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 就職前後の若者は早い時期に読んでおいたほうがいい良書である。
 多くの人々は、会社便乗型の普通のサラリーマンなのだろうけど、著者は、会社に属しながら多面的な成長を目指すタイプのサラリーマンをプロ・サラリーマンと言っている。

 

 

【料理人から総支配人へ】
 中卒の15歳で調理場に入社した一料理人だった私が、日本の名だたるリゾートホテル(志摩観光ホテル)の責任者として活躍することができたのは何故か? (p.2)
 出世の階梯を読んで、思わず 「エー」 って思ってしまうけれど、読んでみると、なるほどこういう方ならそうなるはずだと思える内容である。

 

 

【ジャガイモの皮むき3年は有意か?】
 「ジャガイモの皮むきを3年やった」
 といった、同じことを延々とやらされる修行に耐えた精神力というものを褒め称える傾向があります。しかし私はそういう体育会的な意識を前面に押し出した修行にはあまり意味を感じません。 (p.67)
 同感。近年の時間の流れは、数十年前のそれよりも明らかに速くなっている。学ぶべきことが増えている時代である。故に複数のことに関して向上しつつの3年は有意であれど、皮むきなどの同じ作業に費やす3年などは、貴重な人生時間の損失に近いはずである。

 

 

【計数感覚を養う】
 原価計算をする習慣がつくと、自分のいる部署の会社の中の立場や、会社全体がどのような営業方針を持ってどのようなビジョンに向かって進んでいこうとしているのかについて、理解がぐんと深まります。(p.72)
 一介の料理人とはいえ、常に経営感覚をもって働いていたということが凡庸ではない。原価計算の計数感覚がある人ならば、おいそれと待遇に関して不平不満など言わないものであろう。
 著者が行った具体的事例が書かれている。客部屋を増やして料理単価を下げようという意見に対して、逆に3倍価格を主張して成功させたという。伊勢志摩へやって来る客の多くは、首都圏などから交通費を3~5万円近くかけてやってくる客なのだから、3000円の料理を1000円にする意味はない。逆に7500円でそれに見合う料理を提供するほうが相応しい、という発想。言えてる。ましてや海の幸、豊富な高給リゾートホテルなのだから。
 開高健氏が 「少年の心で大人の財布を持って味わいたい」 という名言をはくなど、話題となりました。(p.19)

 

 

【記録する・読む】
 15歳で志摩観光ホテルに入社した時、「調理場日誌」 をつけ始めました。書くという行為は、漠然とした意識を明確にさせます。 (p.62)
 入社2年で大学ノート10冊。英語版の料理本を訳したときには200冊。フランスへ研修に行くまでの17年間に書き続けた日記は4日で1冊を書き終えるペースだったという。
 料理人の労働時間は、並みのサラリーマンより遥かに多いのは想像に難くない。それで総料理長時代は、日記の他に、読書も月に100冊 (p.108) と書いてあるから尋常ではない。寝ている時間はあったのか?
 読書とて手段です。何のための手段か。もうおわかりでしょう。どの分野であれ、プロ・サラリーマンとして高い品格を身につけるための手段です。知識や教養が得られるばかりか、質の高い本は読む者の人格まで鍛えてくれます。読書は人の内面を豊かにしてくれます。
 10代の頃は文字通り給料がそっくり本代に消えていました。 (p.110)
 質の高い本というのは、そう多くあるわけではない。日常の意識が常に “品格” や “内面の豊かさ” にフォーカスされている人でなければ、そのような手段としての読書はなかなか難しいだろう。私の場合は、単なる暇つぶしである。つまり、ここが単なるサラリーマンとプロフェッショナル・サラリーマンとの分かれ目である。
 人格・品格はあなたのプロとしての仕事ぶりを決定づけるものです。 (p.150)
 私が料理人だから食について言うわけではなく、食事以外のことすべてについて言えることです。自分なりの美意識を持って生活を整えられているかどうか。
 生き方の美しさで人を感動させられる ――― それが人としてたどり着くべき究極のところなのかもしれません。  (p.152)

 

 

【仕事とは】
 仕事とは、一生をかけて自分を探す旅です。何十年ののちに、自分らしく生きているという実感を得ることを夢見て、若い今はとことん悩み、とことんもがいてください。 (p.155  あとがき)
 この、仕事に関する一文は、最も実人生に根ざし、かつ、最も気高い定義なのではないだろうか。
 男ならば、仕事を通じて自己実現している人ほど、人生に満足感をいだいている人はいないだろう。
 
 
<了>