《前編》 より

 

 

【「第2の深圳」が意味するもの】
 もっか中国は、新疆ウイグル自治区の西のはずれにあるカシュガルを最重要拠点ととらえている。この街を「第2の深圳」にすべく、砂漠の真ん中に高層ビルの建設や鉄道の敷設を始めているのだ。
 カシュガルが繁栄すれば、ウイグル自治区のイスラム勢力を平定しやすくなる。それだけではなく、その地点を通ればインドや東南アジアを通らずに、中東の油をパキスタン経由で中国に持ち込める。すでにそのためのパイプライン建設もスタートしているとの情報もある。日本では全く報道されていないが、5年ほど前からそのような動きが始まっている。そういう意味では中国はイスラムとの対立を選ばず、共存策を選択したといってもよい。(p.48-49)
 中国は漢族の国と思いやすいけれど、旧満州といわれる東北部の地域には、昔から漢族(中国系民族)と回族(イスラム系民族)があたりまえに同居している国である。中国東北部からトルコにいたるユーラシア大陸の内陸部には、イスラム系の民族が形成するスルタン国家が途切れることなく横に連なっている。この点から言っても、中国がイスラムと手を結ぶのは必然的なことである。
   《参照》   『中国バブル経済はアメリカに勝つ』 副島隆彦 (ビジネス社) 《後編》
             【中国とイスラエル】

 

 

【トルコ】
 いま大注目なのが、・・・(中略)・・・トルコだ。かつてトルコは建国の父アタチュルクの世俗主義によって政教分離を行い、西洋化を進めた。しかし2003年にエルドアンが首相になって以降、イスラム色が強く打ち出されている。あっという間に憲法が改正され、いまでは完全なイスラム国家になってしまった。(p.106)
 トルコがいつの間にか実質的な「中東の盟主」になってしまったのだ。
 アラブだけではない、いまや欧米がいちばん頼りにしているイスラム国家もトルコである。アメリカが「トルコのEU加盟を支持する」とおべんちゃらをいいだすほどだ。つまり、イスタンブールという東西文明の真ん中にある都市をもつ国が、お色なおしをして、新興国として新しい歩みを始めたのである。(p.107)
 かつてロシアと対立関係にあったトルコは、日露戦争で勝利した日本を大いに賞賛した国であるけれど、今日のプーチンさんのロシアはトルコと対立しているのではなく、逆に世界を不安定化させてきた西洋資本の横暴から守る側になって中国と共にトルコの成長を支援しているのだろう。
 トルコ一国の様子を見ても、21世紀になって世界情勢が大きく変わっていることがわかる。なのに、日本は依然としてアメリカ経由の視点でしか世界を見ていない。日本人の世界認識はいまだに20世紀の図式に留まっている傾向がある。

 

 

【親日国・インドネシア】
 2004年にインドネシア史上発の大統領直接選挙で、現職のメガワティを破り当選したユドヨノが大統領に就任してからの5年間で、この国は大きく変わった。覇権を求めないアジアの盟主になりつつある。(p.97)
そのインドネシアで「世界で一番好きな国はどこか」というアンケート調査をすると、75%は「日本」をあげるという。2位がアメリカの30%だから、まさに断トツである。第2次大戦の最中、日本がオランダからの独立を加速させたことや、戦後いち早くODAを行い、日本企業が進出して雇用を創出したことなどが、その背景にあるという。(p.98)
 インドネシアにおいて現在活躍中の日本企業は、ホンダ、三菱自動車、ヤマハ、整髪料のマンダム、ポカリスエットの大塚製薬など。ホンダやヤマハはインドネシアのバイク市場があったから、リーマンショックの影響による落ち込みをかなり緩和できたらしい。また鹿島建設はBOT(Build Operate & Transfer)方式で進出しインドネシアに貢献している。
 インドネシアが親日国家であるのは、民族の魂のレベルにも関与している。日本人にとって遠い過去から縁の深い国なのである。
   《参照》   『告 ― 真のつくり変え ― 』 日子八千代 文芸社
             【日本の原点があったトラジャ】

 

 

【タイ】
 タイは、熟練工の忍耐力がひいでている。日本国内でしか不可能といわれていた高級カメラの製造もおこなえるほどで、ニコンの上位機種はほとんどがタイ製だ。この国に長期にわたって投資してきた日本にとってはまさに「隠れ兵器」のような存在である。(p.102)
 タイは日本車製造基地のようになっている。日本国内で日本車が100万円以下で買えるのは、タイやインドなどで安く生産可能になっているから。

 

 

【企業の社会的意義】
 企業の社会的意義が問われるのが貧困層ビジネスなのである。日本の場合、CSR(企業の社会的責任)と企業戦略は別物で、企業活動で儲けたお金を社会活動に使うのがせいぜいだが、先にあげた企業はこの二つをみごとに一致させている。このような発想をもつことこそ、新興国の貧困層をターゲットとしたビジネスで成功する要諦だといっていいだろう。(p.199)
 先にあげた企業とは、インドにおけるユニリーバと、今や世界的に有名なグラミン銀行。
 ユニリーバは、水の濾過装置を各家庭に寄付し、その後に石鹸やシャンプーを販売するのだという。
 グラミン銀行は、江戸時代の無尽講みたいなもので低利でお金を貸す方式の銀行。貪欲な欧米の金融資本にとりこまれ、後々完全支配される怖れがないということも大きなメリットである。
 こうした事例を数多く紹介しているのが、アメリカ・ミシガン大学のC・K・プラハラード教授が著した『ネクスト・マーケット』(英治出版)である。新興国向けビジネスを考えるときに大きな参考となる本で、これからBOP層のビジネスを展開したいと考える日本企業の必読書といえる。(p.200)
 BOP層とは、Bottom Of Pyramid(ピラミッドの底)、貧困層を意味する。
 富裕層をターゲットとしたビジネスより、貧困層を救済する目的のビジネスのほうが、遥かに企業の社会的意義は高いだろう。松下幸之助さんのPHP精神は、当初、後者を対象として描かれていたはずである。
 高品質な日本製品は誇らしいけれど、世界全体を救済するという点では必ずしも誇れるものではない。

 

 

<了>