イメージ 1

 こういうマイナスなタイトルは遠慮していただきたいけれど、これも著者の日本に対する愛国心なのだろう。危機意識を喚起して、日本よ、対策を立てよ! という叫びである。2007年12月30日初版。

 

 

【技術者を軽視する日本】
 大阪大学大学院の松繁寿和教授がある国立大学の文系学部と理系学部の卒業生を対象に行った調査によれば、生涯賃金をシュミレーションすると、同じ大学でも理系の生涯所得は文系より5千万円少ないという結果が出たそうです。 (p.47)
 50年働くとして、年収で100万円も少ないことになる。ウッソ~と思うけれど、これでは技術大国・日本が保てるわけはない。イタリアと比較しても日本の技術者待遇はひどいものである。
  《参照》   『伝統の逆襲』  奥山清行  祥伝社  《前編》
           【冷遇されている日本の職人たち】
           【尊敬と厚遇を受けているカロツェリアのマエストロたち】

 

 

【韓国:サムスンの手法】
 韓国のサムスングループのオーナー会長、李健煕は 「一人の天才が10万人を養う」 と述べ、グループ各社の経営者たちに優秀な研究者の確保を要請しています。それも 「社長を上回る年俸を出すに相応しい人材を探せ」 というのだから驚きます。(p.50)
 東芝の技術者は日本での年俸の3倍と高級マンションの用意を提示され、かなりの人数が引き抜かれたそうである。この手法で、世界中から優秀な技術者を掻き集めたサムスンの2006年度のアメリカでの特許取得件数は、IBMに続き第2位になっている (p.66) という。
  《参照》  『アジアの行方』 長谷川慶太郎 (実業之日本社)
           【サムスンの研究施設】
  《参照》  『韓国財閥解体』 佐桑徹  日刊工業新聞社
           【三星(サムソン)財閥】
  《参照》  『日本力』  伊藤洋一  講談社
           【IMF後の韓国の実態】

 

 

【台湾:受託生産(EMS)企業の実力】
 2007年度の生産台数ベースでの台湾企業の世界シェアは、ノートパソコンで80%以上、デジカメ40%以上、液晶テレビは20%以上、携帯電話は10%以上あります。
 部品となると液晶パネルの40%以上を供給しています。
 話題のアップルの ipod は、鴻海精密工業と、英業達、華碩電脳の3社が受託生産を行いました。プレステ3は華碩電脳、任天堂 Wii を鴻海精密工業系列の鴻準精密工業が担当しています。
 半導体分野では世界一が台湾積体電路製造(TSMC)、2位が聯華電子(UMC)なのです。
 パソコン最大手で世界でも第4位の宏碁(エイサー)が世界8位のアメリカのゲートウェイを買収することが発表されました。 (p.60-61)
 ブランド名に現れない領域で活躍している台湾企業の強さは並ではない。最近は、EMSで培った強みを活かして、3万円台のPCを日本で売り出し、日本のパソコンメーカーを絶句させている。
   《参照》   『知られざる技術大国 イスラエルの頭脳』 川西剛  祥伝社
             【台湾企業 TSMC と WSMC 】

 

 

【日本の自動車メーカーは技術力の上に胡坐はかけない】
 07年には新興自動車メーカーの奇瑞汽車がイランに独自ブランドの小型乗用車 「QQ6」 の大型工場を建設、08年から20万代を生産する予定と報じられました。(p.75)
 かつて日本の自動車メーカーは、アメリカ市場で低品質低価格でシェアをとりつつ技術力を蓄積してきた経緯がある。同様な手法で韓国のヒョンデや中国の自動車メーカーは、世界中の広大な市場を占拠しつつ迫ってくるという。
 しかし、中国のイラン進出は石油の安全保障とタイアップしたものであり、日本のメーカーは、脱石油へと技術をシフトさせている。ローテク石油からハイテク電気への移行は、自動車がパソコン化するような異業種技術である。石油を渇望せざるを得ない中国は、意外にも無駄な技術投資を経由することになるのではないだろうか。

 

 

【インドIT企業のボードメンバーになってわかったこと】
 プレムジは80年代から90年代にかけて会社を急成長させました。
 プレムジはとても合理的な考え方をする人で、生活も驚くほど堅実です。・・・中略・・・。
 プレムジも年に2回くらいは日本に来るのですか、普通は本社のトップが来たとなれば、現地子会社から誰かしら空港に迎えに行くものです。しかし、プレムジは、社員が迎えに来ていると怒るのです。
「そんな無駄な事をしている暇があるなら仕事をしろ」 というわけです。・・・中略・・・。
 一方でプレムジは財団も作っていて、そこで様々な慈善事業、たとえば恵まれない人たちのための初等教育などの活動を行っています。・・・中略・・・。
 いずれにしてもプレムジは、会社が少しうまくいったからといって六本木ヒルズの高価な部屋に住み遊び歩いている日本のIT企業家たちとは、メンタリティーがまったく違います。
 私は彼のそういうところが好きなのです。(p.81-83)
 日本にも、プレムジさんと同じ企業経営者が、いることはいる。
  《参照》   『日本IBM』 竹中誉  経済界
           【ヘッダーシップではなくリーダーシップ】

 著者は、プレムジさんのような企業家や、国家(公)に仕えることを真に望む公務員が、日本には少なくなっていることを危惧してもいるようだ。 「金を儲けてどこが悪い」 と平気でのたまい、私欲ために財を用いる経営者や、ただただ公権力を欲する無能な公務員の存在。こういったモラルと能力と品位の低下は、確かに日本全体の国力を低下させている。
 志の低い人間が公的な業務に関わると、多くの害が生じます。社会保険庁の問題に見るように、弱くて能力の低い官は、能力があって強すぎる官よりもむしろ害が大きいことが、次第に明らかになりつつあります。(p.156)
 道路公団の腐敗あたりから始まった天下り規制のために、真に有能な人材の官民交流ができなくなっており、志の高い人材が働けなくなっている、とも書かれている。天下り規制を撤廃して、「行為規制」 で官民の交流を活発にすべきである (p.246) と。

 

<後編> へ