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 小学生用に作られた、 「齋藤孝のガツンと一発シリーズ」 の第8巻。誰でも、外国人の視点に触発されて日本のことを考えるようになるものなのだから、著者のそんな体験が冒頭に記述されたこの本を読むことは有意義である。特に、夏休みに初めて海外へ行く機会のある小中学生・高校生くらいならば、真剣に読むことだろう。

 

 

【心の引き出しに日本文化をひとつ】
 著者は、高校生のとき福引の抽選で海外旅行券が当たり、はじめてアメリカへ行った。そのとき現地で
 「日本の代表的なものを何か見せてくれよ」 と言われたんです。 ・・・(中略)・・・ 
 僕は困った。ちょっとパニック。大ピンチ!  ・・・(中略)・・・ 
 僕はとっさに、チャ、チャチャチャ、と空手の型をしましたね。空手を習っていたことが、ここで役に立ちました。体が覚えていたんだね。空手の動きはウケた。相手は喜んでくれた。
 「オォウ、KARATE~、ビューティフォ~」 だかなんだか言ってた。(p.18)
 そして友人の林君の場合。
 彼がネパールへ行ったとき、バスの中で自分の国の歌を一曲ずつ歌うことになった。
 すごく緊張して、突然口から出てきた歌は、なぜか 『荒城の月』 だった。
 「春高楼の花の宴~」
 林君が歌い終わると、場がシーンと静まり返ったといいます。そして、少しして、すごい拍手が巻き起こった。みんなに喜ばれた。
 『荒城の月』 という曲は、どこかもの悲しいメロディだよね。日本的なすごくよいメロディです。(p.22)
 実に日本的な調べの歌である 『荒城の月』 を聞いたら、長いこと海外に住んでいる日本人も大層感激するらしい。
   《参照》   『個性を捨てろ!型にはまれ!』 三田紀房 大和書房
              【日本の 『型』 を教育せよ】

 大人が、海外で 『荒城の月』 を披露する機会があるなら、ついでに、この曲が作られた時代背景も知っていたら、さらに役立つかもしれない。
   《参照》   『 「明治」 という国家 〈上〉』 司馬遼太郎 日本放送出版協会
              【『荒城の月』と滝廉太郎】

 まとめの、言葉はこれ。
 心の引き出しに日本文化をひとつ。
 これがだいじだなぁと思ったのです。(p.24)

 

 

【日本人の良さは・・・】
 明治維新の後に日本に来て、こっちで英語の先生をやりながら、日本を海外に紹介した作家、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の話を聞いてみよう。 ・・・(中略)・・・ 
 ハーンさんは、
「日本人のよさは、深刻さに欠けることだ」
 と 『日本人の微笑』 という文章のなかで書きました。 ・・・(中略)・・・ 
「日本人は必要以上に深刻にならない」
 というのは新鮮な発見だったようだ。ほかにも、
「なんだか明るいところ、軽いところがある」
「日本人は自分が厳しい状況に置かれているときでも、不思議な微笑をうかべる。そうした微笑は、礼儀作法の洗練されたものだ。相手を不愉快な気持ちさせない心配りが微笑なのだ」
 といった話を書いているんだね。昔の日本人は精神的に強かったんだね。なんだか、のんきというか、ヒステリックにならないというか、おおらかというか・・・それが日本人の特色だと見抜いたわけだ。(p.64-66)
 小中学生なら、この記述をそのまま信じられるかもしれないけれど、バブル崩壊以降の、マスコミの悲観的論調ばかり聞かされてきた大人たちは、この記述にいまひとつピンとこないことだろう。お金という基準に縛られた大人たちは、日本人の良さを見失っているのである。
 子どもたちよ、日本人の良さを保ったまま元気に生きてくれ。大人たちは結構アホなんだからね。
 そんなアホな大人たちは、自分の中からかつての童心が消えつつあることを、内心では淋しく思ってもいる。
 童心が保たれていたら、もっと明かるく楽しく元気に人生を過ごしているはずである。

 

 

