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 世界中を飛び回ってそれぞれの地域の実状を見て回っている大前さんの本を読むと、 “なるほど” と思える点が多い。この本に関しても、ロシア人の日本観や、EUに絡んだ今後のロシアの動向を示唆する記述は、とても興味深い。2008年11月初版。

 

 

【ロシア人は日本が好きか?】
 大統領を二期務め、いまは首相の座に納まっているプーチンの日本好きは有名だが、不思議なことに、一般のロシア人も無条件に日本のことが大好きだ。日本の製品があれば最優先で買い、「オタク文化」 ははじめサブカルチャーまで愛してくれている。これほど無条件に日本のことを好きなのは、世界のなかでロシアとインド、そしてトルコくらいのものだ。ロシアは日本にとって極めて貴重な国なのである。 (p.16)
 戦争で勝ったの負けたのはすでに60年以上も前のことで、一般のロシア人はそんなことには頓着していない。優れた日本製品とマンガはロシアでも既に流布している。
 それにしても、“無条件に日本のことを好きなのは、世界のなかでロシアとインド、そしてトルコ” という記述にびっくりしてしまう。多くの日本人にとってかなり意外な記述ではないだろうか。

 

 

【プーチンの業績】
 2000年3月に圧倒的人気で大統領に当選してから、地下経済を表の経済に浮上させ、債務国から債権国へ転換させ、累進課税を廃止してフラット・タックス(13%)を実施し、最近では高齢者などへの社会保障額をあげるなど、国民から圧倒的な支持を得ている。
 ペレストロイカ後のどん底から、プーチン政権になって明らかに上向きを続けている。現在は大統領の地位をメドベージェフに譲っているが、プーチンに対する国民の支持率は現在でも圧倒的である。

著者は以下のように書いている。
 4年後にはプーチンが大統領に返り咲く可能性は極めて高い。2020年まで国の指導者が見えている国は、世界でロシアぐらいではないか。(p.51)
 アメリカがオバマ大統領に代わった現在、世界は、プーチンの意思次第で、永続的な安定と繁栄を実現する可能性が高まっている。
 アメリカがNATOへの関与を薄め、ロシアがEUへの加盟を選択すれば、アジアのならずもの国家・中国も、覇権主義の幻想を肥大化させている場合ではない、現実の中国国内経済建て直しに専念できるはず。
 

【極めて高い教育水準】
 ロシア各地を訪れてみて感じるのは、「ロシア最大の産業は大学」 ということだ。地方の中核都市では、大学が最大の雇用場所となっているし、若者が大学に行くために失業率も低い。ウラジアストックやハバロフスクなど、発展の遅れた都市にも設備の整った大規模な大学が建ち、非常に高度な教育を行っている。しかも安い授業料が進学率の高さを支えている。 (p.64)
 第3次教育(大学・専門学校)への進学率はロシア72%、ブラジル25%、中国25%、インド11%だという。進学率の数字だけで比較するなら日本はもっと高いだろうけれど、レベルはロシアの方が高そうだ。たとえば今日のイスラエルなど、多数のロシア人が移住した小さな国家は、いずれも高度な産業競争力をつけて発展しているのである。この事実は大きい。
    《参照》   『知られざる技術大国 イスラエルの頭脳』 川西剛  祥伝社
               【ソ連崩壊がイスラエルの発展を準備した】

 

 

【ロシアの購買力が高い理由】
 ロシアでは一律13%のフラットタックスのおかげで、高額所得者の可処分所得が非常に高い。また住居費や光熱費が安く基本生活費が低くてすむため、ロウアーミドルクラスの年収でもアッパーミドルクラスの可処分所得がある。
 だからロシアは日本では想像がつかないほど個人に購買力がある。しかも貯金もないのにモノを買う。明日の方が収入が上がる、生活が良くなると思っているから、将来に対する備えをしないのだ。また男女の平均寿命が59歳なので、定年(普通は62歳)よりも短い。つまり老後の蓄えが余りいらない、という発想なのである。(p.82)

 

 

【売り手が強いクレジット社会】
 (カーディーラー)ロルフ社のマット・ドネリーCEOは、「デフォルト・リスクはこの国ではゼロです」 という言い方をする。ロシアでは自分の車を持っていかれても、法律上は 「支払わなかったほうが悪い」 ということになる。それゆえ、クレジットで車を購入した人は懸命に払う努力をするし、しなかった場合、売った側は現物を回収してしまう。日本では考えられないほど売り手が強いのだ。(p.86)
 日本ではクレジットで製品を購入した場合、支払いが滞ってもクレジット会社と買い手の関係のみで、売り手は関係しなくなる。クレジットのことはよくわからないけれど、買い手がデフォルトした場合は、製品を売り手に戻す規約があればその方が、クレジット会社の貸し倒れ額は少なくて済むのであろうに、そういった方法がなぜとられていないのだろうか。
 実物経済からマネー経済への移行を率先してけん引する役割としてクレジット経済があったのは明白である。売り手と買い手の両方に便宜をもたらすものにみえて、クレジットの実態はマネー経済の主要な燃料である。

 

 

【ロシアにおけるJT】
 ロシアのような発展途上国的な国では、タバコがまだ成長産業だ。いま、サンクトペレルブルグで最も法人税を払っているのがJTというほど、JTはロシアの超優良企業になっているのである。 (p.108)
 JTは、バイオ関連の多角経営で既に脱タバコ会社になっていると思っていたら、ロシアでは昔の手法で大いにもうけていた。ロシア市場の34%ものシェアを持っているというから、相当な利益であろう。

 

 

【ロシアの事情を知らないメーカーは売れない】
 なにしろ冬は氷点下35度。2ドアで、運転者が後部座席に人が入るのを待っていたら、外にいる間に凍えてしまう。・・・中略・・・。ハッチバックが大きく開くようなタイプもいけない。なぜなら、氷点下35度で後ろのドアをあけたら、後部座席に乗っている赤ん坊が死んでしまう(!)からだ。 (p.118)
 高緯度に位置する国々では、バイクなどあまり売れないという経験的事実を、ホンダはロシアの自動車販売では思いつかなかったらしい。3ドア・ハッチバックを持ち込んでロシア人ディラーに激怒されたという。
 なお、ロシアの自動車販売で、いち早く進出し最も成功しているのは三菱自動車であり、ロシアにおける日系3強は、トヨタ、日産、三菱 (p.109) だそうである。

 

 

【東欧最大のソフト・ベンダー:IBA】
 私がIBAに注目しているのは、実はベラルーシがソ連の一部だった時代、首都ミンスクにはかなり大規模な軍事拠点があり、相当優秀な人材がいるはずだからだ。投資の機会があれば狙ってみようかと思っている。(p.153)
 IBAはグローバルに事業を展開するうえで不便なため本部はチェコにあるけれど、実態はベラルーシにある。著者はロシアのIT産業を非常に高く評価しており、この書籍の中でIBA以外にもいくつか紹介している。