作 『フェラーリと鉄瓶』 『伝統の逆襲』などが、それに該当するだろう。
 
 
【仕事の価値を定めるマインドセットの最終基盤】
 しかし、マインドセットの最終的安定基盤は、実は、“国ごとで違う文化”ではない。最終基盤は“魂”のはずである。故に、スピリチュアルな視点でマインドセットができれば、ことは容易なのである。
 一般に「日本文化の質が高い」と言われるのは、世界各国の価値基盤が、唯物論(“体主霊従”)に傾斜しているのに対し、日本文化は本来、唯心論(“霊主体従”)を基盤としているからである。即ち、日本人は、世界全体から見れば、総じて“魂”の視点に近い生き方をしているのである。
 しかしながら、近年、拝金意識に汚染されて意識レベルが大きく低下してしまった日本人が増えてしまっているのも事実で、逆に、意識レベルの高い成熟した欧米人が増えているのも事実である。
 いかなる仕事であれ、魂の視点から、毅然として 【この仕事ができて幸せよ】 と言えるマインドセットを備えた人物は、「一隅を照らす“国宝”」というより、何人であれ「一隅を照らす“ワールド・トレジャー”」である。
    《参照》   『マンガでやさしくわかるNLP』 山崎啓支 (JMAM)

              【リフレーム=枠組み(フレーム)を変える】

 

 

【社員のマインド】
 私は思わずアメリカ人のマネージャーにこんな質問をしてしまいました。
「私がこの工場を見学しているのは、ハーバードの教材を書くためであることをご存知ですか。トヨタの生産方式の秘密をすべて書いてしまいますよ。そうなれば他のメーカーもマネしますよ。見学者に見えないように30フィート(約9メートル)くらいの壁を作ったほうがいいんじゃないですか」
 すると、彼はこういいました。
「外側をマネできてもマインド(考え方)はなかなかマネできません。トヨタの社員と同じマインドを持たなければ、同じような結果は出せないのです」
 その瞬間、ようやく、私が働いていたインドの靴工場がトヨタになれなかった理由が分りました。つまり作業服、体操、作業用の音楽、アンドン、アンドンコードなど表面的なことを模倣するだけではダメだったのです。マインドからトヨタ式に変えなければならなかったのです。

 若き日のラマン教授に、オペレーションの真髄は“社員のマインド”にあることを教えてくれたのが、トヨタだったのだ。(p.70)
 トヨタがいう「マインド」の実態も本書に書かれているのだけれど、これを従業員に定着させるのは、それほど簡単ではない。しかし、トヨタは、アメリカ人従業員のマインドつくりに成功している。成功しているからこそ 「トヨタ車は、中古車買取価格が高い=故障が少ない」 という成果が上がっている。
 日本企業は優れた成績を上げていて、現地の経済にも貢献しています。しかし私はそれ以上に、日本企業のマインドセット(思考様式)が世界経済の発展に貢献できると思っています。日本企業には、『普通の人が力を合わせて大きなことを成し遂げるためのマインドやシステム』があります。改善の精神があります。それは日本人だけではなく、アメリカ人、インド人でも見習うことができる普遍的なものです。(p.227-228)
 アメリカ人、インド人でも見習うことができる普遍的なものであっても、日本人の公務員には、決して見習うことなどできはしないだろう。連中にあるのは、向上心不在のままに“サボる精神”だけであって、“改善の精神”などコレッポッチもないだろう。同じ日本語を話す日本人であっても、向上心なきままに安定した経済生活が保障されている連中は、ほほ等しくクズである。

 

 

【オペレーションの教科書に君臨するトヨタ生産方式】
 トヨタ生産方式は、「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」という2つの考え方を柱としている。(p.71)
 「ジャスト・イン・タイム」は、説明しなくても意味は分るだろう。
 「自働化」に関しては、下記リンクで。
    《参照》   『クオリア立国論』 茂木健一郎  ウェッジ  《前編》

              【自働化】

 

 

【変化を起こすリーダー:岩崎弥太郎?】
 ハーバードでは「変化はチャンスだ」「変化を自ら起こすリーダーたれ」と、ことあるごとに教えられる。明治維新では社会を変える側に立ち、その後は国のニーズに柔軟に応えることによって、ビジネスを拡大していった岩崎弥太郎から学ぶ点は大きい。(p.108)
 “変化”に関して極めて前向きかつ積極的なのは、ハーバードに限ったことではない。新大陸に移住してきた人々によってできた国=アメリカならではの、基本的な人生態度である。
    《参照》   『スタンフォードの未来を創造する授業』 清川忠康 (総合法令) 《前編》

              【「世界を変える」】

 著者は、社会を変える側に立ちビジネスを成功させたという意味で、岩崎弥太郎を評価しているけれど、三菱の創始者となった岩崎のバックグラウンドが分っていたら、こんな間抜けな記述は到底できないはず。しかし、ネオコン支配下のマスゴミ筆頭であるNHKを経てアメリカに留学した人物(著者)が書くことは、「なるほど・・」と言うべきか、せいぜいこの程度である。
   《参照》   『歴史に学ぶ智恵 時代を見通す力』  副島隆彦  PHP研究所 <後編>

            【民政党=米ロックフェラー=三菱 VS 政友会=欧ロスチャイルド=三井】

   《参照》   『昭和史からの警告』  船井幸雄・副島隆彦  ビジネス社

            【渋沢栄一と岩崎弥太郎】

   《参照》   『リチャード・コシミズの未来の歴史教科書』 リチャード・コシミズ (成甲書房) 《中編》

            【グラバーと龍馬】

 

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