《前編》 より

 

 

【甘えを活かす組織の構造】
 日本の組織には、「1人で抱え込まないほうがいい」とか「そういうときは先輩に頼ってもいい」など、「たった一人でものごとを進めなくても大丈夫」という雰囲気があります。
 正直、この組織風土には驚きました。
 アメリカでは、1人で抱え込んで、1人で解決するのがいちばん評価されるからです。それも当然で、アメリカ人は小さい時からそのような教育を受けています。(p.84)
 「和」という日本文化の基礎には、「甘えていいよ」「甘えさせてあげる」という母性的な包みこみの構造があるのだろう。日本では、会社という組織であっても、失敗が許容されつつ成長してゆく長期的な過程として認知されている。だから成果主義なんて最初から日本人には馴染まないのである。
 現在、多くのアメリカ人が定期的に精神科医に通っています。
 普段から相談したり、甘えたりする相手を周囲にうまくつくれていないのがその理由だと思います。
 この点、「甘えを活かす組織の構造」ができている日本人は、平均的に精神が安定していて、仕事に集中できているように見えます。(p.85)
 日本人は、「精神科医」ではなく「飲みニケーション」に行く。

 

 

【“安心感”を生むビジネス】
 先日、ニューデリーに出張したときのことですが、ホテルで日本人を見かけてすごく安心している自分に驚きました。(p.68)
 今どきのニューデリーなら、外国人なんていっぱいいるはず。
 ビジネスウーマンである著者が、日本人を見て安心した理由は・・・、
 他国ではこういう(「いい加減」な)ことが日常茶飯事で起きており、まわりのビジネスマンも「そんなものだろう」と諦めながら、その「いい加減」を我慢し、ある意味では楽しんでいるのです。
 けれど、日本のビジネスマンは、「やる」と言ったことは必ずやってくれます。そこに安心感が生まれます。
 ビジネスの場でいちばん気持ちがいいのは、“安心感”です。つまり、ケアフル・シンキングの日本流ビジネススタイルの流儀こそ重要なのだと、私は思います。
 そしてこの安心感が、海外で日本人と出会ったときの安心感につながっているように思います。(p.70-71)
 日本のビジネスの「意思決定の遅さ」は、国際競争力の上で問題点として頻繁に指摘されることだけれど、著者は、「それより、“一度決めたら必ずやる”という“安心感”の方が重要である」、と日本のビジネスの流儀を評価している。
 たとえ仕事は受注できても、相手の満足のいく仕上がりにならず、自社の評価を下げることになってしまったら、永続的な営業活動はできません。長いスパンで見て、そういうスタイルの企業がうまくいき続けるとは思えません。
 こうした視点からも、時間をかけて信頼関係をつくり、それを壊さないように慎重にビジネスを積み重ね、ベストを尽くそうという日本企業のやり方は、ビジネスの原点ともいえる、best practice なのです。(p.158-159)

 

 

【海外における日本人のやり方維持】
 現地の社員たちは時間にルーズなため、一人だけきちんと時間を守ってまじめに働く社員がいると都合が悪い。自分たちがいい加減であることが目立ってしまう、と非難されたのです。
 また、身なりを整え、靴をピカピカに磨いて勤務につくとバカにされたそうです。デリーの街は、砂埃が舞うような舗装されていない道路がまだ多く、すぐに靴がホコリまみれになって汚れてしまいます。だから毎日靴を磨くなんてムダじゃないか、という指摘でした。
彼女はこう答えます。
「ここは弁護士事務所ですよね。お客様は日本人が主流なのですから、身なりを整えたり、清潔にしておくことは大切なことだと思うのです。 ・・・(中略)・・・ でも最近、自分が間違っているのだろうかと分からなくなっているんです。よかれと思ってやっているのに、周囲から白い目で見られ続けていると・・・」
なんて嘆かわしいことでしょう。
彼女がしていることは、まったく間違っていません。(p.136)
 著者は、日本人の積み重ねてきたビジネス方法を海外でも維持することに賛同しているけれど、「郷に入っては郷に従え」という諺を援用してあえて海外に合わせることを選択する日本人も少なくないだろ。
 しかし、この場合は、「お客様は日本人が主流」とあるから・・・・と、やや迷いつつも、著者の見解を支持するかもしれない。
 以下の事例は、迷いを吹っ切ってくれるかもしれない。

 

 

【ニューヨークの寿司職人】
 一等地にお店を構え、日本から一流の寿司職人を連れてきてオープン。最初は大繁盛 ・・・(中略)・・・ 一年半ぐらいすると、味のわかる日本人客から「味が落ちた」といわれるようになんってしまった。 ・・・(中略)・・・ 原因を探りました。
 そこでわかったことは、
「日本の寿司職人は、 ・・・(中略)・・・ 本人たちが気づかないところで、無意識のうちに、少しずつ、日本でのこだわりが薄れてきた結果、味のクオリティが落ちてきたのではないか」
 ということでした。
 そう考えた社長は、日本から採用する寿司職人を1年ごとに変えることにしたそうです。(p.138-139)
 健全な民間企業の経営者が、公務員の職務実態を見たら、これに倣って、総入れ替えを決断することだろう。
 「味が落ちている」どころか「腐っている」。

 

 

【企業へのロイヤリティ(忠誠心)】
 わたしは、アメリカの企業がグローバルな活躍を望んでおり、その希望が強ければ強いほど、日本の企業をパートナーにすることを勧めています。
 それは、日本のロイヤリティマネジメントを取り入れるところに、アメリカ企業の新しい可能性が生まれてくると信じているからです。(p.145)
 最近の若者が、これを読んだら「えぇ!?」って思うんだろうけれど、アメリカの企業だって永続している企業には忠誠心を持てるような職場環境があって、中核となる人々は実質的に終身雇用となっているのが実態である。日本もアメリカも、そして何処の国であれ優良企業であるなら、その中核は本質的に同じはずである。中核を掴んでいないような企業なら決してエクセレントカンパニーにはなれない。
   《参照》   『キヤノン現場主義』 御手洗冨士夫  東洋経済新報社
             【日本企業のコア・コンピタンス】
   《参照》   『キヤノン 「人づくり」 の極意』 水島愛一朗  日本実業出版社
             【リストラはしない】

 社員が忠誠心をもてるような会社にしたいなら、資本主義ではなく人本主義の経営に切り替えればいい。
   《参照》   『「質の経済」が始まった』  日下公人  PHP研究所
             【資本主義より人本主義、それが不況の脱出策】

 

 

【終身雇用を崩している主体】
 わたしの実感としては、終身雇用制を崩しているのは経営者の側ではありません。
 むしろ、被雇用者の側から崩れていっているような気がします。
 つまり、リストラで辞めさせられている人よりも、自らの意思で辞める、転職する人が増えているのではないかということです。 ・・・(中略)・・・ 彼ら、彼女らの動機は前向きなものであり、終身雇用制が崩れてきたというネガティブな指摘とは、少し違っているのだろうと思います。(p.180-181)
 リストラされる以前に働かない若者達は、そもそも物欲過少である。彼らを現在の“物”を主体としてきた地球の経済・労働システムの中に参画させようとしても、おそらくは無駄である。変えるべきなのは、地球の経済・労働システムの方である。
 若者達は、魂のレベルで、貨幣経済の虚妄を見透かしている。
 彼らのロイヤリティは、「企業」や「労働」ではなく、「宇宙の真実」に向けられているのだろう。

 

 

<了>