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 タイトルに惹かれて読んでみたけれど、これからアメリカへ留学したい人だけでなく、むしろ一般の日本人が読んだ方がいいような内容がたくさん書かれている。スタンフォードでMBA(経営学修士)を取得する過程での経験が書かれているけれど、MBAというとチャンちゃんなんかは、数理解析による冷徹な経営学というような偏見を持ってしまう。でも、著者がスタンフォードで学んできたのは、そのようなことではないらしい。20世紀末から世界を牽引し、現実に「世界を変えて」きたシリコンバレーにある大学だけあって、アントレプレナー精神が強く感じられる。それが魅力である。2013年2月初版。
    《参照》   『ウェブ時代 5つの定理』 梅田望夫 (文藝春秋) 《前半》
              【アントレプレナーに共通すること】

 

【スタンフォード大学の入学式のメッセージ】
「ここに来たことは、もしかすると新入生の君たちにとって幸せなことではないかもしれない。今ここに集まったということは、この学校の理念でもある『世界を変えよう』という言葉から一生逃げられないということだ。本当は普通に、平凡に生きていたほうが君たちにとって幸せだったかもしれない。単純に喜んでいいとは言えないけれど、ここに来た以上、ぜひ頑張って欲しい」。 (p.55)
 『世界を変えよう』という精神になら、ドップリ洗脳されてもいように思う。
 このようなメッセージに触れることなどないであろう日本の若者たちを少々気の毒に思ったりする。

 

 

【「世界を変える」】
 著者は、2009年9月から2年間、スタンフォード大学のビジネススクールで学んだという。
 その結果、
 それまでの「失敗は恥ずかしいもの」「企業はリスキーだ」「新製品(サービス)は仕様書通りに完璧に作りこんでから世にリリースするもの」といった自分の“常識”がまったくひっくり返ってしまったのです。
 その最たるものが、冒頭の「世界を変える」という言葉への反応です。
 実はこの「世界を変える」を含む、以下の3つのフレーズ「change Lives」(人生を変える)、「Change Organizations」(組織を変える)、「Change the World」(世界を変える)は、スタンフォード大学ビジネススクールの校訓なのです。(p.4)
 スタンフォードの校訓は、単なる「技術革新」という狭義な意味の「イノベーション」ではなく、ドラッカーが言っている意味での「イノベーション」そのものを目指していると言える。
    《参照》   『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』 岩崎夏海
              【イノベーション】
 なぜスタンフォードでは、「Change the World」のような壮大な言葉が否定的な見方をされずに、前向きに捉えられているのかと言えば、ジョブスのように、「Change the World」を実現してきた人を多数輩出しているからに他なりません。(p.5)
 ジョブスは、「世界を変える」どころか、「宇宙に衝撃を与える」とすら言っている。
    《参照》   『スティーブ・ジョブス英語で味わう魂の名言』 桑原晃弥 (PHPビジネス新書)
              【宇宙に衝撃を与えるアップルの社員】

 アメリカでは、「変化」という単語は絶対的必要性を持って頻繁に語られる。ところが、普通の日本人は変化を厭う傾向があるように思うけれど、本当の日本人はそんなもんじゃないだろう。
 伝統芸能と言われている日本の「歌舞伎」の語源は「傾(かぶ)き」であって、時代を突破する前衛的な「変わり者(傾奇者)」のような人々が、その変革精神を長らく絶えず継承してきたが故に「伝統芸能」になっているのである。

 

 

【「他人と違うこと」を評価し,「個性」を尊重する文化】
 日本の小学校というのは、皆と同じように行動する子どもが「いい子」と見なされます。全員が決められたルールに押し込められて、人とちょっとでも違うことをする子どもは、先生に叱られたり、同級生から仲間はずれにされたりします。個性を尊重してくれることがなく、それが私には合いませんでした。
 後にスタンフォード大学に留学した際、誰もが「人と違うことをやりなさい」と当たり前のように主張し、他人と同じではなく違うところを尊重する文化に触れたとき、改めて小学校時代に自分がいかに窮屈な思いをしていたのか、気づかされることになりました。(p.16)
 人と同じことばかりやっていたのでは、到底「世界を変える」ことなどできっこない。
 人と違うことを考え、人と違う行動をするからこそ“価値”を産む。
    《参照》   『壁を越える技術』  西谷昇二  サンマーク出版
              【 make a difference 】
 人の個性は最大限尊重する。いいところは素直に認め、評価する。頑張っていることが伝われば、さりげなく助けてくれたり、応援してくれたりする。学生たちだけでなく、スタンフォードのコミュニティ全体の雰囲気がそういうふうでした。そのことが、私をずいぶんと勇気づけてくれましたし、私にとって大きな自信にもなりました。(p.81)
    《参照》   『ネガティブを愛する生き方』 伊藤美海 (総合法令) 《前編》
              【最も理想的な在り方:わがままの勧め】
    《参照》   『はるかな星をめざして』 黒川浩 (フェリス女学院大学)
              【自分らしさ】
    《参照》   『なぜ、エグゼクティブは書けないペンを捨てないのか?』 パコ・ムーロ (ゴマブックス)
              【白いペン】

 

 

