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 著者は、 『大英帝国衰亡史』 のような労作を幾つも書いてくださっている京都大学の先生。欧米国家の盛衰史を読みたいのなら、著者の書籍が一番相応しいだろう。この書籍の後半には、米国史のポイントと国民性・文化性の根拠がコンパクトに記述されている。
 読者対象として若者を想定して編集されているのだろう。活字量をかなり減らし、しかもポイント部分はわかりやすい赤字で構成されている。2010年7月初版。

 

 

【民主主義とは公約を守る政治ではない】
 民主主義とは、単純に公約を守る政治ではなく、現実を見てほんとうに国民のためになる政治をするシステムなのだということが、この国では、政治家にも国民にもわかっていないのである。(p.37)
 日本の民主党の幼稚さを指摘しているのである。
 かつては万年野党だったから、与党自民党に対して反対のことばかり言っていればよかった。しかし与党となれば、公約の前に現実が立ちはだかる。民主党内の幼稚な若手議員とマスコミに “公約違反ではないか” と突き上げられて行政が殆んど止まったままの状態が続いている。
 それでも、ほんの少し前まで自民党の影の総理といわれていた与謝野さんを大臣にして消費税を上げようとしているのならば、幼稚な政治家集団なりに唯一期待できる最上の人事であり行政であるといえるだろう。消費税を上げた内閣は、ドン底の支持率になるのが、かつての事例であり、それは宿命である。既に民主党は死体内閣で何もできないことなど国民は承知なのだから、損な役回りに徹して消費税を上げて最低・最悪の内閣という評価を得るという結果に腹を括って、自民党に政権を返還することが、この国にとっては一番いいのだろう。
 予算をばら撒いてばかりで、税収を確保しなければ、本当に此の国はデフォールトしてしまう。既に日本の国家財政は抜き差しならない危険領域に入ってしまっているのである。こんな状態で民意におもねってばかりいたら、かつてのフランスの轍を踏むことになってしまう。

 

 

【ミッテランの事例】
 当初ミッテランは、大組織である社会党の言いなりになって、マニフェストを守ろうとした。しかし、半年後、フランス経済は破綻した。株価は急速に下がり、外貨も流出し始め、企業税や法人税を課されたフランス企業までも海外に逃げ出して、ロンドンやフランクフルトに拠点を移した。(p.39)
 民主党は、ミッテラン政権下のフランスと同じ事をしかねない。
 その結果、通貨フランは20%以上も下落し、一時、フランスの国際収支にまで不安が広がったのである。
 窮したミッテランは、そこで、大きな決断をするのである。彼は、何十年も彼に仕えてきた側近の政治家をあえて更迭し、思い切って現実路線にポイントを切り替えたのである。(p.39)
 ミッテラン政権で悪役を演じたのはドロールという人だった。与謝野さんに相当するのだろう。
 「公約を守るか、国家を守るか」 という言葉は、名文句として語り草になったのである。もちろん大多数の国民は、この 「変節」 を大拍手で歓迎した。(p.39-40)
 日本国民は、歓迎まではしないまでも増税に反対するほど愚かではないだろう。最も愚かなのは、馬鹿の一つ覚えみたいに 「公約遵守」 ばかり言っていて、現実を見て考える頭のない無教養な民主党議員とそれを煽るマスコミである。

 

 

【対中国の現実】
 憲法改正など必要不可欠な手立ても講じることなく、現状のままで安易に対米自立をやろうとすれば、それは、「対米従属」 が 「対中従属」 になるだけ、という結果を生むことになる。対中従属が、日本という国家をどれだけ危うくすることになるのか。それは火を見るよりもあきらかだ。(p.62)
 この書籍は、日米を主体に記述しているので、中国の危険性についてその根拠を記述している箇所はない。だからその代わりに、以下の書籍をリンクさせておく。
      《参照》  『驕れる中国 悪夢の履歴書』 黄文雄 (福昌堂)
 天皇陛下と習副主席との会見が決定されたまさにその日、小沢一郎は640人もの訪中団を率いて中国に旅立ち、一人ひとりと挨拶する胡錦濤主席の姿を満面の笑みで見守った。これぞ、朝貢外交以外のなにものでもない。
 小沢氏のこの一連の動きによって、世界は、日本が日米同盟から日中同盟へとチェンジしようとしていると見始めた。鳩山政権は、そんなことには一切おかまいなしに、どんな無理をしても中国の強硬な要請を受け入れることが、「日中友好を強固なものにする」 と考えていたのだろう。困ったことは、それが国策にかなうと信じている愚かさである。(p.72-73)

 

 

【始まっているアメリカの 「失われた10年」 】
 膨大な税金をつぎ込んでいるのだから、リーマンショックから一瞬 「立ち直った」 という錯覚をもたらすことだろう。しかし必ず 「二番底」 が来るだろう。かつての日本同様、不良債権の処理は進まないからだ。今、アメリカの 「失われた10年」 が始まっているのである。
 この危機は、短く見ても10年は続くだろう。その後ようやくしにして、アメリカもイギリスも、市場原理のみの経済から、大多数の国民のために政策が機能する実質的な 「混合経済」 を志向し、もう一度中産階級の層を厚くしないかぎり再度立ち上がることはできないことに気づくだろう。(p.166-167)
 金融資本主義は破綻したのである。そのつけを背負いながら世界は、やりくりしなくてはならないのである。二番底は今年2011年か、遅くとも来年2012年には必ずおとずれる。