《前編》 より

 

 

【退職手当債】
 2001年4月26日、小泉内閣はスタートした。約5年半の長期政権 longtime rule の間、彼は改革、改革と叫んだが、財政改革、税制改革はまったくやらなかった。だから、官僚達は増税路線 tax hike policy を押し進め、改革という名のもとに自分たちだけが助かる方策 measures を次々に実施してきた。地方もまた同じである。
 たとえば地方債のなかには、退職手当債と称する摩訶不思議な債権 bond がある。これは定年退職 retire する公務員に退職金を支払うためだけに発行 issue されるもので、2007年には41都道府県が起債している。その総額は3302億円で、大阪市などの政令指定都市も含めると、発行総額は5900億円にも達している。
 しかも、この退職手当債の発行を2006年から10年間にわたって、総務省は許可しているのだ。
 これはありえない話である。なぜなら、その一方で増税が行われ、さらに、年金給付金などの引き下げも行われているからだ。つまり、一般国民 ordinary people のお金は勝手に巻き上げ、親方日の丸の方々の老後 post-retirement years は満額保証しましょうというのだから、あきれるしかない。(p.203-204)
 2007年に何故こんなことが行われていたのか、その理由を推測するなら二つ考えられる。
 一つは、2008年に国債の満期償還が集中し、債権クラッシュ(破産)を起こす可能性があったから。そして、もう一つは、アメリカの債権で運用されている公務員の年金運用が、2012年2月の償還期限までに計画的に元本割れ条件を満たし消失させられることを知っている(アメリカの犬となっている)官僚たちが、自己防衛措置として行ったのだろう。
   《参照》   『ドル亡き後の世界』 副島隆彦 (祥伝社) 《前編》
             【償還期限】

 2012年2月23日に償還期限を迎える金融商品は、明らかにアメリカの借金踏み倒しという確信犯罪計画であるけれど、世界中にバラ撒かれているが故に、アメリカ対全世界という対立構造の中で、現在も駆け引きが続いているのである。アメリカの独善(借金踏み倒しのためのドル暴落)を制することさえ出来れば、世界中の諸国は安泰というわけでもない。それぞれに深刻な経済問題を抱えているのだから。
 ところで、小泉改革の本質は、IMFによって作成された 「ネバダレポート」 に基づいた日本の破産処理政策だった。しかし、官僚達によって都合のいいように骨抜きにされ、その結果、国民だけが痛みを被るように仕組まれてしまったのである。

 

 

【財政赤字の本質】
 現在もなお進展 advance しているグローバリゼーションの本質 key element of globalization は 「国民と国家」 の解体プロセスと理解できる。
 しかるに、日本はこの流れに逆らい、国民と国家が一体となった旧来のシステムを維持しようとして、莫大なコストを積み上げている。これが巨額の財政赤字の本質だ。(p.218-219)

 

 

【企業規模による所得格差】
 企業規模1000人以上の大企業では(平均生涯賃金が)3億2000万円に達するのに、10~99人の企業では2億3000万円にとどまっている。この9000万円の差が、大企業と中小企業の所得格差ということになる。(p.225)
 これも基本的には、グローバル化した経済状況の中で、法人税率の国境を越えて活動できる大企業と、それがままならない中小企業との差によって生じているといえるだろう。

 

 

【雇用形態による所得格差】
 正社員の平均年収が454万円なのに対し、非正規雇用はパートタイム111万円、派遣社員204万円、契約社員・嘱託250万円である。これは、結婚して家を買って、子どもを産んで育てるという将来設計が可能になる年収ではない。・・・(中略)・・・。正社員と非正社員の生涯賃金格差は1億6000万円に達するという。(p.226)
   《参照》   『新しい世界観を求めて』 佐高信・寺島実郎 (毎日新聞社) 《前編》
             【現状を見る視点】

 こういった格差は、新興国の躍進によって必然的に先進国に起きることなのである。人口的にも面積的にも地球の多くの割合を占めるBRICs諸国が、近年、一挙に新興国となっているのだから、先進国は一挙にその影響を被らざるを得ないのである。
 多くの国の労働者がグローバル経済に参加すれば、賃金は当然フラット化する。すなわち、先進国労働者の賃金は下がり、新興国労働者の賃金は上がる。
 これは、労働力ばかりではない。世界はフラット化に向かっているのだから、物価も同じである。(p.230-231)
   《参照》   『世界同時不況がすでに始まっている』 榊原英資 (アスコム)
             【日本のデフレ状況】

 

 

【日本の家庭の貯蓄率】
 いま日本の殆どの家庭が 「貯蓄率ゼロ」 である。(p.226)
 所得格差の下辺側の家庭は、当然ゼロだろう。下辺側でなくとも、政府に騙されて90年代前半に住宅ローンをくんだ人々の実質的な貯蓄はマイナスの筈である。
   《参照》   『質問する力』  大前研一 文芸春秋
            【バブル崩壊後に住宅を購入した人々の悲哀】

 しかしながら、貯蓄がないからといって、例えば車検代金や自賠責を節約して無車検・無保険の車に乗っているのが発覚すると、検察庁によって起訴され、略式裁判によって罰金として35万円も取られるのである。
 年収200万以下で家計を切り盛りしている庶民にとって、2年に1回とは言え10~15万円の車検代がどの程度重い負担になっているのか実状が分かっていない公務員(検事)は、庶民に 「死ね」 と言っているようなものである。あるいは 「死にたくないなら、1日5千円換算で70日間、豚箱(拘置所)に入れ」 と言うのである。なぜ70日間かというと、起訴されてから正式に法廷が開かれ結審するまで、法的に許容される最長日数が70日程だからである。
 庶民にとって、法務を自在に操る警察・検札公務員はまさに “狂気の凶器” である。

 

 

《比較参照図書》
 本書は、言うまでもなく、増税や国債発行に反対する内容であるけれど、経済に関しては多様な意見があるので、それをリンクさせておく。
 国債発行論者の著作。
   《参照》   『世界同時不況がすでに始まっている』 榊原英資 (アスコム)
              【格差社会対策】
 増税論者の著作。
   《参照》   『アメリカの不運、日本の不幸』 中西輝政 (幻冬舎) 《前編》
              【ミッテランの事例】

 

<了>