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 著者の本籍は中国広東省であるけれど、東京生まれの方。米銀勤務の日本人の夫と共にニューヨーク在住中に書かれたエッセイが大半を占めている。著者の国際的な人脈の広さは相当なものであるらしい。2001年2月初版。

 

 

【ザッツ・ア・グッド・クエッション!】
 気をつけて観察すると、欧米人の会話にはのべつ幕なしにこのフレーズが登場して、次の言葉を用意するまでの絶妙の ”間” をとっているのである。こんな便利な常套句を放っておく手はない。どんどん使いまくろう。 (p.11)
 日本人が苦手とするパーティーなどでの、このフレーズの使い方が具体的かつ詳細に記述されている。

 

 

【海外在住の日本人の数】
 近年、海外に住む日本人はうなぎのぼりで、2000年現在、すでに45万人が世界各国で暮らしているという。(p.19)
 2009年現在、60万人は優に超えているはず。80万人に近いのでは・・・。「国際性」 と並んで 「日本文化」 を意識しない教育は、ほぼ意味を成さない時代遅れと言えるのではないだろうか。

 

 

【死神ローン】
 「返済無用のローン」 とは、あまり聞きなれない話だが、欧米にはかなり以前からあるものらしい。やり方はこうだ。
 たとえば、一人暮らしで収入もない老人が銀行から30年(!)契約で金を借り、元金も金利も返済しないまま、30年後に一括返済するというローンだ。・・・中略・・・。
 銀行がこんな長期ローンを販売するのは、明らかに顧客の寿命を計算してのことなのだ。寿命が尽きる日イコール 「返済期日」 に設定しているのである。 (p.63-64)
 むろん、老人が所有する不動産が担保になっている。言葉がどうであれ、日本の老人だって、子供に無視されている身寄りのない老人は、自ら率先して “死神ローン” と同じような融資を受けて生活することを選ばざるを得ないだろう。

 

 

【アメリカの保険制度】
 まったくアメリカの保険制度は面倒この上ないのだ。(p.96)
 企業から派遣されて滞米している人は自覚していないらしいけれど、自分で保険制度を利用しようとすると、とんでもなく面倒な事態が生ずることが、この本に記述されている。しかもその保険の掛金額は日本とはケタが違う感じである。

 

 

【中国人の常識】
 ここで先に中国人の常識をお伝えしておこう。中国人の場合、概して金には執着心が強い。大学教授も皿洗いも日雇い仕事の人も、それぞれの収入レベルに応じて、等しく金儲けに邁進しているのである。無一文で渡ったアメリカでも、5年もすれば家の1軒や2軒は持っていて、その逞しさにはただただ脱帽するしかない。(p.62)
   《参照》   『美しき日本の残像』  アレックス・カー  新潮社  《後編》
              【日本人と中国人の違い】

 

 

【中国人留学生減少の訳】
 ニューヨークタイムズに掲載された 「1999年に全米に滞在している外国人留学生統計」 を読んだら、これまで1位を占めていた中国人が第2位に下がり、替って日本人が初めてトップになったと書いてあった。(p.115)
 経済成長をしている中国なのに、何故・・・、と日本人は思うであろうが、そこが日本人と中国人の常識の違う処である。
 今や中国では、2桁の急激な経済成長を遂げ、中国国内にはビジネスチャンスがゴロゴロ転がっていて、人より早くアイデアを実践して起業すれば、濡れ手で粟のようにウハウハ儲かるのだ。・・・中略・・・。
 だから、のんびり海外留学などしていては時間の無駄だし、時代の波に遅れてしまうから、もう留学などどうでもよくなったというのが、留学生減少の大きな原因になっているらしい。(p.116)

 

 

【3段跳びの中国逃避マネー】
 中国から流れ出た逃避マネーは、今や香港からロサンゼルス、ニューヨークへと、三段跳びでやってくるのである。(p.147)
 中国の汚職と逃避マネーは、中国経済を語る上であまりにも常識的なことなので、特に書き出すつもりもなかったけれど、具体的な事例や中国の汚職に関する数値がテンコモリ書かれていたので、ページのメモ代わりに書き出しておいた。
   《参照》   『中国がうまくいくはずがない30の理由』 福井義高  徳間書店

 

 

【服装に関する日米の認識差】
 アメリカの大学に適応できず中退する娘を引き取りに来るという保護者が、「Tシャツとジーパンで来る」 と言ったことについて、著者が差し挟んだ意見である。
 アメリカ人は服装に構わないというのは誤解で、責任ある立場の人はきちんとした身なりをしているし、なにより大人と子供の区別がはっきりしている。
 日本人はとかく若く見られるから、大人なのか子供なのか、判別しにくい。娘の保護者らしい改まった態度で、大学の責任者に十分な感謝の言葉を述べてこそ、礼儀というものだろう。それにはTシャツにジーパンよりは、スーツ姿のほうが改まって見えるし、信頼に足る大人であることを強調しやすい。英語が話せるかどうかは、2の次、3の次の問題でしかない。(p.121)
    《参照》   『日本人が知らない「日本の姿」』 胡曉子 小学館 
                【品格のない優越感】

