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 飢餓感なき状態で考えることのない安易な日々を送っていると、人はいくらでも空走し続けてしまう。滑走路の先がなくなることがわかっていても危機感すら持てなくなってしまうのである。若者に限らず日本人全体がそんな感じの日々を過ごしているように思えてならない。この本を読むと、現代の日本の状況が良くわかるし、その過程で「日本って、ほんとにヤバイよねぇ~~~」と思えてきてしまう。2009年1月初版。

 

 

【日本人の集団IQが低下した】
 私はこれまで、どんなに耳が痛いと言われようと、日本がとるべき政策を「こうすればいい」とできるだけやさしく書き表し、さまざまなアイデアを提示する努力を重ねてきた。 ・・・(中略)・・・ 。
しかし、集団としての日本人がそれを理解し、かつ受け入れてくれ、「自分も行動して、なんとかいい方向に変えていこう」という気持ちになってくれないことには話にならない。 ・・・(中略)・・・ この15年ほど、私はこのことをそれこそ肌で感じてきた。ともかく、読者は自分で考えてくれないのである。したがって、これをもって日本人の集団IQが低下したと言うのはつらいことだが、そう言わざるをえないと思う。(p.46-47)
 世界中の経営者たちや国家のリーダーたちは大前さんの意見を聞きたがり、率先して企業運営や国家政策に取り入れているのに、日本の政財界だけは、あたかも意図的に大前さんの意見を無視しているかのような状況が長いこと続いている。そして、現在の日本は、以前から大前さんが危惧していたようなドンズマリ状況となってしまっているのである。
 リーマンショックが世界を激震させた後でも、速やかに建てなおす意志を示して頑張っている国はいくらでもあるけれど、それらの国から学ぼうとする意志すら放棄してしまっているかのような状況に思える。

 

 

【東京スカイツリー】
 このように、テレビはまさにいま、時代遅れになろうとしている。それなのに、地デジ時代の象徴となる新東京タワー(東京スカイツリー)が建設されるというのだから、どうかしている。
 新東京タワーは、おそらく既存のテレビ局の滅亡を後世に伝えることになる。そして、日本の知の衰退を象徴する ”バベルの塔” となるだろう。(p.65)
 近年の若者は、テレビより携帯に費やす時間の方が長くなっているらしい。そして携帯やインターネットの活用世代は、日本のメディアが、世界の政治や経済に関して全く真実を伝えていないことなど、もう百も承知である。テレビの情報というのはアホ臭いしバカバカしいのである。
 デジタル化することでテレビはインターネットに飲み込まれるという方向に向かってゆく。テレビは情報家電へと進化することで生き残りはするだろうけれど、携帯のように個人認証の機能は持てない。デジタル・メディア機器の向かう先の将来を見れば、東京スカイツリーはまさにバベルの塔である。建物の高さと入館料の高さはピカイチだけれど、情報機能としての高さは最初から「ない」ということである。

 

 

【鱗捕集機】
 私が講義すると、多くの受講者が、「目から鱗です」と言う。 ・・・(中略)・・・ 。
 そこで私はパソコン上に「鱗捕集機」というものをつくって、「目から鱗」と思ったときは、それを集めておきなさいと指導している。そして半年後にこの「鱗捕集機」を開けてみて、「なんだ、私はこんなことに驚いていたのか」と思えば、それが進歩した証拠だと言っている。(p.140)
 この読書記録も「鱗捕集機」としての記録である。でも、時々リンクしたついでに古いのを読み返してみると、似たような鱗がけっこう沢山あって、「ぜんぜん進歩してないじゃん」と思うことがある。ドヒャ。

 

 

【日本人には資産運用を学ぶ環境がない】
 「死ぬ時の資産額」では、イタリア人がゼロならアメリカ人の資産のピークは48歳で、このあと徐々に資産を減らしていく。これは、日本人が死ぬまで資産を増やしていくのとは好対照であり、これこそがライフタイムを見据えた資産の効果的運用である。
 一方、アングロサクソンの世界では、相続税がほとんどないので、貯えたものを次の世代に受け継がせることができる。つまり、資産に関してはものすごく継続性が高い。だから、ファミリーは必死になって子供に資産運用について教え、その教えが継承されていく。(p.145)
 確かに、最初から非課税で資産をそのまま相続することが分かっていれば、若いうちからどうしようかと具体的に考えることだろう。
 相続税を廃止すれば、経済(国家財政)も良くなり、日本人の知の衰退もある程度抑止できることになる。でも日本国政府が発想するのは、ひたすら「増税」一本槍である。
   《参照》   『お金の流れが変わった!』 大前研一 (PHP新書) 《前編》
             【日本の地獄絵図】 【相続制の廃止】

