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 あとがきの最後に、“日本が新たな繁栄モデルを獲得したとき、筆者は「最高の反面教師」たる韓国に、心の底から感謝をささげるつもりである。(p.222)”と書かれているように、韓国経済を観察することで、日本が取るべき道を考察している書籍である。
 国際経済をきちんと学びたい学生さんにとっても、分かりやすく説明してくれているので、理論倒れで死んだ魚みたいにつまんない教科書なんかより、実例から学べるはるかに優れた書籍となることだろう。2011年3月初版。

 

 

【実質賃金が下落している国】
 09年の実質賃金のマイナス幅がアイスランドに次いで大きかった国は、果たしてどこだろうか。「日本ではないか?」と思われた方も多いと思うが、正解は韓国である。
 ・・・(中略)・・・ サムスン電子や現代自動車などの「グローバル市場における躍進」が大々的に報道されている韓国において、実質賃金が日本を上回るほどの速度で下落を続けている。(p.21)
 グローバル化が進むと否が応でも世界の平準化に巻き込まれるため、先進国は押しなべて賃金低下の趨勢に晒されることになる。しかし、日本は外需割合が10%程度だけれど、内需規模が大きくない韓国は43%にも達しているため、グローバル化の影響をもろに被ることになる。サムスンやヒョンデがどんなに世界に進出し、大きなシェアを取っていても、その利益が韓国国民を豊かにできないのは、アメリカ型グローバリズムに倣っているからなのである。
 IMF管理以降、韓国経済は、それ以前の日本型からアメリカ型へと急速にシフトしていった。韓国の主要企業は、今やアメリカの先兵のような役割として世界に進出しているけれど、それがどんな結果を生むかアメリカの事例から推測することができるだろう。

 

 

【関連産業一極支配の先にあるもの】
 GMが石油会社やタイヤメーカーと組み、アメリカの鉄道文化を「消滅」させてしまった歴史は意外に知られていない。今では信じられないかもしれないが、1930年代までのアメリカは、現在の日本並みの「鉄道王国」だったのだ。特に都市部に住む人々は、主に路面電車で通勤していた。(p.37)
 人間一人を運ぶのに必要な自動車と電車のエネルギー効率比は9:1。今日のように環境問題が喧伝されていない20世紀序盤はエネルギー効率よりも、石油燃料をたくさん消費する交通機関の方が企業にとっては収益が大きくメリットがあった。
 そもそも、19世紀末は車の動力源が電気・石油・蒸気にいずれになるか定まっていない状態だったのだけれど、石油を支配したロックフェラー一族が、自動車をはじめとする巨大な石油関連産業を横串的に連結構成してアメリカの基幹エネルギーを石油とするスタンダードをつくってしまったのである。
   《参照》   『青い血族 ロックフェラー財閥の野望』 ギル・リービル メディア・ファクトリー
             【スタンダード・トラスト】

 「GMにとってよいことは、アメリカにとってよいことだ」と言っていた企業も、2009年に総額約16兆円とういう史上最大の負債総額で倒産という憂き目にあった。著者はこのようなGMの事例を、規制緩和が過ぎるとかえって国民に大きな負担を及ぼすことになる、という意味で記述している。
 韓国のサムスン・グループがGMのような轍を踏まないという保証はない。今日GMが復活しているとは言っても、アメリカ社会の格差化は一層進行しているのである。

 

 

【アメリカの医療・製薬・保険業界】
 日本の医療費対消費総額比率が4%程度であるのに対し、アメリカはなんと16.7%(09年)である。医療費の消費全体に占める割合が10%を上回っているのは、先進国ではアメリカだけだ。(p.47)
 アメリカの医療費高騰の最大の原因は、何といっても訴訟社会であること、そして薬価規制がないこと。青天井!なのである。
 何しろ、アメリカは先進国の中で唯一、薬価規制がない国なのだ。その結果、製薬会社は薬価を思うがままに吊り上げている。過誤を怖れる医師の過度な医療も、製薬会社の利益に大きく貢献していることは言うまでもない。(p.54)
 アメリカの保険会社は、支払いリスクを低減させるために、加入者に対して様々な書類の提出を要求するので、個人が保険に加入しようとすると恐ろしく面度な手続きが必要になる。
   《参照》   『ザッツ・ア・グッド・クエッション!』 譚璐美 日本経済新聞社
             【アメリカの保険制度】

 アメリカの保険業界は、格差社会が進展し保険加入者の母数が減る傾向からも保険額が高騰せざるを得ないという悪循環に入っている。オバマ大統領の国民皆保険に関する政策も、結局のところ株主利益最大を企業目的とする保険企業の思惑から出ていないらしい。
   《参照》   『姿なき占領』 本山美彦 (ビジネス社)
             【医療保険の民営化論】

 

 

【市場独占の果報】
 韓国は、IMF管理以降、ビック・ディールによる企業統合を行っているけれど、それによって生じるマイナス面について。
   《参照》   『トンデモ! 韓国経済 入門』 三橋貴明 (PHP) 《前編》
             【IMF管理下で行われたビッグ・ディール】
 ウォルマートの例を思い出してほしいのだが、政治力や市場独占によって一部の企業が高収益をあげていたとき、多くのケースで損をしているのは「消費者(国民)」だ。
 すなわち、韓国国民が一部企業の政治力や市場独占により「損」をさせられていた場合、新聞紙上などで、
「わが国のサムスン電子は、日本の同業者のすべてを合わせたものより巨額の利益を達成している!」
 などと誇らしげに報道するのは、滑稽極まりないということになる、何しろその利益の分だけ損をしているのは、韓国国民自身である可能性が極めて高いからだ。(p.75)
   《参照》   『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』 本山美彦 (ビジネス社)
             【ウォルマートの従業員状況】

 日本に来ていた韓国人が、「サムスンのPCは、外国より国内で販売する価格の方が遥かに高い」と言って怒っていたのを思い出す。「例え独占企業であっても、国を代表する自国企業なのだから国民のことを考えるはず」、というのは極めて甘い考えなのである。そもそも自国民の本質的な民族性は、韓国人自身が一番よく知っているはずである。