【“異質な”者たちが集ってこそ生まれるイノベーション】
 同じような思考や能力を持った人間が固まっていたって、結局は大きなことは何もできないし、イノベーションは起こせないというわけです。ですから、まったく違う思考や能力を持っている人間同士がかかわれるような仕組みが、校内のいろいろなところで整備されています。違う人間が集まってこそ、シナジー効果が生れると考えています。
 履修単位について他学部との互換性を持たせているのも、デザインスクールの存在も、みんなそういう考え方に端を発しているのです。(p.62)
    《参照》   『榊原式スピード思考力』 榊原英資 (幻冬舎) 《前編》
              【同質と異質】【常識に疑問を持つ】 【仕事のできる集団】
              【「考える力」は、異質な世界の人との出会いから】
              【個性をブレンドする】
 そもそもこの地球という人生学校は、様々な波動の人々が混在し違った者同士が存在するからこそ、「差を取り(悟り)、学ぶ」ことができる場なのに、日本人は、「和を乱すから・・・」という“その場限りのメリット”だけを重視して、「違いこそが大きな価値を生む土壌である」という“より大きなメリット”を考慮することができないらしい。大方の日本人は、人生学校の趣旨を取り違えているだろう。
    《参照》   『ガイアプロジェクト2012』 チャング・フィヨング (徳間書店) 《前編》
              【地球が物質化させられた訳】

 

 

【イノベーションが生れてくる生態系システム】
 著者がスタンフォードへの留学を決意した理由が書かれている。
 企業再生の現場で私が常に感じていたのは、漠然としたものでしたが、社会全体のイノベーションが、これからの日本経済に必要ではないかということでした。業績不振に陥った企業の一つにまるで絆創膏を貼るみたいに、傷を治していったところで、日本全体の復活につなげていくには限界があるのではないかと思ったのです。
 ・・・中略・・・。もし、百貨店というビジネスモデルがもはや限界だとしたら、すぐにまた同じような状況に陥ってしまいます。
 イノベーションという見地から考えなければ、日本全体の復活はあり得ない。それが私の中での結論でした。そのために、世界に影響を与えたイノベーションの数々を生み出してきたシリコンバレー、その中心にあるスタンフォード大学に行きたい。そうして、イノベーションが生れてくる生態系システムの本質を学びたい。そう確信するようになったのです。(p.42-43)
 “イノベーションが生れてくる生態系システムの本質”という非常に興味深い表現があるけれど、この本に、その“本質”が語られているようには思えない。
 だから勝手に書くのだけれど、「イノベーションが生れてくるシステム」は、「生態系」に在るのではなく、「タイムライン」に依るんじゃないだろうか? と思ったりするのである。
 世界を変えるほどのイノベーションは、別のタイムラインに既に展開している様子を見た(“ひらめき”という“情報のダウンロード”を得た)人によって、自分が属するタイムラインに展開されるようになるのだろう。別のタイムラインの様子をこの地上のタイムラインに示している数々の未来映画の製作者たちは、意識とイメージで「世界変革」を先導する役割を持っていて、新進気鋭の企業家たちは、それを具体化・定着化させるための第2弾要員なのかもしれない。
    《参照》   『宇宙人遭遇への扉』 リサ・ロイヤル&キース・プリースト (ネオデルフィ) 《前編》
              【ひらめき:「情報のダウンロード」】

 

 

【スタンフォードの文武両道ぶり】
 スタンフォード大学では、そういう(勉強一筋の)学生は意外と少ないのです。若くても学業に秀でていると同時に、スポーツや課外活動などにも積極的で、それらのすべてを本当に完璧にこなしているのです。私自身、日本ではこれほどの分野においてもバランスよくパーフェクトな人たちというのを見たことがなかったので、相当にショックを受けました。
 実際、スタンフォード大学は毎回のオリンピックでメダリストを多く出しています。たとえば、2008年の北京オリンピックでは全部で25個のメダルを、2012年のロンドンオリンピックでも16個のメダルを獲得し、全米で最もスポーツの強い大学と言われています。(p.52-53)
    《参照》   『文武両道、日本になし』 マーティ・キナート 早川書房
 文武両道といっても、日本とアメリカではその質というか在り方が違っている。
 アメリカ的な、この世次元の肉体の強さと、この世次元のみの頭の良さの組み合わせは、実際のところ地球を幸せな星にしない。それがアメリカ流“文武両道”の陥穽である。
    《参照》   『寄り道して考える』  森毅・養老孟司  PHP研究所
              【 「文武両道」 という文化の腰骨】
    《参照》   『人体と宇宙のリズム』 ルドルフ・シュタイナー (風濤社)
              【霊的精神世界】

 日本人は、「腑に落ちる」という表現にあるように、知性と身体性を連動するものとして捉えていたらしい。それが日米における文武両道の在り方の違いになっているのだろう。それについては、下記リンクに紐付くリンク先を末端まで全て辿ってください。
    《参照》   『「無邪気な脳」で仕事をする』 黒川伊保子・古森剛 (ファーストプレス) 《前編》
              【 「腑に落ちる」 根拠 : 身体性こそが 「心」】
    《参照》   『宇宙一切を救うアセンション・サイエンス』 榎本孝明&エハン・デラヴィ (徳間書店)
              【変わってしまった日本人の身体の使い方】

 東京大学が、スタンフォード大学のように、オリンピックのメダリストを数多輩出するようになったら、日本と日本文化は一巻の終わりである。