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 この表紙を見れば、すぐに 『伝統の逆襲』 の著者によるものであることがわかる。工業デザインを学んでいる人で著者を知らない人はいないだろうけれど、比較文化を学んでいる人も著作の名は知っていた方がいい。長年海外で働いてきた著者のような方が記述するビジネス書は比較文化の宝庫である。2007年4月初版。

 

【自動車泥棒】
 ぼくが在籍していたピニンファリーナでは、外国の新人が入社すると、なぜかみんなクルマを盗まれるという不思議な出来事がありました。最初の内は単に治安が悪いからだと思っていましたが、やがてとんでもない事実が判明しました。
 なんと、クルマを売ったディーラーが、自動車泥棒だったんです。・・・中略・・・。ちゃんとしたディーラーですよ。それがクルマを盗みにきて、その日のうちにユーゴかどこかへ持っていって売っちゃうわけです。(p.40)
 ディーラーは扱う車種のマスターキーを持っているのだから、こんなのはお茶の子さいさいである。
 アメリカもイタリア同様、あくどい連中がタッグを組んでいる。
    《参照》   『ニューヨーク底辺物語』 境セイキ (扶桑社) 《前編》
              【ドゥ・ザ・ハッスル】

 外国は企業モラルが低すぎると思うかもしれないけれど、ウイルス対策ソフトを販売している日本の大手企業もマッチポンプを平気で行っている極め付きの“犯罪企業”である。そのことは、下記リンクのコメントに書いておいた。
     《参照》   『ステルス・ウォー』 ベンジャミン・フルフォード (講談社) 《中編》
               【見えない報道統制の系譜】
 盗まれた本人には保険がおりますし、ディーラーは2重にクルマを売って儲けられる。保険会社はどうにかして穴を埋めますから、誰も損をしない図式です。彼らもそう思っているから、後を絶たないのでしょう。(p.40)
 こういう社会だから、イタリアでいきなり新車を買うなんて馬鹿げている。
 誰も損はしないと言ったって、クルマを購入する人は盗難保険に加入する分だけ高い負担を払っているのだから、その分は損しているのと同じである。盗まれた人は書類が揃うまで、実にイタリアらしく延々と2か月間、レンタカーで我慢するのだという。

 

 

【イタリア人のワイン】
 お酒はワインばっかり。会社のカフェテリアでも、以前はお昼からワインを出しました。コストカットのためにそのワインを廃止したら、「ついにイタリアもここまできたか」と嘆く声があちこちから出ました。
 強いお酒はあまりポピュラーではなくて、本当に好きな人が食前と食後にスコッチを飲むくらい。あとはグラッパ(ワインの搾りかすから作る大衆酒)ですね。
 ワインの好みはみんなうるさくて、銘柄についてもうんちくがあります。(p.55-56)
 ワインは水がわりである。今はどうか知らないけれど、昼食のレストランで「水などない」と言われて、「午後の車窓観光は、爆睡してしまって何も見ていない」という日本人旅行者は多いことだろう。
    《参照》   『望遠ニッポン見聞録』 ヤマザキマリ (幻冬舎) 《前編》
              【ヨーロッパ人の保守性】

 

 

【友達ネットワークの国】
 警察に友達ができれば、何かを調べる時に便宜を図ってくれるし、郵便局員と友達になれば、優先して配達してくれます。優先されないと、後回しです。(p.57)
 後回しどころか、雑誌などの郵便物は、局員が読み終わらないと配達しないとか。
    《参照》   『聡明なのに、なぜか幸福になれない日本人』 リオ・ジャッリーニ (扶桑社)
              【個人を虐げるイタリアという国】

 

 

【マザコン社会となるイタリアの事情】
 イタリアの社会事情を考えると、それ(マザコン社会)も無理がないと理解できます。大学が5年間あって、その後2年間のインターンシップはタダ働き。それからやっと就職しても、手取りが7万円ですから、現実的には35歳くらいまで自立できないんです。・・・中略・・・。
 こうして35歳くらいまでお母さんの料理で生活していれば、必然的にマザコンになるんじゃないでしょうかね。恋人とデートするのも不自由で、日本みたいにラブホテルがありませんから、郊外の公園に行くと、道端で車が揺れていたりします。(p.59-60)
    《参照》   『アモーレの国 イタリア』  タカコ・H・メロジー  学研
               【おさかんな車中アモーレ】 【マンマの国】

