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 既に自動車の世界一企業となっているトヨタではあるけれど、この本を読んだら、かなりイメージが変わることだろう。2006年6月初版で、この本は同年10月で13版である。

 

 

【排ガス規制に反対】
 「カリフォルニア州は米国の自動車販売の約一割を占める主要なマーケットの一つ。また 『環境先進地』 の同州で規制強化が実現したことで、他の11州も追随しました。 ・・・(中略)・・・ 。
 排ガス規制をめぐる攻防の最前線がカリフォルニア州というわけだが、ここでトヨタは消費者には理解しがたい行動にでた、「環境に優しい」 という企業イメージをかなぐり捨て、環境規制強化を阻止しようとする自動車業界の原告団に加わったのだ。(p.13)
 トヨタの二枚舌的なご都合主義が浮き彫りになる。「環境に優しい」 というイメージを掲げてハイブリッド車を売りまくる一方、不利益になる環境規制強化には冷たい態度を取る。 (p.14)
 「えぇ~~~~、なんで~~~?」 という感じである。
 つまり、トヨタの環境対応は、単に広告宣伝や販売促進の手段にすぎないということなのだろう。

 

 

【 “赤い絨毯” のキャンペーン】
 トヨタの笑いが止まらない結果となったのには、仕掛けがあった。実は、環境団体 「グローバル・グリーン・USA」 とトヨタが組んで仕掛けたキャンペーンだったのである。(p.15)
 そう、あのハリウッドスターにレクサスで乗りつけさせ、レクサスから降りて赤い絨毯の上を歩く、という仕掛け。
   《参照》   『「レクサス」が一番になった理由』 ボブ・スリーヴァ 小学館
             ● PCとはパソコンのことではない

トヨタ車は、米国車よりもエコだったのには違いないだろうけれど、ハイブリッド車だからといって必ずしもエコとはいえないのである。

 

 

【 「環境に優しい」 という前提】
 トヨタは 「LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)」 を活用している。原材料の採取から製造、使用、廃棄に至るまでの環境負荷を計算する手法だが、その結果を注意深く見る必要がある。
  ・・・(中略)・・・ 
 「特定の条件下での結果、仮に三年間で一万キロしか走らずに廃車にした場合、逆に環境負荷は通常車よりも多くなる。(p.17)
 昔から 「技術の日産、営業のトヨタ」 と言われていたらしいけれど、プリウスなどのハイブリッド車で先行したトヨタは、技術でも一流であるかのように思われていた。
 しかし、レクサスブランドにしても、エンジンはマークXと同じであるとか、車体構造はカムリと同じであるとか、イメージ営業で売って稼いでいる部分が大きいらしい。
 「環境」 を掲げてハイブリッドカーを売りまくるが、全販売車の平均燃費悪化は気にしない。(p.19)
 だから 「排ガス規制に反対」 する。

 

 

【トヨタの広告宣伝費】
 トヨタの広告宣伝費は、04年度で814億円(10年連続トップ)にも及ぶ。(p.23)
 現在の日本のテレビCMでもトヨタのCMは、他社を圧倒している。ということは、電通に納めている金額は膨大であり、膨大であるということは、日本のメディアの殆どを支配している電通は、トヨタのマイナスになる報道はしないということである。当然のことながら新聞社もそれに倣う。ここがポイントである。
 トヨタは、アメリカ政府のように、日本人を支配していると言えるだろう。
   《参照》   『グーグルが日本を破壊する』 竹内一正 (PHP新書)

            【日本における広告業界の寡占状態】

 

 

【トヨタ毎日ビルディング】
 このビルは名古屋市議会で問題になった。 ・・・(中略)・・・ トヨタ毎日ビルに6億円の補助金が出ていると指摘、 ・・・(中略)・・・ 。1兆円もの利益を出しているトヨタのビルに、なぜ税金を使う必要があるのかという非常に真っ当な質問だったが、毎日を含め五大紙は黙殺した。(p.30)
 こうなると、政治家も既に下僕ということだろう。アメリカ帝国さながらのトヨタ帝国である。
 マスメディアという信号機は、これからも壊れたままに違いない。(p.31)
 この本には、トヨタ関連社員の過労死など、過酷な事実が記述されているし、ジャスト・イン・タイムという経営学的に称賛される生産方式の下で、指定時刻に15分早くても駄目のジャスト・イン・タイムに納めるべく、下請け業者たちがトヨタ工場の周辺の交通混雑を引き起こしていることなども記述されている。それだけでも別枠で読書記録を書いてみたくなるほどである。
 しかし、こういった事実は、この書籍が例外と言うだけで、おおかたの書籍には何も書かれていない。
 著者も出版社も、トヨタ帝国にとって不都合な事実を書くと、生活や経営が行き詰まることになるからであるのは言うまでもない。

 

 

【小泉改革とトヨタ】
 小泉改革の後押しをしていた当時の経団連会長であった奥田さんの行動から、興味深い事実が見えてくる。
 奥田会長の号令は、トヨタのトップが選挙の最前線に繰り出す前代未聞の光景も出現させた。
  ・・・(中略)・・・ 中部財界の重鎮たちが駆けつけていた。その独りである神尾元専務は、現職時代に 「トヨタの政治部長」 と呼ばれた陰の大物だ。政界や選挙に詳しいだけでなく、裏社会との対応もしていたとささやかれている。関係者の間で 「あの神尾さんまでは表に出て応援しているのか」 と話題になったのはこのためだ。(p.36)
 巨大企業トヨタも、長いこと縁の切れない山口組への上納金に苦慮していたということであろう。
   《参照》   『この国を支配/管理する者たち』 中丸薫・菅沼光弘 (徳間書店) 《前編》

