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 東京のお台場にあるヴィーナスフォート。開業して間もない頃、行ったことがあるけれど、男である私には奇異な感じが否めなかった。無理もない。ここは女性をターゲットとして計画された集客施設だったのだから。この本を読んだ上で訪れていたら、見方もかなり違っていただろう。

 

 

【デジタルからアナログへの回帰】
 宮本さんは、伊かのように分析している。
「男性は左脳への理性的な刺激があればやってゆけるけど、女性は右脳への感覚的な刺激が減ってきたら非常につらい生き物なのではないでしょうか」 (p.37)
 若い女性がアジアへ行かなくなり、より遠いヨーロッパへ出かけるようになったのも、女性の国内旅行の行き先が、京都や奈良から飛騨高山、小布施、馬籠、湯布院に変わったのも、上記の理由で説明できると書かれている。
 デジタル化(男性的)からアナログ化(女性的)へというより、“美への渇き” と “自然の癒し” というキーワードで船井幸雄さん流に具体的に表現した方が相応しいと思うけれど、どうなのだろう。
 私自身は、日本語により作られている日本人の言語脳は、本来、デジタルにはなりえないはずと思っている。故に、日本では世界中のいかなる国よりも女性購買層の嗜好が、マーケティング上、より重要なインデックスとなるのであると。
 欧米流の数値化できるマーテティング手法で組み立てられたビーナスフォートは、たとえ集客に成功していても、日本人女性の本質的な嗜好には合っていないと思っている。なぜなら、それは、あたかもデジタルで作ったアナログだからである。つまり “機械のビーナス(機械の女神)” であって “自然のビーナス(自然の女神)” ではないからだ。

 

 

【女性を取り込むデパートの基本】
 ほとんどのデパートは、最も多くのお客さんが回遊する2階、3階、4階が婦人服売り場になっています。それも上の階に行くほど対象年齢層が上がっている。   (p.42-43)
 最も多い購買層に、最も客の集まる階層を割り当てるということ。
 つまり、ビーナスフォートはデパートの2・3・4階のみで構成するというコア・コンセプト。
 女性にとって魅力的なテナントを集め、空間演出としては、女性が好む美しいユーロッパの街並みの創出である。

 

 

【女性にトイレ待ちさせない】
 女性に満足してもらうために、徹底した設備とサービスを目指した。
 その象徴的存在が、メガトイレ「ヴィーナスレストルーム」である。日本最大級、400平方メートルの広さの中に、清潔な64の個室と化粧直しができるメイクアップスペース、ベビールームを完備している。 (p.82)
 時間的にも面積としても男性より多く必要とする女性なのに、古い建物のトイレは男女とも同じ面積で施工されているから、ホールなどでは女性の行列が当たり前になっている。フェミニストでもない男性だって、こういった事態に関しては、「不合理ですよね」と普通に思っている。
 ビジネスマーケティングの世界では、性差に基づいたニーズに合わせるという当然過ぎるほどに当然な合理化で、真に男女平等な施設がごく当たり前に計画され実現している。

 

 

【地方都市でビーナスフォートは可能か】
 しかし、地方都市では魅力的なテナントを集めるのは難しい。したがって魅力的な商業施設をつくることはできない、ということになる。 (p.202)
 地方で可能かどうか思索する前に、本地、お台場で経営に成功しているのかどうか分らない。この本はビーナスフォート開業と同時期、1999年の出版であるから、その後、いくつのテナントが入れ替わったのか不明であるし、現在の経営状況も不明である。
 現在も存続しているから失敗ではないのだろうけれども、それは恐らくお台場という “面の立地” による戦略が大きな成功因子となっているはずである。ディズニーランドの様に “点の立地” でもやってゆけるほどにビーナスフォートに秀でた特異性があるようには思えない。
 
<了>