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 車に興味のない人にはレクサスといっても何だか分からないであろう。正直なところ私も全く知らなかった。トヨタ自動車がアメリカで作り上げたブランドがレクサスだったということを。

・「何百万人ものアメリカ人がレクサスは世界一のプレミアム・ブランドだと強く信じている。
  しかし、そう信じている日本人に、僕はひとりも出会っていない」(p.4~5)
・アメリカの辞書には、 [ LEXUS-like 形容詞:最高なもの、この上ない品質を表す。](p.16)

  と掲載されているそうな。

 ということなので、この本を読むことで、学べることは多いのである。

● PCとはパソコンのことではない(p.42)
 PCという言葉がある。Politically Correct の略で、直訳すれば「政策的に正しい」という意味になるが、アメリカ的ライフスタイルの中では「暴走する資本主義より、もう少し世界の人々のことを考えるべきだ」という意味に解され、環境問題の叫ばれる昨今、ガソリンを多量消費するアメリカ車ではなく低燃費の高品質車を購入することはPCである、と考えるのだそうだ。そんな基調の中で揺ぎ無いブランドたりえたレクサスである。
 そんな訳でアカデミー賞授賞式に集うスター達が会場に乗りつける高級車の半分以上は、近年ではレクサスになっているのだそうだ。
 しかし、経済的に余裕のある日本人はいまだにイメージ先行で外国メーカーの車を買いたがっている。日本人の消費者にPCはあるのか? 本気で世界環境を考えていると言えるのか? こと車に関して言うならば、日本は「優良なる企業と劣等なる消費者の国」であり、アメリカとは反対である。

● lemonade from lemons (レモンからレモネードをつくる) (p.128)
 レモンとはポンコツ車や欠陥車を意味する。レモネードは爽やかな人気の高い飲料。即ち日本の諺で「禍を転じて福」ということらしい。8000人のユーザーに対し3週間でリコールを終えた実績がレクサス神話の発端だったということである。
 「石門心学や松下経営学では当然のことを、アメリカ社会で初めてやったのがレクサスだった」ということらしい。まともな経営者ならそれほど感心することではないと思うが、先ごろ、リコールの遅れた国内トヨタの事例があったし、開き直っていたパロマの若社長の事例もあるので、「日本は大丈夫なのか?」とちょっと危惧してみたりもする。襟を正そう日本人。

□ 内も外もツルツルの日本車 □
 今や、世界中の自動車メーカーが提携関係にあるので、国産車と外国産車の外形に大きな違いがなくなってきている。そんなわけで、外はどこもツルツルである。
 では、内はどうなのか? ニッサンのディーラーに直接聞いたことがある。「国内ではどこが優れていますか?」と。すると「ガソリンだけならパワーも燃費も圧倒的にホンダさんですね。ハイブリッドではトヨタさんが先行しています」と正直に言った。「ならニッサンはヒョンデ(韓国車)並みということですか?」と聞いたら、「いえいえ、精度が違います。国産車はどこも1000分の1ミリの精度で内面を成型できますが、韓国車の精度は1桁落ちます」と言っていた。
 車のみならず、あらゆる事物に対して内側がツルツルであるか否かを判断できるような見識眼を持ちたいもの。因みに、「私の夏のお肌はいつもベトベト、心はいつでもカサカサです」。

■ ニッサンを危惧する(ニッサンと韓国は同じ経路をとる) ■
 トヨタと日本のトップを競っていたニッサンの凋落ははなはだしいようだ。ゴーンさんの改革に成果があるとは思えない。外国で企業建て直しに成功したからと言って、日本で同じように成果が出せるとは限らない。損切をした短期数年の決算なら良いのが当たり前。10年のスパンでみるならば、ニッサンは間違いなく衰退してゆくように思う。
 『中谷巌の「プロになるならこれをやれ!」』(日本経済新聞社)は大学生の必読書に推薦したい本ではあるが、ニッサンでの職歴のある著者が、ゴーン改革を評価していることに、全く素人であり一般人でありかつ若輩である私は同意しない。
 大競争の時代だからといってアメリカ的経営手法が全ての地域について有効であるとはいえない。アメリカ的経営手法を盛んに主張しているオリックス・宮内義彦は中国で大穴をあけたではないか。文化が異なればMBAなど意味はない。寛容な日本市場だからいいようなもの。日本は共生を旨とする深い文化の国である。たかが200数十年のアメリカ文化が形成した経営手法で、日本のかつての優良企業を再生できるという考えは、日本文化に対する極度な侮りがあるのではないか。
 ニッサン衰退のそもそもの原因は、「天下り官僚を受け入れざるをえなかった企業体質にある」と書いていた人がある ( 安田有三・著 『ゴーン革命が日産を滅ぼす』 KKベストセラーズ )。トヨタやホンダがあくまでも私企業として成り立っていたのに比較して、ニッサンの成立過程は違っていたのかもしれない。天下りや東大卒の管理職が増えると固定費や交際費が膨らみ技術の現場を圧迫するようになる。ニッサンの構造体質と盛衰の経過は、韓国のそれらとやけに似てはいないか。
 私がまだ子供だった頃、大きなお兄さん達が憧れていたケンとメリーのスカイライン。私のイメージの中にもスカイラインの美しいフォルムがある。あのスカイラインは何処へ行ってしまったのか?
 海外でレクサス・ブランドを確立したトヨタと、国内でスカイライン・ブランドをほぼ喪失したニッサン。
 天下り官僚は100%、PCではない。優良企業ですら食いつぶす寄生虫である。

 

<了>