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 ある程度本を読み続けてきた人々なら、ごく自然に到達する見解が書かれている。そうはいっても、人間というものは特定の視点を拠り所にして考える習慣に狎れ安住したがるものだから、そのような危険性を再認識できるという点に置いて、誰が読んでも有益な本である。2004年9月初版。

 

 

【タイトル解題】
 あとがきに、以下のように書かれている。
 疑う力の意味を本書を通じてわかっていただけただろうか?
 ・・・(中略)・・・ 。
 疑う力をもつということは、相手のことや情報を信用してはいけないということではない。疑うか、信用するかという二分割でしかものが考えられないのであれば、それこそ疑うことで、相手や情報が本当であるかもしれないということが疑えなくなってしまう。
 私が言いたいのは、信用した場合でも、ほかの可能性も考えられる、つまり多様なシミュレーションができるようになってほしいということである。(p.187)
 「疑う力」 = 「視点を変えていろんな角度から考えることができるようになる力」 ということだろう。
   《参照》   『海馬 脳はつかれない』 糸井重里・池谷裕二 朝日出版社
              ○こんなことを考えていた。

 そんな力を身につけるには、読書や体験を通じて、ある程度まとまった量の具体的解釈の実例を経ておく必要がある。この著作には、そんな実例がたくさん書かれているから、通読することで 〈疑う力〉 をある程度身につけることができるだろう。

 

 

【知識を疑う能力】
 学問の限界性と人口減少社会の消費不足。これらはまさに、絶対に正しいものがなくなることを意味する。また作れば売れるという時代でなくなったのであれば、何が売れるのかをしかけていく必要も生じる。問題発見能力が必須となってくるのだ。
 だとすると、知識を詰め込むだけでは足りないばかりではなく、私が 『大人のための勉強法』、で提唱したように、知識を使うだけ、つまり問題が解決できるだけでも足りない時代に入ったのかもしれない。
 そこで、必要となってきたのが、「知識を疑う力」 なのではないかというのが、私の提言である。(p.7)
 思うに、社会常識という枠内で生きている現代人の 「知識」 は、基本的にほとんどが 「貨幣(お金)」 に繋留されている筈である。だから、「知識を疑う能力」 は 「貨幣経済体制を疑う能力」 に通底するはずだと思っている。
   《参照》   『アセンションの超しくみ』 サアラ (ヒカルランド) 《前編》
              【社会意識(コントロール・グリッド)という檻から出る】

 「知識」 にそれほど価値を置かず、「人間本来のあり方」 を中心に考えている人々は、案外早くから貨幣経済を卒業した先にある社会のことを考えて、書物に著してきているのである。
   《参照》   『1日3時間しか働かない国』 シルヴァーノ・アゴスティ (マガジンハウス)
   《参照》   『お金のいらない国』 長島龍人 新風社

 人類の最終ゴール地点はあくまでもマネーフリー(脱貨幣経済)社会なのだけれど、移行期として社会経済体制は、北欧諸国の現状に顕れているのかもしれない。

 

 

【市場原理か福祉国家か】
 市場原理導入の遅れている北朝鮮はいまだに経済苦にあえいでいる。こういった実情を見れば、「共産主義システムではダメだ。資本主義システムのような、差をつけて生産性をより高める方法のほうがよい」 という信念体系を、多くの人々が強化していっても不思議なことではない。
 しかし、今後もその生産性神話が続くとは限らない。現実に、現在競争力が世界一とされている国は何とフィンランドであり、2位はアメリカであるが、3位がスウェーデン、4位がデンマークと福祉国家が上位を占めている(世界経済フォーラムによる2003年ランキング)。ちょっと情報を疑うだけで、新たな視点が出てきてもおかしくない。(p.42)
 資本主義システムのアメリカが、第2位であり続けているのは、基軸通貨国であることと、先進国の中では例外的に人口が増加し続けているという状況があるからである。
 資本主義は、域内の成長が完了した時点で、力を失う宿命である。それを覆すのが市場の拡大ないし人口増加であり、アメリカはアジアや中南米を市場として取り込みつつ、移民をも受け入れてきたので、世界の中では例外的に成長を長期間続けることができたのである。
   《参照》   『いまアメリカで起きている本当のこと』 日高義樹 (PHP) 《前編》
              【アメリカの経済基調をプラスに支える人口増】

 しかし、そんなアメリカにも、そろそろ終わりのときが近づきつつある。
   《参照》   『史上最悪の大破綻!!』 ラビ・バトラ (あ・うん)
 北欧諸国が上位にランキングしているのは、住宅や土地が国有であり光熱費に関わるエネルギーもほとんど無償で供給されるという社会形態に依っている。そうであれば、国民は人生に不安を抱えることがない。老後の心配をすることもなく、誰もが “安心” して仕事や趣味に専念できるからこそ、国家全体として優れた結果が残せているのである。
   《参照》   『男の世紀は終わった』 安田千惠子 堀内出版
              【合理的なスウェーデン人】
              【「聞く」 と 「見る」 とでは大違い】

 日本がアメリカ型で成長を続けることを可能にするのは、ロシアとの合意の上でサハリンなどの開発に参画すること、ないし、日本近海に新たな国土が浮上する場合のみであろう。