イメージ 1

 副島隆彦さんの著作のように、対立軸をもって世界経済を見るという面白さや、ホットな情報はない。あくまでもマクロな視点で世界全体の経済状況を説明している。2010年12月初版。

 

 

【アメリカの失業率】
 アメリカの失業率はおよそ9.6%で横ばいですが、これは就職先を探しているのに見つからない人の割合です。実はこの数字の裏には隠された失業があり、さんざん職を探したがダメで諦めてしまったという人がいますから、潜在的な失業率は20%近いでしょう。5人に1人が失業または失業に近い状態では、賃金の伸びは抑えられたままになりますから、個人消費の低迷が長引きます。(p.51)
   《参照》   『連鎖する大暴落』 副島隆彦 (徳間書店)
               【アメリカの家なき人々】

 

 

【バランスシート不況】
 カンフル剤がいつまで持つだろうかという雰囲気が強まっています。オバマ政権への 「期待」 が 「失望」 に代わり、さらに誰がやっても大して効果はなさそうだという 「絶望」 が広がりつつあります。実際、もう誰が大統領で、民主党・共和党のどちらが与党でも、事態はあまり変わらないでしょう。(p.54)
 カンフル剤とは、2010年11月上旬に発表された6000億ドルの国債発行のこと。
 というのは世界同時不況の根本的な問題がフローではなくストックの問題であり、起こっている事態がバランスシート不況だからです。(p.54)
 バランスシート不況とは、連邦政府、州政府、金融機関、事業会社、個人などが押し並べて赤字になっているが故の不況ということ。アメリカ政府は、無制限にドルを印刷して供給・補填することで終わりの時を延期してきたけれど、この崩れたバランスは、ドルを供給すれば簡単に直るというものではない。
 アメリカもおそらく 「失われた10年」 が続くであろうと思います。すでにアメリカはその局面に、構造的に入ってきています。(p.55)
 下記の著作のように、恐慌という表現は使っていないけれど、急激に降下しなければ、長い下り坂を長期間費やして下り続けるのである。
   《参照》   『すでに世界は恐慌に突入した』 船井幸雄・朝倉慶 ビジネス社 《前編》

 

 

【ヨーロッパの構造的な不況】
 拡大したEUを世界金融危機が直撃した結果、周辺諸国から経済が悪くなり、それが中心的な国にまで影響を与えはじめたのです。
 EU域内の経済大国と小国、貸し手国と借り手国、工業国と農業国といった格差、対立、矛盾も大きくなる一方です。(p.20)
 具体例としては、「勤勉とは言えない公務員的社会構造のギリシャ経済危機を救済するために、真面目に働いてきたドイツ人が、そんな国を助けるためにドイツの金を使うのは許さない!」 というような反発事例がいくつも起こっている。
 通貨が統合されれば、域内の経済が活性化し、それによって域内の国々もまとまるだろうと考えたら、実際は逆だった。日本国内での事例に譬えるのは相応しくないかもしれないけれど、新幹線が開通すれば地方が活性化すると考えたのに、実際は中央の権限が強化されて地方は疲弊したというのと似たような状況だろう。
 しかし、EU域内で中心的役割を担っているドイツのような国が匙を投げたがっている。言語も民族も違う国々なのだから、事態はそうそう甘くない。
 解体とまでは言わないまでも、統合のプロセスがいわば逆回転しはじめたというのが現状でしょう。
 ・・・(中略)・・・ 
 ですからヨーロッパ経済の落ち込みも、アメリカ同様に、「失われた10年」 になる恐れが、非常に強いと思います。(p.72)

 

 

【中国の懸念材料3つ】
 輸出依存度の高さ、バブル経済、そして格差社会、であると書かれている。
 懸念材料の一つは、輸出依存度が高いことです。 ・・・(中略)・・・ 36.6%。これは、人口規模が億を超える大国では、例を見ない高い数字なのです。(p.77)
 この3つの懸念材料は、それぞれ相関関係にある。
 因みに、ドイツ47.5%、イギリス28.1%、フランス26.6%、インド24.1%、日本17.4%、アメリカ12.6%、韓国54.8%、都市国家のようなシンガポールは231.2%、香港は212.5%、となっている。
 中国の輸出依存度の高さを逆に解釈すれば、シンガポールや香港のような都市経済による国家経済牽引形態になっているということだろう。故に国内格差は強まり、富裕層によるモットモットの資産運用はバブル化を引き起こす。

 

 

