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 「なんでこんなに切れるんだろう」、とその知性に感心してしまう大前さんの著作。余り本を読む気になれない気分の時でも、大前さんの本は、頭の働かせてくれるし、さらに動きを加速してもくれる。大前さんのこの本は内容が具体的で連係がいいので、受動的に読んでいても全体が見えてくる。
 

【日本経済の低迷は、景気の問題とはまったく関係がない】
 不景気という概念は、景気循環説に基づいている。・・(中略)・・。マネーサプライや金利調整などの政策によって、不景気を脱する時期を早めることができるというのが常識とされている。
 しかし、現実には政府がいくらゼロ金利を続け、マネーサプライを増やしお金をジャブジャブにしても、経済はいっこうに上向かなかった。この結果から導き出されるのは、「日本経済の低迷は、景気の問題とはまったく関係がない」 という結論である。 (p.28-29)
 
 
【経済学が前提としていない現在の日本の状況】
 経済用語辞典風に言えば。デフレは「広範な超過供給状態」で、・・(中略)・・、通貨量がモノの流通量より少ない状態だとされている。
 今の日本では、お金がジャブジャブになってもモノが流通していない。経済がカネを吸収していない時代なのだ。その理由は3つ。モノをあまり必要としない高齢者の増加(人口分布の変化)、在庫を必要としないジャスト・イン・タイムの生産方式への転換(法人部門の変化)、将来への不安からモノよりカネを握っておこうとする消費者心理(個人部門の変化)である。つまり、経済学が前提としていない状況が、今の日本では3つ重なって起こっているのだ。 (p.29)
 現在の日本経済は、デフレという概念に該当していない。経済を年齢的に見るならば、あたかも更年期に入っているかのようだ。経済がグローバル化している中で、日本は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国の青年期経済状態の国々と関与してゆくことが必要になってくる。少子高齢化が進むのだから、経済的に若い諸国に関与せざるをえないのだろう。
 しかし、同時に発展しつつあるBRICs諸国の全地球に閉める割合は、面積的にも人口的にもかつてない大きな規模である。環境問題・エネルギー問題が、地球全体に重くのしかかってくる。

 

 

【ロウアーミドルの選択】
 所得が低減する階層が増えるのだから、この階層(ローアーミドル)の人々は、一般的な固定観念を外してゆくことが必要になる。
 具体的には、持ち家、マイカー、洗濯機などに関して個人所有を止めて、賃貸、レンタカー、コインランドリーに移行することである。

 

 

【霜降り肉=マーブルド・ビーフ】
 日本では霜降り肉が珍重されているが、オーストラリアではこのような肉は大理石状の脂肪があることからマーブルド・ビーフと呼ばれ、「脂肪の含有量が多すぎて健康被害がある」という理由で販売禁止になっているほどである。  (p.145)
 霜降り牛肉は、肥育期間も長く、フォアグラ状態、すなわち強制過食状態にすることで作られている。霜降り牛肉を美食と思っている人間たちはブランドに利用されているだけの愚者ということになろうか。
 若者スターたちが美食にうつつをぬかしている番組を見ることがあるけれど、その若者スターたちが、“愛は地球を救う” などというスローガンの番組にも出ていた。自覚はあるのだろうか。一例であるにせよ、霜降り牛肉の供給者・需要者、いずれもエコロジーを語る資格はないと思うが・・・・。

 

 

【国産信仰を利用する杜撰な手法】
 中国から持ってきたウナギも、浜名湖で1週間泳がせれば「浜名湖産」になる。(2005年JAS法)。・・(中略)・・。以前は、白焼きの状態まで中国でやり、日本に輸入してからタレを付けて焼けば「国産」と表示していたのだから、消費者をバカにした話である。
 国内でも但馬牛が近江で食肉に加工されたら近江牛に、松坂で加工されたら松坂牛になる。 (p.146)
 ・・・・・・・。

 

 

【農業補助金:75兆円】
 1965年から農業基盤整備事業費という補助金が、これまで4回にわたって投入され、2006年度までの累積投資額は、実に75兆円にものぼる。
 しかし、それだけ莫大な金を国内に使うのなら、市場開放しても大丈夫なように農業生産性を高めることを目的にしなければならないはずだ。ところが、生産性は最悪のままである。その理由は、農業基盤整備の名目で国道や県道よりも立派な農道を作るなど、農家よりもゼネコンが儲かるようなカネの使い方をしているからだ。 (p.160)
 全国にある大規模農道は、兼業農家が毎日のマイカー通勤に使っているのだろう。
 それにしても、75兆円・・・・。大規模なバイオ・プラントでも作って、農家の高齢者を送迎付で雇用するという発想がなぜないのか、不思議というか、ムカツクというか・・・・。農業土木出身者より、農芸化学出身者の意見を優先すべきだろう。

 

 

【国が進めるIT化】
 本来であれば国が全国共通のシステムをつくり、それを各自治体で利用できるようにすれば無駄がない。ところが現実には、・・(中略)・・、各自治体にバラバラにシステムを作らせて荒稼ぎしているのである。
 住基ネットなどはIT化公共工事の典型で、役所の仕事が減って人員削減につながるどころか、かえって仕事が増えているのが実態だ。 (p.191-192)
 第一次産業の農業でも、最先端のITでも、国がやることといったら結局こうなのである。国民の税金を食い物にしている。特定業界と官僚の癒着による様々な規制が原因である。

 

 

【「地域国家」 が生んだ 「中国の発展」 「アメリカの復活」】
 「中国はそのうちバラバラになり、いくつかの国に分裂する」と言って中国の将来を疑問視する声もあるが、分裂したところで問題はない。中国が「1国2制度」から「1制度複数国家」に移行すれば、ますます経済発展するに違いない。逆に中央政府が統制を強めれば、中国の発展も終わり、ということになってしまうだろう。
 また、アメリカ経済が30年前のどん底から復活できた理由も、国家運営の仕組みがたまたま新しい時代に合っていたことにあった。 (p.251)
 日本には日本に相応しい道州制のあり方を考え、新しい経済繁栄の基礎を築いていけばよいのだ。 (p.253)
 日本の「地域国家」方式を阻み、ローアー・ミドル・クラスの生活を圧迫しているのは、間違いなく諸官庁の各種の権限だろう。

 

 

【「地域国家」を繁栄させる個人】
 中国も、沿岸部にある6つの「地域国家」が経済発展のために行ったのは、外資系企業の呼び込み、その力を借りる政策だった。ボーダレス経済の時代には、こうした「貸席経済」こそが繁栄への道なのである。 (p.260)
 21世紀の最大の特徴は、主導権が国家から個人へと移ることだ。
 そう、21世紀は国よりも地方、地方よりも企業、企業よりも個人、が主導権をとる時代なのだ。逆に言えば、突出した個人がいれば企業は世界の何処にあっても成り立ち、その企業のあるところが繁栄する地域となり、そうした地域を沢山もっているところが、結果的に繁栄した国となる。 (p.269)
 長年、国家に依存してきた日本の地方経済が、優秀な企業が立地している地域を除いて、おしなべて疲弊している様子を知っているから、この大前さんの主張を否定できない。
 個人に依存する繁栄は、やはり西洋的な繁栄方法であり、東洋においても柵封国家として成立してきた歴史的経緯をもつ中国では特に有効なのだろう。
 世界的な視野で語られる「地域国家論」の日本版が「道州制」ならば、その「道州制」は、「日本固有の “全体最適国家論” 」 でなければならないと思っている。であるにせよ、ネックはやはり利権団体と癒着する官僚である。  
 
 
<了>