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 頭痛で長時間死んでいたから頭があまり動かない。そんな時は、具体的かつ明晰な記述で、読者の頭を駆動させてくれる大前さんの本に限る。2004年11月初版。再読。

 

 

【日本人のほとんどは頭を使わない】
 頭というものは使えば使うほど磨かれるものである。使いすぎてダメになる人間はいないのだから、使えるだけ使った方がいい。
 ところが、日本人のほとんどは頭を使わないし、論理的思考というものをまったく身につけていない。(p.5)
 そう。
 だからこそ、そういう日本人である私は、刺激を求めて大前さんの本を読んでいる。

 

 

【2階級上のポジションを想定して考える】
 最後に、具体的に今の仕事に役立つ思考トレーニングの題材として、最適なものを紹介しておこう。それは 「自分が2階級上のポジションにいたらどうするか」 を考えることだ。 (p.47)
 これは、大前さんが提示する 「考える技術」 の具体的方法であるけれど、優れて向上的な人生論でもあろう。厨房の料理人からホテルの総支配人になった 『プロ・サラリーマン』 (致知出版社)の著者さんも、常に同じことを考えていたことだろう。

 

 

【逆さまが答じゃない】
 駄目な経営コンサルタントに典型的なのは、見つけた問題点を全部横書きにして並べ、問題点の逆さまが提言になるケースだ。「営業マンに元気がない」 → 「だから営業マンは元気を出すべきだ」 という具合だから、まったくお笑いである。 「商品に競争力がない。だから商品に競争力をつけるべきだ」 というのは簡単だが、では、どうやれば商品に競争力がつくというのか。解決策が何もない。
 「えぇ~、そんな経営コンサルタントっているの~!」 って驚く。
 呆れたことに、日本の経済戦略のトップが集まっているはずの経済戦略会議の提言も、みんなこのレベル。問題を羅列して、その逆さまが答だと思い込んでいるのだ。 (p.64)
 そうなんでしょうねぇ。

 

 

【視覚的プレゼンテーションの功罪】
 私は最近、プレゼンテーションでも講演でもあまりパワーポイントを使わなくなった。用意はしてあっても、急に使うのをやめて、話だけでやることもある。その理由は、パワーポイントを使うと、聞いている側の気が画像の方に行ってしまうからだ。 (p.67)
 パワーポイントに限らず、PCを使って成果物を作成させると、出来映えいかんにかかわらず、その内容が作成した当人の頭に残っていないことが非常に多い。特にPCを習いたての学生などはその傾向が顕著である。
 念のために書いておくと、パワーポイントとは、図形や画像を取り込むに適したソフトウエアのことである。

 

 

【私も人前でしゃべるのが苦手だった】
 現在の私からは想像できないかもしれないが、もともと私は恥ずかしがり屋で、人前でしゃべるのは苦手だった。・・・中略・・・。そこで、私は、マッキンゼーに入社してからプレゼンテーションやインタビューの練習を始めた。録音テープを回し、・・・中略・・・、本番さながらにやってみるわけだ。・・・中略・・・。そしてそのテープを聞いて、説得力がないと思ったら、内容を修正してまたしゃべる。それを納得するまで何度でも繰り返すのだ。
 世の中のビジネスマンのほとんどは、仕事に直接結びつかないような訓練をやろうとしない。しかし、じつはそれをやるかやらないかで大きな差がつくのである。(p.79-80)

 

 

【企業の価値は、利益の8倍】
 企業の価値は、その企業が生み出す利益のフリーキャッシュフローの8倍がリーズナブルな線だと言われている。 (p.105)
 この記述は、経営不振に陥ったカネボウの扱いに関して、産業再生機構に支援させたのは間違いで花王に売却すべきだった、という大前さんの判定ロジックに使われているキーセンテンス。
 このセンテンス、一般的に使えるから抜き出しておいた。 この式に照らして、毎月のこずかいをフリーキャッシュフローとみなしてチャンちゃん個人の企業価値を試算すると、月額わずかに8万円である。惨っじめ~。誰かに買収されたい。

 

 