 

 

【少なく稼いで優雅に過ごすイタリア人】
 彼らが7万円の給料で暮らせる理由は、1つはものすごいケチだということ。これは付き合ってみなければわからないでしょうが、彼らは本当にケチです。そして、もう一つは、イタリアの家が石の家だということ。(p.60)
 何百年でももつ石の家に住んでいるイタリア人に家のローンがあるわけない。日本人だって家のローンがなければ、ひと月3万円で生活できるだろう。残りを貯蓄すれば、別荘を持つことも可能。イタリア人の40%は別荘を持っていると書かれている。
 あくせく働いても住宅ローンで消えてゆくだけの日本と、安い給料でも別荘暮らしを楽しんでいるイタリア人。日本人の知らないイタリアが、ここにもあります。(p.60-61)

 

 

【イタリアで働くためには】
 日本と同じくらい英語が通じないので、イタリアで働くためにはイタリア語が必須です。サッカーでやってきた中田英寿はかなりのレベルのイタリア語を操っていましたが、あそこまで話せるようになるには、相当前から練習しないとダメでしょう。高校生のころから、「いつかはイタリアで」というビジョンを持っていた証拠だと思います。(p.63)
 著者の場合は、フェラーリが、ピニンファリーナというカロッツェリア(自動車のデザイン工房)でデザインされているということをかなり小さい時から知っていた(p.14)と書かれている。
 中田英寿は、何歳頃からセリエAを知っていたのだろうか。
 中田が出てきたついでに、中田をネタにしたイタリア関連の著作をリンク。
     《参照》   『 NAKATA MODE 』 高橋英子・宇都宮基子  小学館

 

 

【言語と考え方の関係】
 比較文化を学んでいる人のために、根本的なことなので長い記述を書き出しておいた。
 ふだん日本語だけで仕事をしている人にはなかなか気づくチャンスのないことだと思いますが、人間は話している言語によって考え方が変わります。ぼくはこれまで、日本語のほかに、英語やドイツ語、イタリア語で仕事をしてきましたが、それぞれの言語を話す時、まったく違う自分になっていることに気がつきました。・・・中略・・・。
 たとえば英語の場合はとても言葉の数が多いので、それをできるだけ早く話す必要があります。それに伴って口の動きも速くなるので、頭に加わる刺激が日本語よりもスピーディーです。使う顔の筋肉も違います。
 それと反対に、イタリア語はとても少ない言葉で意味が通じます。たとえば「ここにあるはずのものがないよ」と言う時、英語では「イッツ・ノット・ゼア」と言いますが、イタリア語では「ノンチェ」で話が通じます。そのように短い、少ない単語で意味が通じる言語なので、わずかな言葉でどんどん話題が進んでいきます。したがって、頭の回転をよほど速くしないと会話に追いついていけません。
 そのために、イタリア語で仕事をしていると、どんどん先のことを考えるようになり、それにつれて余計なことを考えなくなります。その結果、自分の考えが特化しやすくなり、短時間で自分の考えを伝えることができるようになります。
 ところが日本語というのは、余計な言葉がいっぱいありますから、たいしたことのない内容でも伝えるのに時間がかかってしまいます。それは微妙なニュアンスを伝える時には便利ですが、重要な項目を次々と処理するような時には面倒です。
 そういう違いは別としても、日本語は外国語と比べるとずっと複雑です。これは何種類かの外国語で仕事をしてきた人間が言うのですから、間違いありません。日本語を自由に操って仕事をする日本人というのは、すごい能力の持ち主だと思います。(p.24-25)
    《参照》   『英語以前に身に付けたいこと』 坂東眞理子 (日文新書) 《後編》
              【語学教育の要】
    《参照》   日本文化講座⑩ 【 日本語の特性 】 <後編>
 

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