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 東欧の状況を扱っているビジネス書はめったに目にしないので、珍しいタイトルを見つけて読んでみた。東欧の客観的なビジネス状況が書かれている。日本企業は思っていたより既に多く進出していた。東欧諸国のEU加盟で、域内の関税に関するデメリットが取り払われるため、東欧への世界中の企業の進出が加速している。
 表紙の地図にチェコが描かれているけれど、東欧の地政学的中心はチェコなので、物流の上から必然的にビジネスの中心もチェコになる。2005年7月初版。

 

 

【トヨタワールド】
 かつてトヨタがアメリカのミシシッピー・バレー地域に進出して200万台体制を作ったとき、日本から92社の関連部品メーカーが同地に進出した。それと同じ状況が、いま中欧で起きているのだ。(p.59)
 トヨタが進出すれば、トヨタが必要とする特殊鋼板は新日鉄しか作れないから、新日鉄という強大企業も連動して進出する。電気自動車以前の自動車は、必要とする部品の数が膨大だから、自動車産業の進出は、それ以外の産業が要する部品製造企業のインフラ整備(集積化=クラスター化)的な役割も担っていると言える。
 クラスター化という視点でならば、東欧より中国の珠海工業地帯の方が勝っているけれど、人件費の比較では東欧の方が優位だという。故に中国から部品を運び込んで東欧で組み立てるという製造形態が生ずる。
 それにしても、製造業に関わる日本人は、30年以上も前から、ドシドシと海外に進出していたという事実は、一般の日本人の認識の外なのだろう。
 企業人はいつだってパワフルなのに、日本国内に住んでいる日本人が一番ショボイ。

 

 

【チェコ】
 チェコは自動車が圧倒的に強い。(p.47)
 チェコインベストのヨゼフ・レーブ氏は、もと東京の大使館に勤務しており、大相撲の千秋楽に優勝した関取に、ボヘミアングラスでできた洋杯を渡していたこともある。(p.144)
 チャペックという小説家が、作品の中でロボットという言葉を作りました。ロボットというのはチェコ語で 『ロボタ』、 『働く』 という意味。(p.146)
 自動車が強いということは、それに必要な部品を生産する多くの企業も集積しているということである。
 小泉首相が訪れたとき、アシモもいっしょにチャペックの記念碑を訪れたという。
 チェコが昔から工業国だったことで、日本の製造業の人々にとっては、同じように製造業を真剣に考えてくれる人々だという心強さや信頼感、シンパシーがある。(p.149)

 

 

【ハンガリー】
 ハンガリーは現在まで13名のノーベル賞受賞者を出しており、これは人口比世界一だ。数学、科学、物理学を中心に基礎研究の蓄積があり、これらの分野の研究で多くの優秀な人材を輩出している。(p.52)
 コンピュータの父、ノイマンもハンガリー人である。日本からは既に100社以上が進出しているという。
 スズキの成功は、インドとハンガリーで特に顕著だ。これらの国では、現地のナンバーワン企業になって、非常に尊敬もされている。(p.79-80)
 スズキ自動車が進出していたのはインドだけではなかった! かなり以前から、スズキ自動車は、インドやハンガリーで生産した小型車を、世界中で売りまくっていたのである。
 三洋もハンガリーで電池を生産していた! 付加価値の高い日本の技術なのだから日本国内で生産しているものだとばかり思っていたら、ノキアの携帯電話に供給するために、既に東欧で生産していたのだという。
 三洋の林社長によると、ハンガリー人は勤勉であるけれどプレッシャーに弱く、チェコ人は非常に粘り強いという。(p.104)
 マジャール人は、ヨーロッパ内の民族の中では唯一、お尻に蒙古斑のできる民族である。性格まで日本人にちょっと似ている。

 

 

【ポーランド】
 もし私がもう少し若ければ、ポーランドで事業をするなら迷わず畜産加工品を手がけるだろう。ショパンを聴かせて育てた豚を 『ノクターン』 と名付けて売り出しても面白そうだ。(p.218)
 アメリカではポーリッシュ製品は価格が2倍でも美味しいからよく売れているという。スペインのイベリコ豚はドングリを食べているのをテレビで見たけれど、それより美味しいというポーリッシュ豚ちゃんは何を食べているのだろうか? 書かれていない。ポーランドには沼沢地が多いはずだから、泥まみれになって水苔でも食べているのだろうか。

 

 

【中欧3カ国の順位】
 外資誘致機関の整備度合いやオープンさでいえば、1位はチェコ、2位がポーランド、3位がハンガリーという印象を受けた。(p.243)
 この順位はあくまでの04~05年初頭版にすぎないと、但し書きされている。ハンガリーやトルコがEUに加盟した今日、これらの国々を後背地としているハンガリーの地政学的有利性は増しているし、バルト3国の発展やロシアの動向如何によってはポーランドも展開の仕方が変わる可能性がないとはいえない。
 
<了>