 

 

【B層】
 「B層」とは、竹中平蔵経済財政担当大臣(当時)が起用した有限会社スリードという広告代理店が作成した資料にあった言葉である。 ・・・(中略)・・・ 「B層」をこう定義していた。
「小泉内閣支持基盤」「主婦&子供を中心」「シルバー層」「具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターを支持する層」
 そして、同社は「B層にフォーカスした、徹底したラーニングプロモーションが必要と考える」と提案していた。
 つまり、郵政選挙は、始めからこの「B層」という、言わば “何も考えない” “IQが低い” とされる層を狙って行われたというのである。(p.165)
 そう。大手メディアは全部この案に則して行動していた。愚民を操っての「やらせ選挙」だったのである。
 本書の主旨からは逸れるけれど、今更ながら小泉改革の舞台裏を知っておきたい方は、以下のリンクから2つほど辿ってください。
   《参照》   『ヤクザ・リセッション』 ベンジャミン・フルフォード (光文社) 《前編》
               【小泉元首相のバックグラウンド】

 

 

【考えない国民を騙す国のテクニック】
 ①看板の付け替え、②知らせない、③知らないふりをしてごまかす、という3つの手法が書かれている。
 その中の②
 この好例が公務員の退職金問題だろう。2007年から、いわゆる「団塊の世代」に属する公務員のいっせい退職が始まったが、この退職金が払えない自治体が続出した。しかし、これを住民に知らせた自治体はなかった。
 民間企業と違って、公務員は ・・・(中略)・・・ あらかじめ決まっている。したがって、何年にいくら必要かということは容易に計算できるのに、直前になるまで隠していたのである。
「ない」と言えば、「では払うな」となるからだろう。ここで彼らがやったのが、「退職手当債」を発行することだった。
 つまり、退職金を借金して払ったのだ。今後も退職する公務員は借金から退職金が払われ、その借金のつけは住民に回される。
 ちなみに退職手当債を出すことを決めた自治体は、2007年度で115市もある。 ・・・(中略)・・・ これからも爆発的に増えるだろう。(p.330-331)
 下記リンクのコメントを書いた時は、金融破綻で財源がなくなるという可能性の上で起債されたと思っていたのだけれど、無駄な工事費や人件費に財源を浪費していて最初から足りていなかったのである。働きもせず出勤すらしていないパラサイト公務員が、住民税を1人月額1万円も増税する一方で、こう言うことをしていたのである。ドン引きの恐ろしい連中である。
   《参照》   『日本国増税倒産』 森木亮 (光文社) 《後編》
             【退職手当債】

 

 

【国民総背番号制の功罪】
 いったんこの仕掛けをつくれば、結婚しようがしまいが、住所が変わろうが変わるまいが、何が起こっても国家と個人の関係は、コンピュータで一義的に定義される。
 その意味でいえば、確かにこれは、左翼や朝日新聞が主張したような「国家による国民管理システム」ではある。
 しかし、現代の情報化社会は、このような仕掛けがないと立ちゆかない、認証システムがなければ、すべての情報は機能しなくなり、システムそのものがムダになってしまう。 (p.182-183)
 アメリカでは、この様に一元化されたソーシャル・セキュリティー・ナンバーが使われている。
 脱税しているとか、タンス預金をいっぱいもっているとか、何か隠し事をしている人は、この制度を嫌がるけれど、このシステムができていると、使う方も携帯にリンクさせてすべてが簡単に処理できるようになるし、行政のサービスコストが何分の一かに圧縮できる。
 しかし、現在の日本は、警察は運転免許証、税務署は納税番号、厚生労働省は年金基礎番号、外務省はパスポートと、役所ごとに縦割りでバラバラである。