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 「質の経済」 の源は、「人本主義」 である、という趣旨の内容が記述されている。「人本主義」 と言う日本的経営の良さを、戦前の状況にまで遡って説明してくれているので理解しやすい。

 

 

【日本は資本主義ではない、人本主義である】
 日本は資本主義と人は思っているが、実際は「人本主義」である。
 人間本意である。資本なんかないのにむりやり工業化をしたのであって、日本は資本なき工業化である。すると低賃金で長時間労働で我慢して働くしかない。後進国は「それは嫌だ」と言うから発展しない。(かわりに「援助をくれ」という)。
 だから日本が資本主義らしくなるのは、設立してから20年後30年後である。最初はヤクザの集団と同じ・・・と言うと表現が悪いが、要するに人間が集まっているだけである。
 それもそのはずで、そもそも明治の初期の日本に資本家はいない。イギリスのように植民地からたっぷり略奪して資本をつくればともかく、日本にはそのような蓄財はなかった。 (p.109)
 戦争以前の日本を、産業史という視点で記述した本を読んだことはないけれど、日下さんの書いてくれていることは、理解しやすい。今のヤクザは印象が悪いけれど、昔のヤクザには凛とした任侠道があったにちがいない。まさに民衆の生活に絡んで人本主義の源となっていたのだろう。
 資本のない戦前の産業界の中で、ささいな商売から身を起こし、資本を蓄えていった企業家があった。浅野総一郎さんと安田善次郎さんである。後に日本の高度経済成長を可能にした京浜工業地帯の埋め立て事業を協力して推進した二人である。私欲など全くなく、全て将来の日本のために財を活用した、最も気高い精神をもつ起業家のお二方。
 先週、NHKの番組でやっていたからこの番組を見た人々は少なからずいるはずだ。二人の名前は、京浜工業地帯を走る鶴見線の駅名に残されている。浅野駅と安善駅である。この二人はいずれも富山県出身である。しかも、浅野総一郎さんは氷見出身 である。日本神霊界の真相を知っている人々ならば深く深く頷けるはずだ。

 

 

【資本主義より人本主義、それが不況の脱出策】
 人本主義の日本について、バブルの崩壊から不況の今日までを振り返って、私のラフな感想は以下の通りである。
 その1、アメリカは日本の人本主義の威力を高く評価した。
 その2、その成果を奪い取ろうと考えた(共存共栄より略奪を考えるのがアメリカの歴史である)
 その3、日本人自らが人本主義は古い体制だと思うように仕向けた。
 その4、日本は資本主義になれと陰に陽に強制した。
 その5、資本主義は全てを売買するが、その方法で人本主義の日本を崩そうと考えた。
 その6、次に日本の信用を国内・国外ともに縮小させる方法を考え実行した。
 その7、その結果、日本人自身が日本の人本主義を安く評価し、資本主義を高く買った。
 その8、結局日本は投売りされた。
 ――― という次第で、これからの脱出策は、この「道程」を逆に辿れば良いと思うのである。(p.165-166)

 

 

【すり合わせ】
 トヨタはなぜ世界に勝ったかというと、「すり合わせ」であると。
 すり合わせというのは、芸術家からガチガチのエンジニアまで、お互い少しずつ違っているのをすり合わせることである。よくこすっていると馴染むようになるというのである。日本では、すり合わせのために飲み屋へいって騒ぐ。その日本式のほうが先端ではないかと気付く。
 この考えに対比されるのはアメリカ式の「専門家礼賛」で、プロがたくさんいて周りの意見を聞かないが、それでは未来へ進めない。 (p.180)

 

 

【モラル:そのポイント】
 戦争中の話である。
 三井、三菱、住友の現場へ行くと、当時はイギリス式で職員と工員、ホワイトカラーとブルーカラーは判然と分かれていた。賃金体系はいろいろ違っていて、下はひどい扱いである。ブルーカラーは服も別、食堂も別、出入り口も別。 (p.138)
 そうすると、工場からの部品泥棒があとを絶たなかったそうである。
 階級社会であるイギリス式に人を扱うと、扱われた人はイギリス人の労働者並に程度が下がるということでもある。
 さて、そういう時代に、戦時下の軍需工場ではそうした身分的な差をつけるのをやめた。「みんな天皇陛下のために命をかけて働いている兵隊さんたちと同じだ」と言った。
 その時の兵隊は、官吏という意味である。役人だから、給料もきちんと給料表に従って決める。進級もサジ加減でデタラメはない。工場では職員も工員も上司も部下も食堂は一緒、服も一緒、全部一緒。ということにしたら、感激してものすごく働いた。 (p.141)
 モラル維持のポイントは身分差、階級差の有無であるけれど、この点でも、日本は世界の中で稀な国なのである。

