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 日本を維持・発展させるための資金として政府は相変わらず昔ながらの方法である増税を企てているけれど、大前さんは、「そうではなく世界をさまよっている4000兆円のホームレス・マネーを活用すべく頭を切り替えたほうがいい」といっている。この書籍は2011年1月初版だけれど、タイトルの意味内容は、10年ほど前から著者が言っていたことだろう。世界から資金を呼び込んで発展してきた中国の手法を「貸し席経済」という言葉で表現していたことの延長である。

 

 

【マクロ経済政策は旧世紀の遺物】
 このように、21世紀の世界経済は、ホームレス・マネーという神出鬼没の巨大なカネに翻弄されざるをえなくなった。・・・(中略)・・・。もはやマクロ経済政策は旧世紀の遺物といっても過言ではない。国家はもとより、企業も個人も、この金の性質と流れを正確にとらえなければ、一夜にして泣きを見ることになるのである。(p.66)
 マクロ経済学の視点は、結果としての現状から今後がどうなるかという解釈においてはある程度意味があるだろうけれど、未来予測においては殆ど使えない。
 とりわけ、計量経済学って何の意味があるのだろうか。世界中のヘッジファンドやバブル崩壊を目的として資金を動かしているアービトラージャー(サヤ取り業者)の意志や資金量まで数値化して取り込んでないなら、完全に無意味な学術的マスターベーションというだけである。計量経済学者は下記リンク内容を、「知りませんでした」では済まないのである。
   《参照》   『連鎖する大暴落』 副島隆彦 (徳間書店)
             【CMEの先物取引】

 

 

【通貨防衛同盟】
 金融危機が表面化したときに、いち早く流動性を確保して為替市場への介入が可能となるように、欧州中央銀行は外貨準備の潤沢な日本や中国、さらには石油輸出国機構(OPEC)諸国と通貨防衛同盟を結ぶべきなのだ。(p.80)
 日本も中国も外貨準備が100兆円以上あるからいいけれど、欧州中央銀行は40兆円程度しかないからヘッジファンドに狙われたらひとたまりもないと書かれている。現在の欧州中央銀行が通貨防衛同盟を結んでいるのかどうか知らないけれど、かつては闇の権力の支配下だったIMFが現在は健全な組織になっているらしいから、こちらが世界経済を防衛する砦となっているのだろう。
 中国経済を国内経済の状況だけから見たら住宅バブルなどに絡む危機が高いのは事実だろうけれど、国際経済の視点で見たら外貨準備高の額がものをいっている。日本経済も長いこと不況と言われ国債発行額が異常な率に達しているといわれながら、国際経済においてはやはりプレゼンスが高いのである。中国経済は日本経済と並んで明らかに国際経済におけるスタビライザー(安定装置)としての役割を担っている。

 

 

【冷たい現実】
 先進国経済が低迷しているのは、たんにリーマンショックの影響が長引いているからだけではない。・・・(中略)・・・。
 経済学者は金利を下げ、資金供給を増やして経済を活性化しろといっているが、それは20世紀経済の考え方で、21世紀の先進国ではほとんど効果が出ないことは日本が証明している。・・・(中略)・・・。少子高齢化した先進国で、活性化した経済が持続することはない。私が「バイアグラ効果」と呼んでいるように、せいぜいごく短期間に経済が上向くだけである。(p.88-89)
 国単位でこうなのだから、より冷え切った地方ならなおのことである。だのにどこの地方行政も一般会計、特別会計において何百億・何千億と借金を抱えながら、いまだに無駄な工事に馬鹿みたいにお金をかけて、特定業者だけに利益をもたらすという愚かしい行政を性懲りもなく行っているのである。地方行政の存在自体がマイナスであり、そのうち住民の首を絞めるようになるだろう。
 平均的な収入のある住民は年間30万円も住民税を収奪されて、椅子に座っているだけの地方公務員を養っているのである。もはや地方行政自体が公務員を養うための福祉事業の様相を呈している。財政のほとんどは耐震を名目とした庁舎の改修・建設と天下り団体への資金提供と公務員の給与に使われているのである。地方行政を食い物にしている公務員なんて、つまるところ国内共産主義的な分配権限を持つ権力者であり収奪者なのである。公僕なんて大ウソ。