【同質社会の日本の脆さ】
 日本人が恵まれていないのは、もともと同質性があるという点だ。これは日本の良さでもあるが、困難に陥ったとき、激しい国際競争にさらされたときには弱さになる。
 同質性がある中で、さらに立場や部門、あるいは派閥によって、より同質性の強い人間だけが固まる癖がある。・・・中略・・・。たとえば、雪印乳業が北大の農学部を中心にまとまっていたのは薄気味悪いくらいである。卒業年次で会社の中の順列が決まり、会社存亡の危機に襲われたときにはもろくも崩れてしまった。(p.126)
 この文章に続いて、大前さんは異質社会・アメリカの事例を対比して書いているけれど、それを読むまでもなく、私は雪印の事態に納得してしまった。
 農学部というのは、あらゆる学部の中でも、極めて旧態依然とした秩序にもとづいた慣行に従っている学部なのではないだろうか。大学の研究論文といっても、農学部関連は僅か1年やそこらの範囲で際立った内容の論文が書けるような分野ではない。先人である教授などが持つデータと知識には太刀打ちできなのである。故に、上位者に忠実であることとか、有力者の縁故があることとかが、その後のステイタスのほとんどを占めているのではなかろうか。
 だから私は、公務員と同様に、農業とその関連産業には自己革新性など決してないと思っている。もしも農業が革新されるとしたら、農業分野以外の企業参入によってなされるはずである。
 雪印に対比して、アメリカに一籌を輸することなき日本の自動車企業についても、大前さんはこう書いている。
 トヨタは、もとはといえば三河の田舎の会社で、ともすると同質性に陥りやすい性質を持っているといえるだろう。しかし目標を世界の中で一位になることにおき、フォードを抜いても 「まだGMがある」 と言って常に上を目指し、同質性のぬるま湯に浸ることを絶対に許さない。幸い日産も回復したし、ホンダも強いということで、ちょっと油断すれば国内の会社にも追いつかれるという危機感もある。トヨタには、これだけ収益が出て強くなっても、リラックスする兆しはないようだ。
 こうした世界の優良企業に共通して言えることは、異質性をどんどん取り込んで、それを企業カルチャーの中に上手に前向きに取り入れていることである。 (p.128)

    《参照》   『榊原式スピード思考力』 榊原英資 (幻冬舎) 《前編》
              【「考える力」は、異質な世界の人との出会いから】

 

【経営書トップ50冊に2冊】
 『マインド・オブ・ザ・ストラテジスト』 は、後に出版した 『ボーダレス・ワールド』 とともに、フィナンシャルタイムズが選んだ孫子以来4000年の間に著された経営書トップ50の中に入っている。トップ50に2冊入っているのは、私とピーター・ドラッカーの二人だけである。 (p.146)
 著者はこういう方なので、講演料も破格の1時間500万円である。

 

 

【大前さんの 『蛇にピアス』 評】
 大前さんは、「答えのない問題に答えを見つける能力は、日本の学校教育の中では育たない」 ということを主張する中で、学校にも行かず家にも帰ってこなかったような娘(金原ひとみ)が 『蛇にピアス』 で芥川賞をとったことを一例として挙げている。
 金原ひとみの小説は半径1メートルの中の体験で書かれているから、この後、彼女の作品世界が広がってゆくかどうか、私にはわからない。しかし、 『蛇にピアス』 は構成が非常にしっかりしている。起承転結、ドラマがあって、そのまま映画になるような書き方もしている。内容はなにか気持ち悪いけれども、小説の構成力としては大したものだから、芥川賞の価値はあると思う。 (p.160)
 いや、断じて芥川賞の価値はない。
 文芸や文化に関する見方に関して、私は大前さんに同意できない点がいくつもある。
   《参照》   『蛇にピアス』 金原ひとみ 集英社
   《参照》   『「知」のネットワーク』 大前研一 イースト・プレス

 けれど、私の考えは大前さんとは視点が異なっているのだし、そもそも異質さを積極的に評価している方なのだから、遠慮なく異論を書いていても、「大いに結構」 と思ってもらえることだろう。