《前篇》 より

 

 

【悶える中国、突き抜けたロシア】
 1ルーブル400円から一時は1ルーブル2円にまで急落。ロシア国民は持っていたルーブルが紙くず同然になるという地獄を味わった。だが、逆に今になってみれば、思い切って制度を変えたおかげで、最近ようやく資本主義が機能し始め、ルーブルも強くなり始めている。これから先は安心してみていられる状況になると思う。(p.178)
 中国もロシアも依然として官僚が腐敗し人治国家としての側面が色濃く残っていることに変わりはないけれど、少なくとも経済の制度として、ロシアは中国のように中央政府がコントロールする変形資本主義でないことは、今後の発展に明るさを予測しやすい要因であろう。ロシアのEU帰属に可能性が持てるからである。
 その他に、ロシアと中国の大きな違いは、国民の国内移動の自由の有無、選挙で指導者を選べるか否か、の2点である。

 

 

【中ロ関係 / 日ロ関係】
 2008年の7月になって、長年の懸案であったアムール川とウスリー川の合流点にある大ウスリー島の国境線が確定し、両国は議定書に調印している。日本では余り報道されなかったが、この意味は大きい。(p.187)
 それまで、中ロは国境線をめぐって長年紛糾していたのである。ここで決着をつけたのは、ロシア側にとっては中国との人口差の脅威であり、中国側にとってはロシア側にある資源への渇望なのであろう。争って紛糾するより、両国がそれぞれに足りないものを補い合えれば、国境周辺地域は活性化する。
 日本も、北方4島の返還云々にこだわるよりは、その地域の発展に寄与する視点で日ロ関係を進めるべきだろうと、著者は記述している。
 繰り返すが、ロシア人にとって北方領土の領有権は実際のところはどうでもいい。日本が 「不法に占拠している」 などと言うから引っ込みがつかなくなっているだけだ。実はロシアという国は、すでに19世紀的な領土観を卒業してしまっているのである。
 ・・・中略・・・。
 ところが日本側には、19世紀的な領土観が根強く残り、いまだに85%の人がロシアを忌み嫌うメンタリティーから抜けきれないでいる。 (p.228-229)

 日本の場合、富を創出するのは工業力であり、日本の工業力を最も必要としてくれている国の一つがロシアである。しかもロシア人は日本が大好きで、他のどの国の製品よりも日本製品を選んで買ってくれる。言い換えれば、日本にとってロシアは ”油田” のようなものなのだ。日本のことを嫌いな隣国がたくさんある中で、ロシアは貴重な友人、しかも伸び盛りの頼もしい友人、ということになる。 (p.231)

 

 

【酩酊から醒めて現実を生きだしたロシア人】
 今ではヴォッカの売り上げが減少し、代わってビールが急増している。 (p.180)
 ロシア文学を多少なりとも覗いとことのある人々ならば、高アルコール度のヴォッカを痛飲して酩酊しているロシア人、というイメージがあるはずである。変えようのない政治制度の下で、暗澹たる人生を過ごしてきたロシア人の長く辛い冬の時代は、漸く現実的に変わりつつあるのではないだろうか。そんな印象を、上記の一文の中に私は感じ取っている。


【地域国家論を体現したEU】
 19世紀の国民国家は、大きければ大きいほどいいという考え方不が基本にあり、帝国主義もこうした国民国家観に基づいて植民地を拡大してゆこうというものだった。しかし21世紀のボーダレスワールドにおいては、国民国家ではなく地域国家が発展するというのが私の地域国家論であった。それを見事に政治的に実現したのがEUなのである。(p.210)
 EUの始祖となったルクセンブルグは人口たったの50万人の国家である。世界のファンドから集まる資金はロンドンからルクセンブルグを経由して世界各地に分散されている。

 

 

【安定をもたらすEUのしくみ】
 小国が防衛や外交などを個々に行いことは負担があまりにも大きいが、EUの中にいる限りはプリュッセルにお任せでいい。また。EUというヨーロッパの大国の中では、小国は貧しくとも潰れてしまうようなことはない。EUの補助金制度は、例えばスペインの場合、スペインという大きな国家単位ではなく、ガリシア州という地域の単位に支払われる。EUは州単位で一人当たりのGDPを見て、EUの定めた基準より低いところに補助金を出すしくみになっている。 (p.212)
 日本もEUのしくみにならって、アジア地域に補助金を出すような宣言をしたらどうだろうかと思ってしまう。もちろんEUに加盟するには、それなりに最低基準に達している必要があるのだけれど、最低限の自助努力を行っている地域には、それをさらに助けるというのが最も正しいあり方のはずである。
 明治維新後の日本は、今日のEUのような “ありうべき” 分配方式を用いて、地域国家を発展させてきたのではないだろうか。明治維新を行った日本が雛型となって、EUが構想されてきたはずである。
 戦後20年目あたりまでは最も均衡のとれた発展をしてきたはずの日本なのに、今日の日本には利権意識の強い官僚が蔓延っていることが、日本の最大の弱点・汚点になっている。
 日本の政治家に、世界を平和と繁栄の裡に結ぶ高貴な共存共和共栄意識がないのならば、EUを先んじて拡大させる方法で、世界を安定へと導くことになるのであろう。 
 
<了>