 

 

【ホームレス・マネーの活用実績】
 台湾企業は日本から自動化機械を中国に持ち込んで、いまでは「CHAIWAN」といわれるような企業群を生み出してきた。これは経営に必要な資金は世界中から集められ、熟練工よりも低コストで勤勉な工員がいれば、すくなくとも普及品では世界の頂点にたつことができることを示している。あらゆることで日本の後塵を拝してきた韓国が、資金と経営のスピードでいまやリードしているのも、ほとんどがデジタル商品の分野である。(p.91-92)
 CHAWAN の旗頭は、アップルの基本ソフト(OS)を提供している企業、すなわち台湾の高雄に本拠地を置く世界最大のEMS(電子製造会社) 鴻海(ホンハイ)だという。ホンハイは中国国内で10万人の雇用を生んでいる。
 日本は技術力が高くても人件費が高いから、よほど優れた企画を提示しないことには世界のホームレス・マネーは集まってこない。そして日本で想定できる優れた企画は、人口密集地である都市部においてなら立てやすいけれど、地方ではそれほど容易ではない。
 少子高齢化傾向にある先進国は、かつての経済手法に固執している限りかつての繁栄を取り戻すことは不可能である。ましてやアイデアを絞りだそうとしない地方行政においては、冷たい現実があるだけである。

 

 

【年金問題解決の方法】
 年金のリターンを生み出すには(高齢化した)自国ではなく、自国の30~50年前と同じような経済発展段階を通過中の新興国において運用するしかない、という結論に達する。(p.94)
 まさにグローバルなスケールで、島宇宙にも似た「50年前の日本と同じポテンシャルと規模を持つ経済」が20くらい形成されつつあるのだ。この新しい21世紀の世界観をもつことが日本の再活性化には不可欠だと考える。(p.115)
 21世紀の市場原理に則して出てくる回答は、こうならざるを得ない。
 世界のホームレス・マネーを招き入れるだけのアイデアを創りようがない地方行政は、実質的に意味のない工事や怠惰な公務員に無駄金を注ぎ込まず、住民に均等に還元する福祉行政のような形を目指すしかないだろう。
   《参照》   『〈疑う力〉の習慣術』 和田秀樹 (PHP新書) 《前編》
             【市場原理か福祉国家か】

 

 

【日本の地獄絵図】
 シンガポールは資金も人材も世界中から取り入れ、日本はその両方を拒否している。どちらが先進国で、どちらが横綱相撲をとっているのか、火を見るより明らかだろう。日本にホームレス・マネーがほとんど来ていないこと、したがって国民から税金で撒き上げるか、あるいは国債を発行して将来から借金をするしかなくなっている。この地獄絵図にそろそろ国民も気づくべきときだろう。(p.105-106)
 消費税増税に反対していた人々も、「時期が適切ではない」という理由を言っていただけである。大方の日本人の発想は、誰であれカチンコチンに固まっている。

 

 

【相続制の廃止】
 すでに先進国のうちイタリア、オーストラリアなど17カ国は相続税を免除しているが、その最大の理由は、高齢者に貯まりやすい資産を若い世代に譲渡して経済を活性化するという知恵である。(p.205)
 消費税率を上げるより、こっちのほうがずっといいように思えるけれど、どうしてそうしないのだろうか。

 

 

【減価償却期間の短縮】
 減価償却期間の短縮は、税金を使わない景気刺激の最大の起爆剤である。財源のないいま、日本政府はこの力について認識を新しくすべきだろう。
 事実、アジア通貨危機後の韓国ではそのような観点を採り入れて、建物の減価償却期間を16年にした。これで大建設ブームが起こり、ソウルオリンピックのときに建てた安普請のマンションが建てなおされてしまったのだ。マンションには光ファイバーが導入され、あっという間に韓国は世界一のIT大国になった。韓国経済が復活した真の理由がこれである。(p.209)
 現在、IT機器の償却期間は何年に設定されているのか知らないけれど、昔は工作機械みたいに長期間に設定されていた。技術の進歩が激しく変化の激しい経済状況の中で、減価償却期間が長いと企業の機動力はよくならない。それでもって法人税も下げないなんていうなら、ムチとムチの政策である。