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 ITによって近年急速に発展を始めたインド。インドは、IT産業が先行して、インフラ整備と製造業がその後を追うという、人類史上前例のない経済発展過程を辿っている。この本は、2005年11月出版。


【中国とインド】
 中国とインドは領土問題で戦争までした関係ですが、2005年の春、温家宝首相が訪印して友好的に話し合っています。 (p.14)
 軍事的なことばかり語りたがる人々は、こういった事実を決して語らない。中国の将来を楽観視は出来ないけれど、この事実は抑えておかなければならない。

 

 

【日本とインド、システムコストの差】
 新生銀行が誕生したとき、・・(中略)・・そのシステムのオペレーションは、インドのアイフレックスという会社にアウトソースしました。・・(中略)・・。新生銀行のシステムコストは、同じサイズの銀行の10分の1になったそうですよ。
 日本国内で、外資に買収された生命保険、損害保険などの金融関連会社のシステム開発には、殆どインド人技術者が関係している。これらの会社は、既存のメインフレームによるシステムから、徐々にパソコン専用のオンラインシステムに移行してゆく。急速に移行しないのは、既存のシステムの内容を把握している日本のIT業者が、既得権益を守っているからである。
 インド人の秀でた知性によるIT技術力も、日本的慣行の中にあっては、なかなかドラマチックな効果としては発揮されない。

 

 

【インドはITだけではない】
 じつはインドで強いのはITだけではありません。医療のレベルが非常に高くて、世界中から患者を集めているとも聞きます。 (p.97)
 インドの医療費は、アメリカと比べてほぼ10分の1だという。技術的にもまったく遜色がないという。
 日本で開業している医師の中には、帰化して日本人となっている人を含めると、台湾人が多いという。これは、日本統治時代、台湾の衛生環境を改善した日本人の努力を見て、台湾人の子弟たちが日本に行って医者を目指したからだという。
 しかし、近年の台湾の若者の多くは、日本よりアメリカを留学先に選択している。目的は医療ではなくITである。そのために、今日の台湾IT業界は世界的に高度な技術力を持つに至っている。アメリカでは、ITとは、インドと台湾のことである、というジョークが語られているほどである。

 

 

【インドと中国の比較】
 欧米からみると、「決定が遅いインド」 と見えるらしい。中国は何事につけても決定が早い。これは権力が集中しているからなんです。
 もう一つ、これも中国と対照的なのですが、官僚による規制がかなり厳しい。かつて植民地支配をしていたイギリスが、きちんとした官僚制度を作った名残です。ただ規制は厳格だけれど、汚職は少ない。中国はやはり汚職が多いですよね。 (p.102-103)
 日本も明治維新以降、イギリスの諸制度を手本にしているから、インドと日本は似ている。

 

 

【カースト制度の問題】
 「現在は憲法で禁止されていて、公式の差別はありません。企業で働いている人がどのカーストかは、企業は知りませんよ」
 「(履歴書には)書かないです。ただ、結婚するときにはカーストはこえられないといったことはあるそうです」
 スズキ自動車が工場内でインド人労働者のカースト問題に苦慮していた内容の本を読んだことがあったけれど、スズキ自動車がインドに工場を設立したのは1982年だった。インドの憲法が変わったのは何時なのか具体的には記述されていないが、現在はそういった心配は不要になっているのだろう。
 論理的思考力に秀でたインド人は、法律分野でも世界的に大活躍するはずである。インドの官僚なら、日本の官僚のように時代にそぐわない法律規制を、何時までも続けるような愚は犯さないはずである。

 

 

【アジアの中産階級に日本文化が好まれる訳】
 西欧で発達したオペラとかクラシックは、上流階級やエリート向きに磨き上げられてきた文化なのでしょうが、日本の江戸時代以降に発達した歌舞伎、浮世絵、それに現代のアニメやマンガ、テレビドラマは、いずれも大衆文化の中で発達してきたものです。あまり夜郎自大に日本を持ち上げるわけではないのですが、アジアの中産階級には、庶民的で完成度の高い日本の大衆文化が好まれるんですね。 (p.137)
 日本の大衆芸術は、世界の中で最も “完成度の高い文化” である。その根拠は日本語にある。繊細な日本語を話す民族には、最初から繊細な芸術が存在していたのである。 
 西洋と東洋の芸術については、下記リンクの中で書いている。
 
 
<了>