 

 

【中国では紳士のマナーは必要ない】
 欧米のビジネスマンたちは、(中国では紳士のマナーは必要ないことを)とっくに知っていたはずだ。それは彼らの足元を見れば歴然としている。
 欧米人、とくにアメリカ人男性が中国ではいている靴は、一般に厚いゴム底のハイキングシューズなのである。普段はあれでアメリカの野山を駆け回ったり、子供とキャッチボールに興じたりしている代物である。
 つまり、彼らは北京の街を荒野と同じに見なしているのである。だから、レディーファーストを含めた多くの西欧流マナーは必要ない国だと承知していて、粗暴でもある。これでアメリカへ帰ったら、ひたすらよい夫、よいパパになるのだから、信じられないほどの豹変ぶりである。(p.161)
 日本に対してはこのような粗暴ぶりを発揮してはいないけれど、欧米人の中国蔑視ぶりは徹底している。
 これを読みながら、イギリス、ケンブリッジのケム川を遊覧する小さなボート上で、欧米人観光客をすっかり辟易させていた黒革ジャンパーの(共産党幹部であろう)中国人観光客の圧倒的尊大ぶりを思い起こしていた。
 欧米 vs 中国、相手を見下すことにおいて、いずれ劣らぬツワモノ同士、良い勝負である。

 

 

【日本人ビジネスマン紳士が中国に滞在した場合の変貌】
 1カ月もすると真っ白なワイシャツが黄ばんで、襟元がしんなりしてきた。貝ボタンもひとつ、ふたつと欠けたり割れたりしている。これは中国の水が硬水で洗剤が役立たず、・・・中略・・・、ボタンが割れるのは洗剤が荒い証拠である。
 それに合わせたように、彼のスーツにも皺が寄るようになった。
 ・・・中略・・・。
 次いで、2か月目頃から彼の髪型が崩れてきた。もう七三の櫛の目どころか、リキッドをつけた形跡もなく、まるで洗い上がりの髪のようにぱさついて、跳ねあがったりしているのだ。
 それもそのはず。北京の春は 「黄砂」 の季節である。・・・中略・・・、これに煽られたらどんな髪型であろうと、一瞬にして総立ちになってしまう。ましてヘアーリキッドなどつけようものなら、べったりと黄色い砂がへばりついて安倍川餅のようになり、いくらシャワーで洗っても落とせない。
 ・・・中略・・・。
 そして夏が過ぎ、秋になる頃、彼は中国製のくすんだグレーのカシミヤのチョッキを、スーツの下に着込んで出勤するようになった。
 ここまで中国になじめば、その後は急な坂を転がり落ちるように、「土着化」 へ向けてまっしぐらである。
 次に来るのは、中国人が日常に履いている中国製の布靴である。土と埃にまみれた革靴を毎日磨くのに疲れていたこともあり、ちょっと興味を示して布靴を履いてみると、これが意外にかるくて柔らかいので、履き心地は抜群なのだ。そして、布靴の虜になってしまうのは時間の問題である。・・・中略・・・、紳士はもうすでに中国人の田舎のおじさんになっている。 (p.163-165)
 これを読んで 「ドッヒャー・・・」 と思いつつ、中国人の髪型に関する無頓着さの理由が納得できたけれど、男性であれ女性であれ、北京への長期出張は誰だって尻込みしたくなるだろう。

 

 

【 “マルドメ” 日本人 】
 外資系日本人バンカーと著者との会話。
「最近は日本人が海外へ出ていくことが多くなったけど、一般の日本人はまだまだマルドメですからねぇ!」
「 “マルドメ” って、なんですか?」
「いやぁ、まるでドメスティックってことですよ。略して ”丸ドメ” ってわけ」
「なあんだ、造語ですね。ニューヨーク在住の日本人がグランドセントラル駅を “グラセン” なんて呼んでいるのと同じじゃないですか。あなたもけっこう軽薄な風潮に毒されていますねぇ!」
 呆れかえったように言うと、彼はちょっと顔を赤らめてくすりと笑った。(p.170)
 特に国際金融の複雑さを自ら理解した上できちんと利用しようとしない日本人顧客に接する機会の多い外資系バンカーさんは、日本人を “マルドメ” であると、つくづく感じているらしい。
 自己責任の欠如、自主性のなさ、依頼心の強い傾向、これらの国際常識から離れた日本人を日本人が揶揄していう言葉である。
 平均的日本人である私は、「 “マルドメ” のどこが悪い?」 と日本人を揶揄する日本人に問い質したい。そもそも、ユダヤ・アングロサクソンのドメスティック基準が先発優位によって国際常識とされているだけではないか。日本人のドメスティック基準に適合しない国際基準など、畢竟するに真の国際基準になどなれはしないのである。あと10年もすればそのことは明確になる。
 
 
<了>
 

  譚璐美・著の読書記録

     『ザッツ・ア・グッド・クエッション!』

     『チャイニーズ・トライアングル』