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 本を読む気になれないときでも、思考が具体的で論旨が明確な大前さんの書籍は、チャンちゃんの頭を駆動させてくれる。しかも、生きたビジネス世界の実例に即して記述されているのだから、興味が持てないわけがない。


【デンマークの教育 : Teach から Learn へ】
 『教育こそが国の基本』 という信念の下、北欧諸国が教育に注いできた情熱には大変なものがあります。
 その特徴の一つはITリテラシーを前面に出していること。
 そして、「 『teach』 という概念を否定しましょう」といっていることなのです。
 デンマークの教育施策には、「すべての子供は学ぶ権利がある。しかし、学校に答えを教える権利はない」 という明確な哲学が貫かれています。
 私が「ではこの国において、教育とは何ですか」 と訊ねたら「 『Learn』 です。生徒たちに自ら学んでもらうのです」という答えが教育担当局の一人から帰ってきた。
・ ・(中略)・・
 子どもに答えを言わせることが教育であるという先入観は、文科省にも学校の先生にも抜きがたくこびりついているのです。 (p.29-31)
 デンマークは福祉国家として財政難に陥りながら、ブロックで有名なレゴなどの世界的な優良企業の力によって見事に国力を回復してきた国である。
 ノキアは、北欧フィンランドの国際的有名企業であるけれどシンガポールにアジア本社をおき、日本から購入した部品を、韓国の釜山に運んで組み立て、それを広大なアジア市場で売りさばいている。文部科学省が主導する日本の現在の教育で、こういった発想をし、かつ実行できる人材が育つだろうか?

 

 

【BBT(ビジネス・ブレイクスルー)大学院大学】
 2005年に大前さんが立ち上げた “校舎のない大学院” なのだという。世界全域をビジネス市場として考えている大前さんが、最高水準のインターネット・ソフトを開発して行っている大学だという。
 高額な費用と、数年という時間を費やして、アメリカへMBAを取得しに行かなくても、日本でビジネスをしながら夜間にインターネットを使って授業が受けられるシステムなのだという。
 松下政経塾の卒業生とBBT大学院大学の卒業生。将来的に実務で活躍する人材は後者の方が多くなるであろうことは、その具体的なカリキュラムを見れば容易に推測できる。
 BBT大学は “答えのない問題を考え抜く知性、答えのない時代を生き抜く強靭さ” を目指してもいる。このテーマは、公務員が勤務する全ての小・中・高校でも取り入れる必要があると思うが、おそらく、そうはならないだろう。「前例がない」 といって拒否するのが、公務員の公務員たる所以だからである。

 

 

【Xbox360とPS3】
 Xbox360、これぞマイクロソフトが出した 「テレビとITの融合」 という回答です。一見ゲーム機の顔をしながら、その実体はスクリーンのコントローラー。
 このコンセプトを果たして日本のメーカーは理解しているか。
 私は Xbox360を見て、次世代ゲーム機戦争でソニーは敗れるな、と思いました。
  ・・(中略)・・
 PS3 は泥んこ道を走るためにフェラーリにより大きなエンジンを積もうとしているような、恐ろしく間違った方向に進んでいると私は思います。 (p.92-93)

 

 

【「反日」教育でお先真っ暗か】
 中国は92年頃から本格的な反日運動が始まりました。もちろん中国共産党にとっては抗日運動こそが “創業の理由” ですから、抗日を言わないと歴史は語れません。 (p.105)
 反日教育に転ずる前の中国は、もっぱら反米・反資本主義教育でした。実際、20年前のそれは半端なものではありませんでした。『毛沢東語録』 を掲げ、 “悪の帝国” アメリカの思想を批判する反資本主義教育を徹底していた。
 しかし現在、その教育の面影があるでしょうか。留学したエリートたちはすっかりアメリカナイズされて帰ってきて、若い人達は熱心に英語を学んでいる。
 今や中国へ行っても、『毛沢東語録』 など持っているひとは何処にもいません。ある中国人経営者がふざけて、私の 『ビヨンド・ナショナル・ボダーズ』(地域国家論) という本をうやうやしく掲げ 「20年前はこうやって 『語録』 を持っていました。でも、今はこれです」 などと言っていました。 (p.106-107)
 アメリカに留学していた共産党幹部の子弟は、アメリカ政府からゴールドカードを提供され、使いたい放題の放蕩生活を享受していたという話しが、確か青木さんの本の中に書かれていた。
 日本は共産党幹部子弟を享楽を用いて籠絡するような不潔な手段を使う必要はない。日本には高度な技術力と、繊細な文化力がある。幹部子弟という限られた人物だけではなく、中国の大衆が日本人の本当の生活に興味を持つようになるはずである。

 

 

【中国を疑問視する前にアメリカはどうだったか】
 「中国ではルールがコロコロ変わる。とても法治国家とはいえない」などという愚痴も聞かれますが、ルールの違いという点でも日本はアメリカで何百倍も苦労しました。
 特許訴訟からセクハラ訴訟に至るまで、日本企業を狙い撃ちした裁判は枚挙に暇がありません。日立と三菱電機はIBM産業スパイ事件で完敗しましたし、半導体集積回路に関するキルビー特許では、日本企業が支払った特許料の総額は数千億円にも及びます。アメリカの弁護士が一番儲けたのは、日本企業関係の係争ではないでしょうか? (p.122-123)
 アメリカはこのように扱いにくい国であったけれど、それでも日本企業のアメリカ社会に対する浸透度はヨーロッパを含む他のども国も及ばないほどに高いレベルになっているのだから、同様に日本企業が中国に進出することに、何をためらう必要があるのか?
 という大前さんの考え方である。
 経済のみで考えるなら 『地域国家論』 の主旨通りに世界は進むかもしれない。その場合は日本の高品質な工業力が米国と同様、中国にも浸透するであろう。しかし、悪辣なアメリカと中国が組んで、政治力を用いて意図的に日本を挟撃するとしたらどうであろうか。その思考実験は記述されてはいない。

 

 

【事実に基づいた議論】
「経営は和だ」という意見が出たら、私は 「和だけじゃないよ」 と、たとえば松井証券社長の松井道夫さんが話している1時間の映像を見せます。
 松井さんはその映像の中で、「経営というのは選択です。和ではない。私に反対する人は排除します」 とはっきり言っています。 「その代わり、その選択に対する責任は私にある。・・(後略)・・」
 さすがに日本にここまで言う経営者は少ないですが、しかし、こういう映像を見せることで、
「こういう考え方で信用取引売買高で野村證券を抜き、社員一人当たりの利益額が東証一部上場企業のトップになったんだな」 という事実を認識できる。   (p.182)
 経営でも政治でも、平均的であらねばならない場合と、突出していなければならない場合がある。
 どちらを選択するにせよ、その見極めが正しいか否か、その時点では誰も答えを知らない。
 答えは結果としてもたらされるだけである。
 答えのない世界を生きる経営者・政治家は、卓抜な思考力と強靭な精神力を持っていなければとうてい勤まるものではない。
 
<了>