            【郵政民営化は、「経世会つぶし」の手段】

            【稲川系のブッシュ大統領】
 しかし、奥田さんの行動には、これとは別に、マーケットとしての北米市場の大切さからアメリカに迎合したのかもしれないという点とも別に、また愛知万博に乗じて施されたトヨタへの利益供与(優先的なインフラ整備)に対する恩返しという点とも別に、小泉改革を利用しようとした悪質さも見える。

 

 

【愛知万博】
 愛知県で行われた “愛・地球博” は “トヨタ博” と言われていたけれど、それは、トヨタが莫大な資金を提供して博覧会に貢献しているからなのだろうと思っていた人は、下記の数字を見てビックリする。
 愛知県は万博関連事業で県債発行額を増やし、借金は3倍以上の3兆7000億円に増えた。一方トヨタは約21兆円を売り上げ、1兆3000億円を超える利益を叩き出すほどまでに成長した。公的資金を食い物にしながら、確実にトヨタは巨大化している。(p.49)
 法人税納税額日本一かもしれないけれど、トータルで見れば、財政的には日本に貢献などしていないということになってしまうかもしれない。

 

 

【雇用】
 2005年1月から11月の間に高岡工場では4名の社員が在職死していた。堤工場では同年7月と8月の2か月で3名が亡くなっている。いずれも理由が明記されていなかったため、業務が関係したり、自殺の可能性も高い。(p.64)
 トヨタマンが車の連続放火を起こしていたという事実もあったとか。よほど精神的にきつい職場なのだろう。
 待遇としても、トヨタの正社員だけが優遇されているだけで、期間工などの契約社員と下請け企業のみなさんは、長時間労働に耐えつつ、トヨタ帝国の支配力に怯えて行動を起こせず、起こしても潰されるということが繰り返されてきたらしい。
 デンソー本社には約一万人の社員がいますが、休職者が200~300人はいる。自殺や退社に追い込まれる人も多く、産業医のメンタルヘルス診察は予約でいっぱいです」(K氏) (p.90)
 デンソーは、今はトヨタの下請け一本から離れているけれど、本書がかかれたことはトヨタ様様だったことだろう。
 国も企業も、帝国になると末端を軽視するどころか、支配し使役するだけらしい。
 本来なら日系外国人を雇っている企業が子弟教育等の環境作りに尽力するのが筋だが、実際はNPO任せになっているのだ。しかも 「トヨタに寄付をお願いしましたが、断られました。税金を払っていることと全国に工場があるので、特定の地域の団体に寄付はできないというのが理由でした」(関氏) (p.74)
 外国人就労による恩恵は受けるが、それに伴う社会的費用は出し渋る。「いい所取りのケチな会社」 というのがトヨタの正体なのだ。(p.75)
 ドン引きである。

 

 

【一億総期間工化】
 UAWの労働契約によってビッグスリーは 「退職者を含む従業員のために年金と健康保険を用意している。車一台につき1200ドルを負担しなければならない」 (p.85)
 アメリカ市場で日本を含む外国メーカーが優位だったのは、この労働契約が適応されなかったからである。
 アメリカ市場で外国メーカーだったことの旨みに加えて、アメリカにおいて、非正規社員(期間工)の活用はさらに旨みであることを覚えた日本の一流企業が顔をそろえる経団連は、こぞって日本にもこの労働慣行を持ちこもうとして、小泉改革をバックアップしたのだろう。目指すは 「一億総期間工化」 ということか。
 トヨタの非正規社員は年々増加し、03年には40%を超えて(p.79) いたという。

 

 

【ミサワホームとトヨタ自動車】
 奥田硯が竹中平蔵を介在させてミサワホームを乗っ取ろうとしたと、ミサワホーム創業者の三澤千代治が、2005年夏に竹中を東京地裁に刑事告発していました。(p.91)

 トヨタ一族は、住宅部門のトヨタホームをてこ入れするために、90年代後半から買収しようと狙っていた。だが、創業者である三澤千代治氏は、文化が合わないなどと強硬に反対。ところが2006年3月、三澤の手が及ばない産業再生機構の支援企業となり、3月末にはさっそく、トヨタ自動車ほか3社が引き受けることになった。三澤氏は、これを政治とトヨタと銀行が組んだ茶番劇だと批判。ミサワホームの代表取締役は、トヨタ自動車のメインバンクであった旧UFJ銀行出身の水谷和夫氏が就任している。(p.101-102)

 実はトヨタ自動車がトヨタグループの頂点ではない。東和不動産株式会社(愛知県名古屋市)という資本金約237億円の未上場の不動産企業がトヨタ自動車の背後にいる。「同社は将来、グループの持ち株会社になる」(モータージャーナリスト)とも言われており、現会長の豊田章一郎氏をはじめとして、トヨタ自動車の超重要人物が取締役に名を連ねている。そもそも今やトヨタ自動車はデンソーをはじめ、グループ企業などからのあらゆる部品供給で成り立っている部品組み立て企業だ。いつの日か、トヨタ自動車から自動車の文字がはずれ、ただのトヨタになるとき、ものづくりの精神も捨てた徹底的に合理的な企業グループが完成するのかもしれない。(p.90)

 

 

<了>
 
   《トヨタ関連》