【中国とインドは、世界同時不況を食い止められるか】
 結論から言えば、中国とインドも、欧米に引きずられて一緒に沈んでいくでしょう。
 ただし、その沈み方は他の先進国よりは少ないでしょう。たとえば、中国の成長率が10%から8%前後になる。あるいはインドの成長率が9%から7%前後になる。そのような状況になるだろうと、私は見ています。(p.96-97)
 なら、「沈む」 とは書かずに、「減速する」 と書けばいいでしょうに。
 中国がようやく日本を上回った程度の経済力では、欧米が失速すれば引きずられてしまう。とても世界同時不況を食い止める力はない。(p.106)

 

 

【日本は円高を受け入れる政策へ】
 かつてルービン米財務長官が 「強いドルはアメリカの国益である」 と言いましたが、そろそろ日本の財務大臣が 「強い円は日本の国益である」 と言う必要がある時代に入りつつあるのかもしれません。そう宣言すれば、国として円高を受け入れる政策への大転換です。(p.135)
 円高=不況というマスコミの好きな図式は、物事の片面しか見ていないという指摘は、様々な人々によって語られている。円高で儲かっている企業だってたくさんあるのが事実なのだし、世界的な経済状況から円高の趨勢ははっきりしているのだから、著者がいうようにポジティブな視点での認識と政策に切り替えるべきだろう。

 

 

【日本のデフレ状況】
 日本と、中国をはじめとする東アジアの市場統合が進むと、中国と日本の価格や賃金が穏やかに収斂していきます。すると、日本の物価は下がり、中国の物価は上がります。日本の賃金は下がり、中国の賃金は上がります。(p.36)
 中国特需と言われて景気がよさそうなことを言っていた時期もあるけれど、良かったのは中国に輸出している大企業だけで、それ以外の企業で働く人々の賃金は下がっていた。何故そうだったのかという疑問に対するマクロな原因はここに書かれている通りである。
            【実質賃金が下落している国】
 アメリカ型経済に巻き込まれたからというだけではなく、中国の経済発展もまた、日本を格差社会へと移行させる大きな原因となっているのである。
 デフレの本質的原因は、通貨供給量ではなく、BRICs諸国などの経済発展による市場参入によっているのだから、インフレターゲット政策と言うのは本質的に意味をなさない。

 

 

【デフレ時代の心得】
 デフレ時代に心得ておかなければならないことを、榊原さんは、最後に書いてくれている。
 借金して株式や不動産を買い、値上がり分から借金を返してなお利益を得るというやり方は、デフレ時代にはうまくいきません。日本人はみんな、このことを肝に銘じておくべきです。(p.222)
 中国人のお金持ちあたりは、世界中の市場でこんなことをやりそうな気がする。勿論、日本人でも知力より欲が勝った人はやることだろう。

 

 

【格差社会対策】
 世界経済の構造的な要因ゆえに、日本も格差社会へと引きずられてゆくのであり、これは明らかに不可逆過程である。大家族は激減し、地域共同体も疲弊し、協働共同体となっていた企業も、社員の生涯保障をまっとうすることは困難になっている。だから、生活できなくなる人々を政府が面倒みなければならないのは必然である。
 フランス型の大きな政府によって所得再配分に力を注ぎ、低所得者層を底上げすることで、格差を縮小しなければなりません。(p.167)
 では、その場合の財源は? ということで、長期的には消費税の増税によるのは当然として、短期的な方法として国債発行策を語っている。
 金融資産の正味残高は1080兆円弱。国債残高との差は200兆円ほどで、50兆円ずつ4年間発行しても、カネ余り状況ですから、国内マーケットには吸収する力が十分あります。(p.169)
 榊原さんは以前からこのような案を語っている。この案に対する懸念意見は、下記。
   《参照》   『すでに世界は恐慌に突入した』 船井幸雄・朝倉慶 ビジネス社 《後編》
              【日本政府の国債大量発行】

 これらの懸念意見を承知の上で榊原さんが考えているのは、以下の点だろう。
 世界同時不況に立ち向かうために、財政再建はしばらく棚上げにして、国債発行による大型予算を組み、成長への舵を切るべきだというのが私の考えです。それと同時に、フランス型の高福祉政策を実現していくのです。(p.169-170)
 民主党議員は、各省庁の課長クラスで議員になった人々ばかりだから、大局的な視点で有効な政策を提言することも推進することもできない、と榊原さんは書いている。
 与党になった民主党って、大きなことを何かやっただろうか。何もできていないだろう。小沢さんを追い出すことだけに一生懸命で、国政はぜんぜん動いていない。この点に関して、際立って印象的な政府である。

 

 
<了>