【日本人は子どもパワーの民族だ】
 日本は子供を中心に考える国。「子は宝だ」っていうくらいだからね。江戸時代の終わりや明治時代に日本を訪れた外国人たちは、日本を「子供の楽園」 だと思ったほどだ。日本には 「7歳までは神のうち」 って言葉がある。 ・・・(中略)・・・ 社会全体で考えると、日本は大人と子供の線引きがあまりないんです。ヨーロッパのように、子どもは大人になる前の未熟な姿だ、なんて考えない。(p.72-73)
   《参照》   『「知」のネットワーク』 大前研一 イースト・プレス
              【文化の担い手が変った。大人文化から子供文化へ】
 なぜかって? それは・・・自分自身が子供みたいだったからですね。わははは。日本人は子どもっぽいのよ。
 その証拠に、日本人はマンガとか、アニメとか、ゲームを作るのが得意でしょう。子供を喜ばせるモノをつくらせたら、世界でナンバー・ワン。(p.73)
   《参照》   『惚れて通えば千里も一里』 木村皓一 ミキハウス
              【 子ども文化は日本のお株 】

 

 

【日本人の性格傾向】
 とてつもなく明るいんです。根っこから明るい民族なんだよなー。わはははーって生きてきた歴史がある。
 そんなことをいうと、
 「日本人には 『もののあはれ』 とか 『かなしみ』 を大切にする文化があるじゃないか」
 と思うかもしれない。たしかそんな話を聞いたことがあるぞ、と。
 それはたしかにそうなんだけど、僕が思うにそれはね、じつは日本人はあまりに本質が子供っぽくて楽天的なものだから、逆に、哀しさや淋しさを味わいたくなるんじゃないかな。(p.74)
 民族の気質は風土に影響される。カラッとした風土に住んでいるとカラッとした性格になり、高温多湿な風土に住んでいると性格はウエット(涙がち)になってしまう。
 日本人は本来、根っこから明るい民族なんだけど、高温多湿な環境下で絶えず生々流転を繰り返す豊かな自然環境を見ながら育っているから、 『もののあはれ』 とか 『かなしみ』 の認識に至りやすいけれど、智恵ある本当の日本人は、流転する世界のあり様を素直に受け入れているから、悲しみからの立ち直りも早いのである。そして明るさを失わない。それが大和魂を秘めた人の本当のあり方。
   《関連参照》   『「脱亜超欧」へ向けて』 呉善花 (三交社)
               【もののあわれ】

 

 

【小学校生活を制する者は世界を制する : kaizen】
 トヨタには 「改善」 という社内キーワードがあります。ダメなところを改めてよくするという意味だね。この言葉、最近は英語になっているくらいですから。「kaizen」 通じちゃうんです。すごいね(笑)。
 僕はね、じつは、
 「トヨタのやり方は、どっかで見た記憶があるぞ・・・・」
 と思ってたんですよ。
 では、〔問題〕。僕は、 トヨタのやり方をどこで見たことがあったんでしょうか?
 〔答え〕 小学校。
 あぁ、あぁ、これは小学校だと思い出したんですよね。小学校で、まじめにやってたあのやり方を、大人になってもそのままやればいいんだ。そうすれば、こういうふうに世界制覇ができる企業になるんだ。
 トヨタのやろうとしていることは、一つひとつは、決してむずかしことじゃないんですよ。一個一個、見なおして、反省して、話し合いをして、もっといいことはないかという、その繰り返しなんだよね。どうってことないんだね。
 小学校で、班活動して発表するってことがあるでしょう。あれですよ。(p.93-94)
 トヨタの先生は小学生だった!
 で、小学生の先生は学校の先生なんだけど、学校の先生は、今日インターナショナル・ターム(世界語)となっている kaizen のことを知っているかどうか疑わしい。
 カイゼンをテーマに書かれた下記の書籍の一番下のリンクから、3つリンクを辿ればトヨタに着きます。カイゼン以外にも世界的用語となっている日本発の経営用語がいくつもあるのです。
   《参照》   『サクラサク』 藤原和博 (幻冬社)

 

 

<了>