《前編》 より
 

 

【人を活かす】
 人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。手続きや雑事を必要とする。人とは、費用であり、脅威である。
 しかし人は、これらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することにある。(80頁)


 初めてこれを読んだ時、みなみは驚きに目を見開かされた。「人の強みを発揮させる」という発想が、彼女の中にはこれまで全くなかったからだ。人間というものは、親しい友人以外は、ややこしくて、面倒で、じゃまなものだと思っていた。
 しかし、『マネジメント』にはこうあった。

 「人は最大の資産である」(79頁)  (p.121)
 「人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである」だけを切り離して読むと、「企業利益のために利用されるだけだろう」なんて思うこともありうるけれど、その前に、「人は弱い。悲しいほどに弱い」が対比されるから、後の記述が輝いてくる。
 長所伸展法は企業にとっても個人にとっても最善の方法である。

 

 

【働きがいと責任】
 働きがいについて、『マネジメント』にはこうあった。

  働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。(74頁)

 働きがいは、責任というものと表裏一体だった。
 そこでみなみは、チーム制の練習の中に、さらに細かく「責任」を組織していくことに取り組んだ。(p.137)
 責任が与えられれば働きがいは増えるかもしれないけれど、おかしな人材に責任を持たせると、支配権限をもったと勘違いして成長が止まってしまうことがある。このような場合について、この箇所には書かれていないけれど、他で引用されている『マネジメント』の引用の中に回避方法を見出すことができる。
 まあ、愚鈍な中間管理職ならば、有能な部下に決して責任ある仕事を与えない。それどころか意図的に何か問題を起こしてそれを部下の責任にするくらいのことだろう。
 ドラッカーさんは、経営の「社会的責任」に関して、渋沢栄一をたいそう評価していたらしい。
   《参照》   『君子財を愛すこれを取るに道あり』 阿部博人 致知出版
             【ドラッカーの絶賛】

 

 

【イノベーション】
 イノベーションとは、科学や技術そのものではなく価値である。組織のなかではなく、組織の外にもたらす変化である。イノベーションの尺度は、外の世界への影響である。(266~267頁) (p.143)
 イノベーションは一般的に「技術革新」と訳されているけれど、ドラッカーの言うイノベーションは、「社会に変革を与えるもの」というほどの大きな意味らしい。
 高校野球界に変化をもたらしたイノベーションとして、2つの例が記述されている。
 池田高校の蔦監督は、「守備の野球」という常識を打ち破って「攻撃野球」という新しい常識をうちたてた。もう一人は、取手二校の木内監督で、数字重視の「管理野球」ではなく、選手の気持ちや個性を重視する「心の野球」を打ち出し、その結果、桑田、清原のPL学園を決勝で下したという。へぇ~。
 程高は、「送りバント」と「ボールを打たせる投球術」が高校野球を陳腐化させているとして、「ノーバント、ノーボール作戦」というイノベーションに取り組み、甲子園出場を果たしたことになっている。

 

 

【優れているほど新しいことを試みる】
 あらゆる組織が、事なかれ主義の誘惑にさらされる。だが組織の健全さとは、高度の基準の要求である。自己目標管理が必要とされるのも、高度な基準が必要だからである。
 成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なことしか手をつけない者である。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。そのようなことでは、意欲を失わせ、士気を損なう。人は、優れているほど多くの間違いをおかす。優れているほど新しいことを試みる。(145~146頁) (p.175)
 成功するまで失敗は続くもの。これは経営の常識である。
 そのような視点で経営しないことには、優れた組織にならない。
   《参照》   『メシが食いたければ好きなことをやれ!』 岡野雅行 (こう書房) 《前編》
             【人の育て方】

 事なかれ主義の牙城であり、「前例がない(だからやらない)」が決まり文句の公務員という組織はねぇ・・・。
 民間企業であっても「新しいことを試みなくなったり」「改善」が失われている組織は、必ずや横ばい以下になるだろう。
 改善に絡んで、高校生ではなく小学生用に書かれた著作をリンクして終わり。
   《参照》   『キミは日本のことを、ちゃんと知っているか!』 齋藤孝 (PHP研究所)
             【小学校生活を制する者は世界を制する : kaizen】

 

 

<了>