 

 

【終身雇用は消えていない】
 終身雇用は消えたというが、トヨタとか松下とか、ソニーとかキャノンとか、いろいろなところにちゃんと残っている。消えたといわれる会社でも、中を細かく見ると終身雇用を遺している部分がある。それはそれで強みがある。
 一刀両断で言えば、成果主義ばかり礼賛する学者は思考停止している。現実を見て自分の考えをつくっているなら、「成果主義にしたほうがよいのはこんな仕事で、こういうタイプの人間です。それから、終身雇用にしたほうは良いのはこんな仕事で、こういうタイプの人間です」といわなければならない。 (p.161)
 日下さんは、成果主義は中級品生産に適した形態で、人本主義は高級品生産に適した形態である、とまとめている。
 階級差のない国家形態は世界の中では日本独自のものである。「すり合わせ」を可能にしている日本の人本主義を考え合わせれば、日本と同じレベルの高級品を作ることの出来る国家は、世界中どこにも無いことが分かる。
 韓国のように、世界の科学技術発展に貢献するノーベル賞受賞科学者など一人もいないような国であっても、先進諸国が作った製造技術で中級品をつくり、それを世界中に売って豊かな国家を作れるのである。日本の生み出した時流遅れの技術は、そのようにして後進諸外国の発展に寄与している。

 

 

【年金制度はやめてしまってもいい】
 年金制度などやめてしまってもいいのである。
 というより、やめてしまったほうがいい。
 年金制度廃止は可能で、まずこれまでの積立金を返却する。約束は履行不能と謝罪して許してもらう。 (p.198)
 全く同感。あてに出来ない国家の年金など、今まで積み立てた分を返却してもらった方がはるかに良い。しかし、年金制度にぶら下がる官僚がそれを何が何でも阻むのであろう。年金問題の巨悪は、いまだに隠れている。
 保養施設や研修所のムダは知れていると敢えて言いたいのである。1箇所10億円とか100億円とか・・(中略)・・金額はたかが知れている。
 もっと大きな「100兆円」という単位のムダである。 (p.83)
 と、日下さんは書いている。
 東大出身の桝添厚生労働大臣は、“小人” を裁いて正義を装い、同じ学閥の巨悪官僚を守るのであろう。
 末端は裁いても巨悪官僚は裁かない。年金制度はそのまま維持する。それで、何がよくなるのか?

 

 

【風流国の日本】
 風流の道に生きて、さすらって、旅に出てどこかで野垂れ死にするのが最高だという伝統が日本にはある。
  ・・(中略)・・
 これからは古いガンバリズムの日本は消えて、風流国の日本になる。
 1000兆円もムダに使って遊んだことの効果である。
 そんな彼らが、風流で、芸術的で、趣味的な新製品を数多くつくり、それが世界に広がることになるだろう。
 付け足しておけば、「働かない」 とは今の日本では 「カネを儲けない」 という意味である。カネはアメリカに奪われる。日本政府にも狙われる時代だから、「脱カネ生活」 の実行は一番温和で賢い肩すかしなのである。
 これを怠け者とか、無気力とか、引きこもりとか言うのは、言うほうが古い。
 今の若い人は世界最高に経験豊かな人たちである。
 ガンバリズムで勉強したり、スポーツしたりするのは十分やった。親を働かせて時間の浪費もした。ムダ使いも十分した。不純異性交遊もあたりまえのことで、どこが “不純” なのかわからないと言っている。年長者や有名人がやっていることの自己顕示性はとっくに見破っていて、子どもっぽいとむしろ感心している。自分探しの海外旅行もすませた。そんな人だらけの日本は、外国から見ればモンスターだらけの未来の国である。いまに、その成果品が世界に溢れるはずである。  (p.183-185)
 これは、いかにも日下さんらしい見方である。
 事実は日下さんが書いている通りなので、私もそうなるであろうことを期待するだけである。
 日本と日本の若者達を大いに楽観しよう。
 
<了>