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 3・11の東日本大震災が起きた直後、大前さんがインターネット上で流した動画情報が基となって編集された書籍。この本の印税は震災復興に当てられると書かれている。2011年4月初版。
 経営コンサルタントとして世界的に有名な大前さんであるけれど、その前は、MITで原子力工学の博士号を取り日立で原子炉の設計をしていた方だから、原発事故状況に関する対策が非常に具体的かつ明晰である。当時、テレビで報道されていた原発関連のニュースを見ながら、専門家と言われる学者さんたちのトロトロとした冴えないありきたりな解説にウンザリしていた人々が、この本を読めば、なんで最初から大前さんに解説してもらわなかったのか? と思うことだろう。

 

 

【福島第一原発の跡地】
 海水を入れたので廃炉にしました、これで一巻の終わり、とはいかないのだ。すべて冷やしてきれいにして、そこでようやくコンクリートで永久封印をする。それが6年くらい先の話である。こうした私の説明に政府幹部が仰天したのも、彼らは5年のスコープで物事を考えていなかったからだ。
 そして、汚染地域をどんどん縮小したあと、原子炉跡地周辺は半永久的に立ち入り禁止区域とする。どのくらいのエリアになるかは今のところ不明だが、チェルノブイリの場合に5百の村が完全に住民ゼロにされた。(p.59)
 現在の日本には、六ヶ所村の再処理施設も予約満杯で放射能廃棄物を貯留する場所がないのだという。この状況に対して、ロシアと平和条約を締結してシベリアのツンドラ地帯に廃棄物を埋設させてもらうという案を実行しないのなら、半永久的に立ち入り禁止区域とせざるをえない福島第一原発の跡地を、他の原発の放射能廃棄物までまとめて貯留する場所にするのも一案であると書かれている。
 とにかく気の毒なことだけれど、原発周辺の半径5km圏内に住んでいた人々は、もう絶対に家に戻れないのである。原発ははてもなく高くつく。

 

 

【東電の今後】
 おそらく東電は、一度は潰れるだろう。補償などあらゆる債務を負う整理会社と、事業を推進する会社に分割するしかない。そして再生したとしても、主として配電会社になるだろう。(p.100)
 東電は、原発技術の先人であるGEの傘下で良い思いをしすぎてきたけれど、GEの上に君臨する「闇の支配者」は容赦ない苛烈ぶりを発揮する連中であることなど百も承知なのだろうから、一層のこと、配電会社になるにしても有線配電ではなく、ニコラ・テスラが開発していた無線配電の技術を完成させて、日本と人類の近未来に絶大なる貢献をする覚悟をしたらどうだろうか(そんな根性があるわけないだろうけど・・・)。
   《参照》   『闇の支配者に握り潰された世界を救う技術』 ベンジャミン・フルフォード (講談社)《前編》
             【封印されたニコラ・テスラの技術】

 

 

【被災地の復興計画】
 大前さんの復興案に一部則して、政府与党は復興計画を徐々にではあるけれど進めているらしい。
 津波が襲った低地は緑地と公共の建物だけにして、高台に新しい住宅コミュニティをつくる。(p.68)
 「数百年に一回の災害だから、もう遭遇することはない」と言って同じ場所に家を建てたがる人は、復興補助対象から外して自腹で再建してもらえばいいのである。
 近未来の地球環境のことを考慮しても、「沿岸部の再建は馬鹿げている」のひと言である。
   《参照》   『フォトン・ベルトの謎』 渡邊延朗 (三五館)
             【溶け続けている南極の氷】

 

 

【消費税を財源として】
 「飲んで食べて大いに使って7%、そうして東北地方を復興しましょう」
 これで日本も元気になり、景気も良くなる。消費税が上がると皆しゅんとして景気は悪化すると思い込んでいるが、それで東北地方が復興するのであれば国民に連帯感も生まれ、元気も出る。
 そういうムードをつくることこそ、リーダーの役割ではないのか。(p.70)
 現在の日本の財政状況では、どの方法を用いてもベストやベターはたまたグッドにすらならないように思えるけれど、ワーストでなければそれで行くしかないという状態なんだろう。
   《参照》   『日本国増税倒産』 森木亮 (光文社)

 

 

【日本国民の家計所得の実状】
 ここから先は、震災とは直接関係ないことだけれど、かなりショッキングな内容である。
 誰も気づいていないことだが、実は世界の中で日本だけが20年間貧乏になり続けているのだ。 ・・・(中略)・・・ この20年間の国民全体の家計所得を見ると、日本はマイナス12%、他の先進国も似たようなものだろうとおもっているかもしれないが、フランス、イギリス、アメリカはこの間に2~2.5倍になっているのだ。新興国に至っては10倍ぐらいにもなっているから、これはもう比較の外というしかない。要するに国民全体の家計所得が正味で減ったのは先進国では日本だけ。(p.110)
 アメリカではリーマン・ショック後、クレジット社会から貯蓄社会へと舵を切り、現在は貯蓄率6%にまで上がっているという。それに対して日本は、下がり続けて僅かに2%だという。
 金融崩壊の火元であるアメリカが先に立ち直って、トバッチリの日本が立ち直っていないのには、ローンに関する法整備が違うから。
 アメリカでは、州によっては家を手放せば借金も帳消しになる、という法律があるが、日本では銀行が地獄の底まで追いかけてくる。生活者の味方をする民主党政権の第一の仕事はこういうところの解決なのではないか。しかも、こうして債務超過になっている人が、日本中で七百万人もいる、その中心が45歳の年齢層だから、いま日本の働き盛りに元気がないのも当然だ。(p.113)
 いくら「生活者優先」と言っていたって、いざ政権を取ってみれば、「官僚が天下る金融業界を守ります。借金を返せない国民は自殺してください」ということなんだろう。
 それにしても、債務超過700万人ということは、平均4人家族として2800万人の国民は “火の車” 状態下で生活していることになる。日本人の4人に1人。酷過ぎるだろう。
 ここ20年間、所得が漸減する状況下で、〈夫婦・子供・ローン〉という3つの条件に当てはまる人々の殆どは、債務超過グループに入ってしまっているのである。

 

 

【日本復興計画 : 地方に力を】
 日本が良くならないのは、官僚などの既得権者によって作成され維持されている法整備が日本の現実に合っていないからと言えるはずである。昔から耳にたこができるくらい言われていながら、何も良くなることなく20年という歳月が流れて、流れっぱなしである。
 中央政界にある人々が毅然とした英断をして実行しないのなら、せめて都構想を持つ橋下大阪市長のような現状破壊力のある人に協力するべく、地方行政への法的権限移譲に協力しないことには、何一つ始まらないし、変革の機運に弾みがつかないだろう。
 日本人自身が行政の善化を志して実現させないことには、天祐とて招きようがないのである。
 以前から大前さんが繰り返し言っているような、具体的現状変革が行われないことには、過去20年の延長継続として日本は沈み続けるだけである。
 第一ステップは、建築基準法を始めとする土地使用にまつわる中央の権限を、すべて「都」に委譲する。工業用地、農地などの指定を「都」民の判断に委ねるのである。改革を実行に移す場合、土地が自由に使えるか否かは喫緊の問題となるからだ。そして、いま投資先がみつからずに世界中に漂っているホームレスマネーを呼びこんで、自分自身の力で繁栄する。中央からの補助金を持ってくるという発想、つまり三全総的な発想はお呼びでない。(p.117)
   《参照》   『ロウアーミドルの衝撃』 大前研一 (講談社)
             【「地域国家」を繁栄させる個人】

 

<了>